マクロン勝利も二期目の政権運営への不安

~現状不満層の反発、議会基盤、改革の推進力~

田中 理

要旨
  • フランス大統領選・決戦投票はマクロン大統領の勝利に終わったが、極右のルペン候補との得票率の差は2017年の前回選挙から大きく縮まった。経済・雇用情勢の好転にもかかわらず、マクロン大統領が苦戦を強いられたのは、同氏の主張や政策がフランス国民への訴求力に欠けていることを意味する。今回の選挙戦の争点は資源価格の高騰で厳しさを増す国民生活で、ルペン候補やメランション候補の主張が低所得者層の支持を集めた。マクロン大統領の二期目の政権運営は、こうした現状に不満を持つ有権者からの抵抗が予想され、改革の推進力は停滞しよう。

2017年の前回選挙と同じ顔ぶれとなったフランス大統領選の決選投票は、現職のエマニュエル・マクロン大統領が、極右政党・国民連合(前回選挙では国民戦線)のマリーヌ・ルペン候補を破り、再選を決めた。フランスで現職大統領が再選されるのは20年振りとなるが、マクロン大統領が国民から全幅の信頼を勝ち得たと受け止める向きは少ない。前回の決選投票で32%ポイントあった両候補の得票率の差は、今回は開票率95%の速報段階で14%ポイント差に縮まった(図表1)。極右大統領の誕生を再び阻止したものの、フランス国民の間でマクロン大統領の人気が低迷していることや極右アレルギーが薄れてきたことを裏付ける結果だった。

(図表1)フランス大統領選・決選投票の得票率
(図表1)フランス大統領選・決選投票の得票率

選挙戦の争点となったのは、資源価格の高騰で厳しさを増す国民生活だった。各種の世論調査では、大統領選で誰に投票するかを決定するうえで重視する問題の最上位に、物価や所得環境などの暮らし向きを表す「購買力」が並び、「気候変動」や「移民」といったその他の重要課題を上回った(図表2)。2017年の大統領選が、移民問題やフランスのユーロ離脱などが重要争点となり、ルペン候補は自身をイスラム移民から国民を守る「愛国主義者」、マクロン氏を欧州統合推進派の「グローバル化の信奉者」として対比させた。ルペン候補は今回の選挙戦で、フランスのユーロ離脱(フレグジット)の主張や、ロシアのプーチン大統領への支持を撤回した。自身を物価高騰や生活苦から国民を守る「愛国主義者」としてアピールし、物価高騰から国民を守っていないとして、マクロン政権の対応を糾弾した。対するマクロン大統領は、コロナ危機やウクライナ危機対応に追われ、選挙戦への本格参戦が遅れた。公約も過去5年間で積み残した年金改革の継続など新鮮味に欠け、黄色いベスト運動に象徴される「金持ち優遇」のイメージを払拭することができなかった。

(図表2)仏大統領選(初回投票)での投票を左右する事項
(図表2)仏大統領選(初回投票)での投票を左右する事項

フランスは長らく経済凋落と競争力低下に見舞われてきたが、マクロン大統領の就任後の経済パフォーマンスは決して悪くない。悪くないどころか、歴代大統領の中でも非常に好パフォーマンスだ。就任当時9%を超えていたフランスの失業率は、新型コロナウイルスの感染拡大による都市封鎖(ロックダウン)の影響で一時急上昇したが、一時休業制度の積極活用もあり、その後は速やかに回復軌道に復帰し、今年2月には7.4%まで低下した(図表3)。フランス経済はコロナ禍の経済的な打撃からの回復も早く、他のユーロ圏諸国に先んじて、昨年7~9月期にコロナ危機前の国内総生産(GDP)の水準を回復した。資源価格高騰による国民生活の打撃を軽減するため、ガス料金の値上げ凍結や低所得者向けの給付金支給などの対策を打ち出し、フランスの消費者物価は他のユーロ圏諸国ほど上がっていない。

(図表3)マクロン大統領就任後のフランスの失業率
(図表3)マクロン大統領就任後のフランスの失業率

経済・雇用情勢の好転にもかかわらず、マクロン大統領が苦戦を強いられたのは、同氏の主張や政策がフランス国民への訴求力に欠けていることを意味する。決選投票では前回同様に反極右票を集めて勝利した形だが、初回投票ではフランス国民の半数以上が極右と極左の候補に投票した(図表4)。共和党と社会党の伝統的な二大政党の候補が合わせて7%弱の支持しか獲得できなかったにもかかわらず(前回は26%)、マクロン大統領の得票が伸び悩み、極右と極左候補に中道票が侵食されている。初回投票で22%の支持を集めた極左のジャン=リュック・メランション候補の支持者の多くが決選投票では棄権に回ったことに、マクロン大統領は助けられた。無論、初回投票で極右や極左の候補に投票した有権者の多くは極右や極左思想の持主ではない。国民生活の改善に焦点を当てたルペン候補やメランション候補の公約が低所得者層の支持を集めたのだ。マクロン大統領の二期目の政権運営は、こうした現状に不満を持つ有権者からの抵抗が予想され、改革の推進力は停滞しよう。

(図表4)フランス大統領選・初回投票の得票率(%)
(図表4)フランス大統領選・初回投票の得票率(%)

二期目の政権運営を占ううえで注目されるのが、6月12日(初回投票)と19日(決選投票)の国民議会(下院)選挙の行方だ。前回の選挙では、大統領選でのマクロン氏の勝利を受け、同氏が旗揚げしたばかりの中道政党・共和国前進が過半数の議席を獲得し、その後の政権運営の基盤を築くことに成功した。だが、選挙基盤が弱い共和国前進はその後の地方選挙で苦戦が続き、昨年の地域圏議会選挙では8.8%の支持しか集めることができなかった(図表5)。国民議会選挙は一般に大統領選の結果に大きく左右される。そのため、大統領選の結果が判明するまでは、投票を占う世論調査は発表されない。今回のマクロン大統領の勝利を受け、フランス国民が大統領の公約実現に向けて共和国前進に投票するのか、公約阻止に向けて他党に投票するのかは流動的だ。

フランスでは大統領が主に外交を、首相が内政を担う双頭体制で国政を運営する。大統領は首相の任命権を持つが、国民議会が首相の不信任を決めることができるため、議会の多数派が支持する首相を任命する必要がある。議会優位の前体制の統治能力喪失への反省から、フランスの大統領は強い権限を持つが、マクロン大統領が改革を実行するには、議会基盤を確保することがやはり不可欠だ。共和国前進の選挙基盤の弱さ、マクロン大統領の政策訴求力の弱さを考えると、6月の国民議会選挙で共和国前進が過半数の議席を獲得できるかは不安が残る。小選挙区制で行われる国民議会選挙は、大統領選挙と同様に、初回投票で50%以上の支持を得る候補がいない場合、決選投票で勝者を決める。大統領選では初回投票の上位2名が決選投票に進出するのに対し、国民議会選挙では初回投票で12.5%以上の支持を獲得した候補の全てが決選投票に進出する。3候補や4候補が決選投票に進出することで、思わぬ投票結果となることもある。共和国前進が単独で議会の過半数を確保できない場合、他の中道政党、ポスト・マクロンの座を狙うエドゥアール・フィリップ前首相が旗揚げした新党、伝統的な右派政党である共和党の一部が、マクロン大統領の議会運営を助ける可能性がある。大統領選挙での惨敗を受け、国民議会選挙前後の共和党や社会党の分裂の動きにも注意が必要となろう。

(図表5)2021年フランス地域圏議会選挙の結果
(図表5)2021年フランス地域圏議会選挙の結果

以上

田中 理

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