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2022.03.02
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豪州景気はコロナ禍からの復調が進むも、中銀は「忍耐強さ」を強調
~オミクロン株による景気への悪影響が懸念されたが早くも克服の模様、中銀は緩和姿勢維持の方針~
西濵 徹
- 要旨
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- 年明け以降の豪州では、オミクロン株による新型コロナウイルスの感染急拡大が景気に冷や水を浴びせることが懸念された。ただし、同国はワクチン接種が進むなかで「ウィズ・コロナ」戦略を維持している。足下の感染動向は依然収束にほど遠いものの、豪政府は経済活動の正常化の取り組みを着実に前進させている。これは、総選挙が近付くなかで若年層を中心に政府の新型コロナ禍対策への反発が強まっていることがある。
- 昨年末にかけての感染動向の改善、「ウィズ・コロナ」戦略への転換も重なり、昨年10-12月の実質GDP成長率は前期比年率+14.43%と2四半期ぶりのプラス成長に転じるなど景気は底入れの動きを強めている。雇用環境の改善やペントアップ・ディマンドの発現が家計消費を押し上げるとともに、企業部門の設備投資も底入れするなど民間需要主導による自律回復が進んでいる。感染再拡大による景気への悪影響が懸念されたが、企業マインドは早くも改善するなど、実体経済への影響は比較的早期に収束しているとみられる。
- 中銀は昨年9月以降断続的に金融政策の正常化を図っている。他方、足下の不動産市況は上昇しており、インフレ率も上振れするなかで国際金融市場には中銀が早期の利上げを迫られるとの見方が出ている。こうしたなか、中銀は1日の定例会合で政策金利を据え置くとともに、ウクライナ問題を新たなリスク要因と認識した上で、忍耐強く現行の緩和姿勢を維持する考えを改めて強調した。金融市場における利上げ観測は豪ドル相場の底入れを促す一方、当面の豪ドル相場は市場環境に応じて上下双方に振れる展開が予想される。
年明け直後の豪州を巡っては、昨年末に南アフリカで確認されたオミクロン株により新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染が急拡大する事態に見舞われるなど、景気を取り巻く状況の急変が懸念された(注1)。なお、オミクロン株は他の変異株に比べて感染力は極めて高い一方、陽性者の大宗を無症状者や軽症者が占めるなど重症化率が低いとされ、欧米など主要国においてはワクチン接種の進展も追い風に経済活動の正常化を図る『ウィズ・コロナ』戦略が維持された。豪州のワクチン接種動向を巡っても、完全接種率(必要な接種回数をすべて受けた人の割合)は8割弱、部分接種率(少なくとも1回は接種を受けた人の割合)も8割強である上、昨年11月に開始された追加接種(ブースター接種)を受けた割合も先月末時点で44.70%に達するなど、世界的にみても大きく進んでいる。よって、豪政府はワクチンの追加接種の対象を広げるなど接種の加速化を図りつつ、経済活動の正常化を図る『ウィズ・コロナ』戦略を維持してきた。しかし、年明け以降における新規陽性者数の急増に伴い医療機関や検査施設への圧力が強まるとともに、感染予防に向けた行動規制の動きが広がった。結果、昨年末にかけて底入れの動きを強めてきた人の移動は年明け以降に一転して下押し圧力が掛かるなど、景気に冷や水を浴びせることが懸念される。なお、同国内における新規陽性者数は1月末に遡及計上が行われて大きく上振れしたことも影響して、新規陽性者数は高止まりする展開が続いてきた。ただし、人口100万人当たりの新規陽性者数(7日間移動平均)は先月半ばを境に頭打ちするなど感染動向はピークアウトしつつあるものの、足下においても800人程度と依然として『感染爆発』が意識される水準で推移している上、死亡者数も拡大傾向が続いている。よって、足下の豪州は感染収束にはほど遠い状況にあると判断出来るものの、豪政府は先月21日からワクチン接種完了者を対象とする国境再開に動くなど、『ウィズ・コロナ』戦略を一段と強化する取り組みを前進させている。こうした背景には、同国では今年9月までに連邦議会下院(代議院)総選挙が行われる『政治の季節』が近付いているなか、長期に亘る行動制限の実施を受けて若年層を中心に政府の新型コロナ禍対応への反発が強まっていることも影響している。
なお、上述のように昨年末にかけては新規陽性者数が減少傾向を強めるなど感染動向の改善が進むとともに、政府による『ウィズ・コロナ』戦略への転換を受けた経済活動の活発化も追い風に、人の移動は底入れの動きを強めるとともに企業マインドも改善するなど、景気の底入れに繋がる動きが確認された。事実、こうした動きを反映して昨年10-12月の実質GDP成長率は前期比年率+14.43%と前期(同▲7.29%)から2四半期ぶりのプラス成長に転じるとともに、中期的な基調を占める前年同期比ベースの成長率も+4.2%と前期(同+3.9%)から加速するなど底入れの動きを強めている。実質GDPの水準も新型コロナ禍の影響が及ぶ直前である2019年末時点と比較して+3.4%程度上回るなど、新型コロナ禍の影響を着実に克服しつつある。なお、昨年通年の経済成長率は+4.7%と前年(▲2.2%)から2年ぶりのプラス成長に転じるとともに、プラス幅は1998年(+4.9%)以来となる高水準となったものの、統計上のゲタが+2.3ptと大幅なプラスとなっていることを勘案すれば、実力ベースでは新型コロナ禍前と同程度と捉えられる。