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英BOEは連続利上げ

~米FRBより一足先にQTも開始~

田中 理

要旨
  • 昨年12月に利上げを開始した英イングランド銀行(BOE)は、物価の大幅上振れや労働需給の逼迫を警戒し、2月の金融政策委員会(MPC)で連続利上げを決定。同時に、量的緩和を通じて保有する国債や社債の満期償還時の再投資を停止することを決め、近くバランスシートの縮小(量的引き締め)にも着手する。今回の決定では4名の委員がより大幅な利上げを主張した。筆者は従来、BOEが5月と8月に追加利上げに踏み切ると予想してきたが、追加利上げの時期が3月と5月に前倒しされる可能性が高まった。

英イングランド銀行(BOE)は3日、前日に終わった金融政策委員会(MPC)で、政策金利を0.25%から0.50%に25bp引き上げることを、賛成5・反対4の賛成多数で決定したことを明らかにした。反対した4名の委員(ハスケル、マン、ラムスデン、ソンダース)は、さらなる値上げの動きや賃上げ加速の兆しが広がっており、中期的な物価目標の達成にはさらに踏み込んだ金融引き締めが必要との判断から、50bpの利上げを主張した。

昨年12月のMPCでコロナ危機後で初の利上げを開始して以降、英国ではインフレ率の一段の加速や労働需給の逼迫を確認する経済データが相次いでいる。昨年12月の消費者物価は前年比+5.4%と1990年代初頭以来の水準に加速し、前回の金融政策レポート(昨年11月時点)でのBOEの見通しを大きく上回って推移している。ウクライナ情勢の緊迫化などを背景に原油や天然ガス価格の高騰が続いているうえ、BOEの政策発表を前にエネルギー業界の監督機関Ofgemは同日、標準的な世帯が支払う電力・ガス料金の上限を4月から54%引き上げることを発表した。今後もインフレ率の一段の加速が避けられない。

同時に発表された金融政策レポートでは、向こう数ヶ月の消費者物価は一段と上昇率が加速し、4月に前年比で7%を超えてピークを付けるが、2022~2023年を通じて昨年11月時点の見通しと比べて大幅に上方修正した(図表1)。新たな見通しでは、政策金利を今回利上げ後の0.50%に据え置いた場合、消費者物価が2025年初頭の予測最終期まで2%の物価目標を上回り続けると予想する(図表2)。2023年末までに約100bpの追加利上げを織り込む先物金利を前提とした場合、消費者物価は2024年央以降に2%の物価目標を下回ると予想する。こうした見通しは、向こう半年のエネルギー価格が先物価格と同じように推移し、その後は横這いで推移することを前提としている。BOEは半年後以降もエネルギー価格が先物価格と同じように推移する場合(価格下落を見込む)、向こう2~3年の消費者物価が約0.75%ポイント下振れすると試算している。このことは、2月の金融政策レポートの経済・物価見通しが実現する場合、今後も追加利上げが必要となることを意味するが、先物金利が想定する約100bpの追加利上げはやや行き過ぎであるとBOEが判断していることを示唆する。

今回の政策委員会で4名の委員がより大幅な利上げを主張したが、そのことは前倒しで利上げが行われる可能性を高める一方で、利上げの最終到達点が従来の想定以上に高くなることを必ずしも意味しない。筆者は従来、金融政策レポートの発表月である5月と8月の追加利上げを見込んできたが、追加利上げの時期が3月と5月に前倒しされる可能性が高まった。

今回の利上げにより、BOEが資産買い入れを通じて保有する国債や社債の満期償還分の再投資を停止する政策金利の水準と説明してきた0.50%に達した。BOEは今回、再投資を停止することを全会一致で決定し、3月に予定する約300億ポンドの国債償還を皮切りに、バランスシートの縮小(量的引き締め:QT)に着手する。加えて、2023年末までに約200億ポンド保有する社債の売却を完了させる計画を発表した。昨年8月の政策指針で示した通り、保有する国債の売却によるバランスシートの本格縮小を開始するのは、政策金利が1.0%に到達して以降になると説明している。

(図表1)BOE金融政策レポートの消費者物価見通し
(図表1)BOE金融政策レポートの消費者物価見通し

(図表2)政策金利の想定に応じたBOEの消費者物価見通し
(図表2)政策金利の想定に応じたBOEの消費者物価見通し

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 欧州・米国経済

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