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ECBの利上げ開始

~いつからの結論はまだ先、6月にお会いしましょう~

田中 理

要旨
  • ECBは4月の理事会で7~9月期中の資産買い入れ終了を明言したが、その具体的な時期やその後の利上げ開始時期についてのヒントはなかった。次回6月9日の理事会で、7月の資産買い入れ終了が決定される可能性が高い。足許で賃上げ加速や価格転嫁を示唆する事象が増えており、ECBは早期の利上げ開始を視野に入れているものと判断。9月の利上げ開始を予想する。ユーロ圏は労働需給の逼迫や価格転嫁が顕著な米国とは異なり、漸進的な利上げを示唆しており、10月の連続利上げは見送り、12月の追加利上げを予想する。年内50bpの利上げで、下限の政策金利はゼロ%に到達するとみる。

資産買い入れの終了と利上げ開始に向けたECBの政策スタンスに注目が集まった4月の理事会は、7~9月期中の買い入れ終了を事実上明言したものの(前回は買い入れ終了を示唆)、その具体的な時期や、その後の利上げ開始時期を示唆する発言は聞かれなかった。タカ派傾斜を見込んでいた為替市場はユーロ安に振れた後、やや戻している。

ウクライナ情勢を巡る不透明感が続き、企業や家計心理が大きく冷え込む一方、エネルギー価格の高騰に起因する物価の大幅な上振れが続いており、幅広い分野でインフレ圧力が強まっている。ラガルド総裁は「景気の下振れリスクが大幅に高まった」と発言すると同時に、「インフレ圧力が広がり、物価の上振れリスクが高まり、インフレ期待が高まる兆しに注意が必要」とも述べ、ハト派傾斜・タカ派傾斜のどちらとも受け取れる。

前回3月の理事会以降に発表された経済データは、7~9月期中の資産買い入れプログラム(APP)の終了を裏付ける内容で、今後の経済データやウクライナ情勢を踏まえて、スタッフ見通しが発表される次回6月9日の理事会で、具体的な買い入れ終了時期が決定される可能性が高い。ECBは3月に買い入れ縮小を前倒しすることを決定し、4~6月期中の月額買い入れ額は、4月に400億ユーロ、5月に300億ユーロ、6月に200億ユーロと1ヶ月毎の漸減を見込む。ここから買い入れ縮小を加速ないし減速する理由は特段見当たらず、7月の100億ユーロで新規の資産買い入れは終了するとみる。

ラガルド総裁は理事会後の記者会見で、①新規の資産買い入れ終了後に利上げを開始する順番を変えないこと、②買い入れ終了から利上げを開始するまでの「しばらくしてから」の期間とは、「1週間から数ヶ月を意味する」と発言した。資産買い入れ終了と利上げ開始の時期を特定することを避けたが、足許で賃上げ加速や価格転嫁を示唆する事象が増えており、ウクライナ情勢の急転(例えばロシアの欧州向けガス供給が停止されるなど)による景気の下振れリスクが大幅に高まらない限り、早期の利上げ開始を視野に入れているものと判断される。7月の資産買い入れ終了後、9月の利上げ開始を予想する。6月の資産買い入れ終了と7月の利上げ開始、7月の買い入れ終了と同時に利上げを開始するには、ウクライナ情勢の不透明感払拭や差し迫ったインフレ圧力の高まりが必要とみられ、何れも可能性が低いと考える。

ユーロ圏でも賃上げや価格転嫁の初期的兆候がみられるとは言え、労働需給の逼迫や価格転嫁が顕著な米国や英国、資源国のニュージーランドやカナダ、インフレ耐性が弱い新興国とは環境が異なる。ウクライナ情勢による経済的な打撃が他国よりも大きく、他の中銀のような毎会合での利上げや利上げペースの加速は想定されない。初回利上げの効果と金融環境の変化を見極めるため、10月の理事会では追加利上げを見送り、12月の追加利上げを予想する。こうした利上げ見通しは、ラガルド総裁が再三繰り返す「漸進主義」とも合致する。25bp刻みの利上げ×2回で、現在▲0.50%の預金ファシリティ金利は、年末までにゼロ%に達するとみる。

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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