需要項目別の動きをみると、欧米を中心とする世界経済の回復が進んでいるものの、最大の輸出相手である中国との関係悪化が輸出の足かせとなる一方、感染動向の改善による行動制限の緩和を受けた雇用環境の改善やペントアップ・ディマンドの発現も追い風に家計消費は大きく押し上げられたほか、企業部門の設備投資意欲も底打ちする動きがみられる。他方、景気回復が進む背後では不動産市況の上昇によるバブル化が懸念されるなか、中銀(豪州準備銀行)は昨年9月以降段階的に金融政策の正常化に向けた取り組みを進めており、こうした動きも影響して不動産投資に下押し圧力が掛かる動きがみられる。総じて足下の豪州景気は民間需要がけん引役となる形で自律的な回復の動きを強めていると捉えられる。分野別の生産の動きも、家計消費の活発化を追い風に幅広くサービス業の生産が上振れしているほか、経済活動の正常化の動きを反映して製造業や建設業の生産も拡大しており、農林漁業の生産も堅調に推移するなど景気の底入れを促している。なお、上述のように年明け以降のオミクロン株による感染動向の悪化による景気を取り巻く環境の急変が懸念されるものの、政府による『ウィズ・コロナ』戦略の維持を追い風に雇用は堅調な推移をみせているほか(注2)、企業マインドも1月に下振れするも2月には早くも底入れして昨年末時点を上回る水準に回復するなど、悪影響は比較的早期に収束しているとみられる。
一方、上述のように中銀は昨年9月以降段階的に金融政策の正常化に向けた取り組みを進めているものの、新型コロナ禍を経た生活様式の変化による住宅需要の活発化も影響して、大都市部を中心に不動産市況は上昇傾向を強める展開が続いている。さらに、国際原油価格の上昇によるエネルギー価格の上振れのほか、新型コロナ禍によるサプライチェーンの混乱、国際金融市場での豪ドル安による輸入物価の押し上げも重なり、足下のインフレ率は3四半期連続で中銀の定めるインフレ目標を上回る推移が続くなどインフレが懸念される状況に直面している(注3)。よって、国際金融市場においては一部で中銀が『タカ派』姿勢への傾斜を強めるとの見方が出ている一方、中銀は先月の定例会合において量的緩和政策の終了を決定するも『忍耐強さ』を強調する姿勢をみせるなど難しい対応を迫られている(注4)。こうしたなか、中銀は1日の定例会合において政策金利であるオフィシャル・キャッシュ・レートを0.10%、為替決済残高に対する金利をゼロに据え置く従来の緩和姿勢を維持する決定を行った。会合後に公表された声明文では、世界経済について「新型コロナ禍からの回復が続いているが、ウクライナ問題の行方が新たな不透明要因となっている」とした上で、「国際商品市況が上振れするなど物価動向に影響を与える」との認識を示した。一方の同国経済は「引き続き底堅く、マクロ経済政策も経済成長を支えることが期待される」一方、「雇用も堅調に推移しているものの、賃金の伸びは依然として新型コロナ禍前を下回る」との見方を示した。その上で「インフレ率は想定を上回る上振れが続いているが、世界的にみれば依然低水準である」とした上で、「コアインフレ率は向こう数四半期で一段と上振れるものの、供給制約の解消や消費行動の正常化を反映して来年には落ち着きを取り戻す」との見通しを示した。金融市場環境については「依然として非常に緩和的」とした上で、豪ドル相場について「過去1年ほどの安値圏で推移している」ほか、住宅価格も「一部の都市で上昇ペースは鈍化したが、依然大幅な上昇が続いている」との認識を維持している。その上で、先行きの政策運営については「インフレ率が持続的に目標域に収まるまでは政策金利を引き上げない」との考えを改めて示す一方、「足下のインフレ率が持続的に目標域に収まったと結論付けるのは時期尚早」、「足下のエネルギー価格の動向や供給制約の解消が進んだ場合もインフレ圧力がどの程度持続するか不透明」、「賃金の伸びが物価と整合的になるには時間を要する公算が高い」ことを理由に「物価に与える様々な要因を監視しつつ忍耐強く対応する用意がある」と現行の緩和姿勢の維持を強調する考えをみせた。足下の国際金融市場においては、米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀が『タカ派』姿勢を強めているものの、ウクライナ問題を巡る不透明感などを理由とする国際原油価格の急騰がインフレ要因となる懸念がくすぶるなか、上述のように豪中銀が金融引き締めを迫られるとの見方も影響して豪ドル相場は底入れしている。ただし、豪中銀は早晩金融引き締めを迫られる可能性がある一方、忍耐強さを強調する姿勢も崩しておらず、当面の豪ドル相場は市場環境に応じて上下双方に振れやすい展開が続くことが考えられる。
注1 1月7日付レポート「豪州、新型コロナ禍の状況急変、景気回復シナリオに狂いが生じるか」
注2 2月18日付レポート「豪州の雇用は「ウィズ・コロナ」で底入れが続く(Asia Weekly (2/11~2/18))」
注3 1月28日付レポート「NZ、豪州両国でインフレが一段と顕在化(Asia Weekly (1/24~1/28))」
注4 2月1日付レポート「豪中銀は量的緩和の終了決定も、先行きも「忍耐強い緩和維持」を強調」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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