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タカ派に傾斜するBOE

~一時休業補助金終了後の労働需給が大きな判断材料~

田中 理

要旨
  • BOEは9月の金融政策委員会で政策変更を見送ったが、早期の国債買い入れ終了を主張する政策委員が2名に増え、予測期間中の金融引き締めが必要との判断が強化されたと指摘。タカ派姿勢に傾斜している。今後の政策運営の鍵を握るのは、9月末の一時休業補助金終了後の労働需給。打ち切り後の失業率の上昇が限定的であれば、来年早々の利上げ開始も視野に入ってくる。

英イングランド銀行(BOE)は前日に終わった金融政策委員会(MPC)の結果を23日に公表し、①政策金利を0.1%に据え置くことと、②社債の買い入れ残高を200億ポンドに維持することを何れも全会一致で、③国債の買い入れ残高を8750億ポンドに維持することを賛成7・反対2の賛成多数で決定した。物価の上振れが続いているものの、足元の景気指標に軟化の兆しもあり、金融政策レポート(旧物価レポート)の発表月でない今月のMPCでは、大きな政策変更を予想する市場参加者はいなかった。今回から新たにMPCメンバーに加わったチーフエコノミストのピュー氏(ECBやゴールドマンサックスを経て前職はハーバード大学の上級講師)とマン外部委員(OECDやシティグループの元チーフ・エコノミスト)の投票行動や政策スタンスが焦点の1つであった。

だが、蓋を開けてみると、BOEは今回、予想以上のタカ派傾斜を印象づけた。第1に、声明文の中で、なお相当な不確実性が残るとしながらも、8月のMPC以降の状況が、予測期間中に緩やかな金融引き締めが必要になるとの8月時点の判断をさらに強化すると言及した。第2に、国債の買い入れ残高の引き下げ(つまり、早期の買い入れ終了)を主張する政策委員が、1名から2名に増えた(前回はソンダーズ外部委員のみ、今回は従来ハト派と見られていたラムスデン副総裁が新たに加わった)。第3に、現状の政策スタンスを維持することが望ましいと判断した政策委員(上記2名を除く7名)の全てが、現行の国債買い入れプログラムを終了する以前に金融引き締めが必要となる場合でも、政策金利の引き上げが金融引き締めの第一歩となる点で合意した。

早期の資産買い入れ終了を主張した2人の政策委員は、労働需給の継続的な逼迫がインフレ圧力を高めるとともに、物価上振れの長期化で中期的な期待インフレ率の上昇を招くことを警戒する。現状維持を主張した多数派メンバーは、9月末に一時休業補助金が終了した後の労働需給とインフレ圧力の行方が不透明とし、金融政策の引き締めが必要かどうかを判断する前に、追加の情報を待つことに価値があると主張した。さらに、補助金終了後の失業率が大幅に上昇する兆しがあれば、それが構造的なものか循環的なものかを判断するのに時間が掛かる可能性があると指摘している。逆に言えば、補助金打ち切り後も失業率の上昇が限定的であれば、金融引き締めを開始する準備が整うことになる。それを判断するには数ヵ月分の雇用関連データが必要とみられ、年明け後初の金融政策レポートの発表月である2月のMPCに注目が集まる。

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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