仏大統領選はマクロン対ルペン再び

~薄れる反ルペン感情、物価高はマクロン再選の逆風~

田中 理

要旨
  • フランス大統領選挙の初回投票は、現職のマクロン大統領が逃げ切り、二番手につけた極右のルペン候補とともに、24日の決選投票に臨む。勝敗の鍵を握るのは、初回投票で脱落した候補を支持した有権者の投票行動だろう。今のところマクロン再選の可能性が上回るが、ルペン候補の勢いと前回に比べた選挙戦での安定感、物価高騰への国民の不満の高まり、選挙戦直前のコンサルティング会社を巡る疑惑浮上、投票率の低下など、前回の決選投票時ほどの楽勝ムードはない。

4月10日に行われたフランス大統領選挙の初回投票は、再選を目指すエマニュエル・マクロン大統領と、極右政党「国民連合」を率いるマリーヌ・ルペン候補が決選投票への進出を決めた。97%時点の開票速報によれば、選挙戦終盤での失速が目立ったマクロン大統領が27.4%で最多票を獲得して逃げ切り、直前の世論調査でマクロン大統領に迫ったルペン候補が24.0%と差を詰め切れなかったが、決選投票への進出を賭けた二番手争いを制した(図表1)。極左政党「不服従のフランス」のジャン=リュック・メランション候補が21.7%と事前の世論調査以上に善戦したが、決選投票に進出する上位2名には届かなかった。新たな極右候補として旋風を巻き起こしたエリック・ゼムール候補は終盤で大きく失速し、7.0%の得票率にとどまった。また、第五共和制下で多くの大統領を輩出し、長年フランス政界を引っ張ってきた二大政党は振るわず、右派「共和党」のヴァレリエ・ペクレス候補が4.7%、左派「社会党」のアンヌ・イダルゴ候補が僅か1.7%の得票率に沈んだ。24日に行われる決選投票では、2017年の前回選挙と同じくマクロン候補とルペン候補が対峙する。

(図表1)フランス大統領選挙・初回投票の結果
(図表1)フランス大統領選挙・初回投票の結果

今回の選挙では、社会党や環境政党「欧州エコロジー=緑の党」などの左派政党が統一候補の擁立に失敗したことに加えて、ルペン=ゼムールの両極右候補とペクレス候補の3人が熾烈な二番手争いを繰り広げ、右派寄りの有権者をお互いに奪い合った結果、中道路線を取るマクロン大統領が終始安定したリードを保ってきた(図表2)。ロシアによるウクライナ進攻後は、危機下の指導力発揮や「旗の下への結集効果」から、マクロン大統領の支持率は一時30%を超え、他候補との差を広げた。だが、ウクライナ情勢緊迫化によるマクロン大統領への追い風は長続きせず、初回投票日が近づくにつれ、ルペン=メランションの両候補が猛烈な追い上げをみせた。選挙戦の最終盤では、支持する候補者が決選投票に進出する望みがなくなった右派寄りの有権者の一部がルペン候補に、左派寄りの有権者の一部がメランション候補に流れたことも、両者の支持拡大につながった。

(図表2)フランス大統領選・初回投票の世論調査
(図表2)フランス大統領選・初回投票の世論調査

今回の選挙戦でのフランス国民の最大の関心時は、移民問題や気候変動対策ではなく、物価高騰による家計購買力の目減りを挙げる声が多い(図表3)。フランス政府は資源価格高騰による打撃を軽減するため、ガス料金の値上げ凍結、電力料金の値上げ幅抑制、低所得者向けの給付金支給などの対策を打ち出しているが、国民の多くは政府の対応が十分ではないと感じている。追い上げをみせた2候補は何れも低所得層に配慮した政策が目立つ。極右のイメージが先行するルペン候補は、移民の受け入れに懐疑的な主張を続けているものの、ウクライナからの逃避民の受け入れに賛成しているほか、フランスの欧州連合(EU)からの離脱(フレグジット)の主張を封印し、政策を穏健化している。極右思想の有権者がゼムール支持に流れたこともあり、ルペン候補の主たる支持者は低所得者層や現状不満層が中心となっている。富裕税の再導入、減税、年金支給開始年齢の引き下げなどの政策メニューが並ぶ。最左派のメランション候補は、極左思想の有権者や現状に不満を抱える若者の支持を集める。最低賃金の引き上げ、労働時間の更なる削減、年金支給開始年齢の引き下げ、財政拡張、原発廃止などを主張する。

