4-6月期の高成長は実現できるか

~ゼロコロナ政策による中国経済の混乱が輸出・生産の下押しに~

新家 義貴

要旨
  • エコノミストの予想を集計しているESPフォーキャスト(5月調査)では4-6月期の実質GDP成長率は前期比年率+5.18%と高成長が見込まれている。新型コロナウイルスの感染状況がピークアウトしたことで、抑制されていたサービス消費のリバウンドを見込んでいることが背景にある。

  • 一方、①生活必需品中心の物価上昇、②輸出の下振れ、が懸念材料。物価上昇による実質賃金の減少やマインド悪化が消費の頭を押さえる可能性があるほか、中国経済の悪化が輸出を下押す可能性が高い。上海市などでロックダウンが実施され、中国国内での経済活動に幅広く悪影響が生じていることに加え、サプライチェーンの混乱から世界的にも悪影響が広がる。日本からの輸出も下押しされるほか、生産面への悪影響も懸念される。

  • 4-6月期の景気は持ち直しが予想されるが、コンセンサスからは下振れる可能性が高い。今後、下方修正の動きが出ることが予想される。

消費持ち直しの一方、懸念される輸出の下振れ

5月18日に公表される22年1-3月期の実質GDPはマイナス成長が予想されているが、既に焦点は4-6月期以降の反発度合いに移っている。そこで、日本経済研究センターが集計するESPフォーキャスト(5月調査)でエコノミストのコンセンサスを確認すると、4-6月期は前期比年率+5.18%となっており、高い成長が実現することが見込まれている。もっとも筆者は、こうした高成長予想は裏切られる可能性が高いと考えている。

コンセンサスの高成長予想の背景にあるのが個人消費の回復だ。新型コロナウイルスの感染急拡大により1~2月にかけて個人消費は大きく減少した。しかし、感染者数が2月中旬にピークアウトしたことで人流も持ち直しに転じた結果、月次でみれば3月には既に個人消費の回復がみられている。3月下旬にまん延防止等重点措置が全面的に解除されたこともあって、4月に入っても人出の持ち直しは続き、GWには行楽地がかなりの賑わいを見せた。特にGW後半の5月2日~5日にかけては、天候に恵まれたこともあって、小売・娯楽施設への人出はコロナ前水準を一時的に上回っていた。個別企業の売上等でも4月は持ち直しを示すものが多く、4、5月の個人消費については増加を見込んで良さそうだ。3月に増加したことで4-6月期へのプラスのゲタがあることも加わり、4-6月期の個人消費は相応の反発が期待できるだろう。

小売・娯楽施設への人出
小売・娯楽施設への人出

もっとも、これで4-6月期に年率+5%以上の高成長が実現でき、7-9月期も同+3%を超えてくるかとなると話は別だ。懸念材料は二つ。①生活必需品中心の物価上昇、②輸出の下振れだ。

まず①について、足元ではエネルギー価格の上昇に加え、食料品の値上げが加速している。CPIは22年中は前年比+2%程度で推移するとの見方が多く、賃金の伸びが緩やかななか、実質賃金はマイナスでの推移が続くことになる。購入頻度の高い食料品価格が上昇していることで実際の物価上昇率以上に体感物価は上がっている可能性が高く、心理的な面での悪影響も懸念されるところだ。今のところ、感染抑制を背景にしたリバウンドの力が強く、物価上昇による消費減といった動きは確認できないが、回復初期のリバウンドの動きが一巡するにつれ、悪影響は徐々に顕在化しやすくなることが予想される。GW終了後には人流もGW前の状態に戻っており、今後も消費が一本調子で改善していくとみるのは危険だろう。

加えて懸念されるのは②の輸出の下振れだ。輸出はこれまで、足取りは鈍いながらも落ち込むことは避けられてきたが、4-6月期については下振れる可能性が高い。特に懸念されるのが中国経済の動向である。中国では上海市などでロックダウンが実施され、中国国内での経済活動に幅広く悪影響が生じていることに加え、サプライチェーンの混乱から世界的にも悪影響が広がっている。足元では企業の景況感が大幅に悪化しているほか、工業生産や小売売上高も大きく落ち込んだ。

感染者数自体は既にピークアウトしており、生産活動も徐々に再開されつつあるものの、現時点でもまだ厳しい制限は残っている。今後制限が緩和されていくにしても、少なくとも4-6月期に関してはマイナスに作用せざるを得ない。中国の4-6月期GDPは前期比でマイナスに転じる可能性があり、前年比でもはっきり伸びが鈍化するだろう。

こうした中国経済の混乱は周辺のアジア諸国にも悪影響を及ぼす可能性が高く、日本からの中国・アジア向け輸出は4~5月に落ち込むことが予想される。ESPフォーキャストでは4-6月期の実質輸出は前期比+0.88%と増加傾向が続くことが予想されているが、筆者は前期比で減少に転じる可能性が高いと予想している。また、こうした輸出の下振れに加え、物流の混乱に伴う部品不足等を背景として、自動車メーカーを中心に5月以降の生産計画を下方修正する動きが相次ぐなど、日本企業の国内生産にも悪影響が及んでいる。これらは、4-6月期のGDPにとって明らかに逆風となる。

中国・製造業PMI
中国・製造業PMI

中国・製造業PMI
中国・製造業PMI

中国・サービスPMI
中国・サービスPMI

こうした状況を踏まえると、4-6月期の前期比年率+5%台の高成長予想は楽観的のように思える。4-6月期の景気が持ち直すことについては同意するが、成長率の大きさについてはコンセンサスから下振れる可能性が高いとみている。今後、経済指標の公表が進むにつれ、次第にコンセンサスが下方修正されていく展開を予想する。

新家 義貴


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新家 義貴

しんけ よしき

経済調査部・シニアエグゼクティブエコノミスト
担当: 日本経済短期予測

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