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2022.05.23
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豪州、9年ぶりの政権交代も、新政権の政策運営は極めて「未知数」
~新首相の「勉強不足」も影響して政策運営は未知数、環境政策が大きく振れるリスクにも要注意~
西濵 徹
- 要旨
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- 豪州では21日に総選挙が実施された。同国ではここ数年、森林火災や洪水被害、コロナ禍対応、その後の物価上昇などが相次ぎ、モリソン政権の逆風となってきた。2019年の前回総選挙では事前の世論調査を覆す形で保守連合が勝利したが、選挙結果は労働党が議席を積み増して勝利を収めた。結果、労働党のアルバニージー党首が新首相に就任して9年ぶりの政権交代が実現した。アルバニージー新首相は閣僚経験を有するも、選挙戦期間中に「勉強不足」が露呈するなど政権運営は極めて未知数と言える。さらに、選挙結果如何では環境政党がキャスティング・ボートを握る可能性もくすぶるなど、環境政策が大きく振れる可能性もある。政権の行方は豪ドル相場も揺さぶる可能性があり、その動向に注目する必要性は高まっている。
豪州では21日、連邦議会下院(代議院:総議席数151)総選挙が実施された。同国では2019年末以降、同国史上最悪とされる森林火災が発生したが、モリソン政権による初動対応の遅れが被害拡大の一因になったとして支持率が低下するとともに、森林火災や洪水被害の元凶とされる地球温暖化問題への対応が注目を集めてきた(注1)。さらに、一昨年来のコロナ禍を巡っては、同国では度々感染が拡大する事態に直面するとともに、感染拡大の中心地となった同国第2の都市メルボルンでは『世界最長』の都市封鎖(ロックダウン)が実施されたほか、最大都市シドニーでも都市封鎖などを通じた行動制限が課されるなど、経済に深刻な悪影響が広がった。当初はワクチン確保に手間取り接種率は主要国のなかでも低水準に留まったものの、その後は加速化が進んだことで強力な行動制限を課す『ゼロ・コロナ』戦略から経済活動の再開を目指す『ウィズ・コロナ』戦略への転換が図られた。しかし、こうしたコロナ禍対応はモリソン政権及び与党・保守連合にとって逆風となる展開が続き、昨年以降に実施された世論調査においては一貫して野党・労働党の支持率が保守連合を上回ってきた。また、昨年後半以降は原油をはじめとする国際商品市況が底入れしたほか、コロナ禍を経た生活様式の変化も相俟って不動産価格も上昇傾向を強めるなか、足下ではウクライナ情勢の悪化も追い風に幅広く商品市況が上振れしてインフレは大幅に上昇するなど、コロナ禍からの景気回復は道半ばのなかで家計部門を取り巻く状況は厳しさを増している。結果、年明け以降の世論調査では野党・労働党が支持率を高める一方、モリソン政権及び与党・保守連合の支持率は一段と低下するなど、選挙戦を巡って苦戦が予想されてきた。他方、2019年の前回総選挙では、世論調査において労働党が保守連合を上回っていたものの、労働党が主張するドラスティックな環境対策を忌避する声に加え、労働党議員が中国共産党と関係が深い中国人富豪から巨額献金を受けていたことが明らかになったことも追い打ちとなり、保守連合が事前予想を覆す形で勝利を収めた経緯がある(注2)。なお、コロナ禍対応を巡ってモリソン政権は中国にその発生源に対する調査を求めたが、これに対して中国政府は豪州からの輸入に対する規制強化など『嫌がらせ』に動いたことで豪州国内では反中感情が高まっており、選挙戦で労働党はモリソン政権による対中強硬姿勢を継続する考えを示してきた。さらに、先月には中国がソロモン諸島との安全保障協定の締結を発表するなど、モリソン政権及び保守連合が看板政策としてきた外交・安全保障政策での『失点』が明らかになったことも、政権及び保守連合にとって逆風となる事態を招いた(注3)。ただし、労働党のアルバニージー党首を巡っては、インフラ・運輸相や副首相など閣僚経験はあるものの、選挙演説に際して失業率や中銀の政策金利が答えられないなど政権担当能力に疑問符が付いたほか、同党が目玉政策に掲げる「障碍者保険の6つの改革」についても答弁出来ないなど『勉強不足』が露呈したため、終盤にかけては保守連合が猛追する動きがみられるなど接戦も予想された。なお、現地報道によれば、選挙結果は保守連合が大幅に議席を減らす一方で労働党が議席数を積み増した模様であり、モリソン首相が敗北宣言を行うとともに、労働党のアルバニージー党首が勝利宣言を行った。この結果を受けて、アルバニージー氏は新首相に就任するとともに新政権が発足するなど、9年ぶりの政権交代が実現した。ただし、アルバニージー新首相を巡っては、上述のように勉強不足が指摘されるとともに、選挙戦では外交政策の詳細も示されないなど、様々な面で『未知数』の状況にあると判断出来る。アルバニージー新首相にとっては就任早々、24日に開催される日米豪印4ヶ国の協力枠組み(Quad)首脳会合が外交デビューの場となるが、上述の通りモリソン前政権の対中強硬姿勢を継続する姿勢を示していることを勘案すれば問題が表面化する可能性は小さいと見込まれる。他方、現時点で判明している労働党の議席数は単独で半数を上回る水準を維持出来ておらず、結果如何では諸派の『環境政党』がキャスティング・ボートを握る可能性が高まっている。その意味では、次期政権の下では環境政策が大きく振れるリスクもくすぶっており、政策能力の行方に注意する必要性が高まっていると判断出来るほか、豪ドル相場を揺さぶる可能性にも留意が必要であろう。
注1 2020年1月15日付レポート「豪州、森林火災の長期化で政権への逆風強まり、豪ドル相場にも重石」
注2 2019年5月20日付レポート「豪総選挙、事前予想を覆して与党・保守連合が「奇跡の」勝利」
注3 5月6日付レポート「豪中銀、約11年半ぶりとなる利上げ実施を決定」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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西濵 徹