(図表3)仏大統領選(初回投票)での投票を左右する事項
(図表3)仏大統領選(初回投票)での投票を左右する事項

初回投票の結果が判明する以前に集計された決選投票の世論調査では、ルペン候補がマクロン大統領を追い上げている(図表4)。一時は10%ポイント以上の差に広がった両者の支持率は、一部の調査では2%ポイント差まで縮まっている。初回投票の結果を受けた決選投票の世論調査に注目が集まる。前回2017年の大統領選挙の決選投票で対峙した両者は、初回投票で別の候補を支持した有権者の多くが極右大統領の誕生を阻止するためにマクロン氏に投票した結果、マクロン候補が66.1%、ルペン候補が33.9%の票を獲得し、マクロン氏が大差で勝利した。20日には両候補が対峙するテレビ討論会が予定されている。前回の決選投票直前のテレビ討論会では、極端な政策主張が目立ったルペン候補が守勢に回り、マクロン候補の勝利を決定づけた。今回は最大の焦点となる物価高対策を巡って、ルペン候補がマクロン大統領を攻撃する場面も目立ちそうだ。また、初回投票の直前には、フランス政府による大手コンサルティング会社への巨額の業務発注が発覚し、金融検察局が脱税疑惑の予備捜査を開始した。フランス政府は業務発注の違法性を否定しているが、マクロン陣営にとって逆風となりそうだ。燃料税引き上げに反対した「黄色いベスト運動」に象徴されるように、法人税率引き下げや労働市場改革など、競争力強化を重視するマクロン大統領の政策には、大企業や金持ち優遇との批判もつきまとう。

(図表4)フランス大統領選・決選投票の世論調査
(図表4)フランス大統領選・決選投票の世論調査

決選投票での勝敗の行方を左右するのは、初回投票で脱落した候補を支持した有権者の投票行動だろう。初回投票の結果判明後、ゼムール氏がルペン候補への投票を呼び掛けた一方、ペクレス氏やイダルゴ氏など他の多くの候補はマクロン大統領への投票を呼び掛けた。初回投票で20%以上の票を獲得したメランション氏はルペン候補に投票しないように呼び掛けると同時に、マクロン支持を明言していない。メランション支持の有権者は、反ルペンであると同時に反マクロンであることが多い。各種の世論調査によれば、初回投票でゼムール候補を支持した有権者の多くがルペン支持に回る一方、社会党のイダルゴ候補や環境政党「欧州エコロジー=緑の党」のヤニック・ジャド候補など左派系候補を支持した有権者の多くがマクロン支持に回る可能性が高い(図表5)。ただ、1ヶ月程前の同調査と比べて、全般に決選投票ではルペン候補に投票するとの回答が増えている。決選投票でルペン候補がマクロン大統領を逆転するには、メランション支持層の投票行動に加えて、ペクレス候補に投票した共和党支持の有権者をマクロン候補から奪うことや、社会党など左派系候補を支持した有権者の棄権票が増えるかが鍵を握りそうだ。

(図表5)フランス大統領選・初回投票と決選投票の投票者遷移
(図表5)フランス大統領選・初回投票と決選投票の投票者遷移

フランスの大統領選挙は歴史的に投票率が高いが、今回の大統領選挙では有権者の投票意欲が余り高くない。初回投票の投票率は73.2%と前回の77.8%を下回り、ルペン候補の父親のジャン=マリ・ルペン氏が決選投票に進出した2002年の71.6%以来の低投票率にとどまった(図表6)。決選投票が行われる4月24日は学校の春休みと重なるうえ(フランスの学校祝日は3つの地域毎で異なるが、3地域ともに同日が春休みに含まれる)、フランスでは郵送・オンライン投票や期日前投票が認められていない。マクロン再選で決まったと思われた選挙戦が接戦となったことで、決選投票の投票率が上がる可能性もある。その場合、マクロン大統領にとって有利に働こう。なお、24日のフランス各地の天気予報を確認したところ、曇り時々雨の予報が多い。

(図表6)フランス大統領選挙の投票率
(図表6)フランス大統領選挙の投票率

接戦が予想されるとは言え、今のところマクロン大統領が再選する可能性が上回るが、ルペン候補の勢いと前回に比べた選挙戦での安定感、物価高騰への国民の不満の高まり、選挙戦直前のコンサルティング会社を巡る疑惑浮上、投票率の低下など、前回の決選投票時ほどの楽勝ムードはない。マクロン大統領が再選を果たした場合も、前回選挙で旗揚げした中道政党「共和国前進」が6月の国民議会(下院)選挙で議会の過半数を確保できるかは予断を許さない。二期目の政権運営は一段と難しさを増すことが避けられない。ルペン候補が勝利した場合、フレグジットの主張を封印したとは言え、北大西洋条約機構(NATO)やEUに懐疑的な姿勢や、財政赤字の拡大などが不安視されよう。フランスとEUの命運を握る決選投票まで、残すところ2週間を切った。

以上

田中 理

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