ECBがデジタルユーロの本格調査を開始

~デジタル化時代の貨幣と中銀の在り方を模索~

田中 理

要旨
  • ECBは14日、デジタルユーロの導入に向けた正式な調査を開始することを決定した。今後2年程度で制度設計、流通の仕組み、法的枠組みに関する検討を進め、2026年以降の導入を目指す。民間や他の中銀主導による仮想通貨の導入に向けた取り組みが世界的に加速するなか、安全で利便性が高く、プライバシーに配慮した中銀デジタル通貨の検討を進め、貨幣価値の保全、金融調整の有効性の確保、金融システムの安定を維持する。

欧州中央銀行(ECB)は14日、デジタルユーロ計画の開始に向けた本格的な調査に着手することを発表した。制度設計、流通の仕組み、法的枠組みに関する2年間の調査期間を設定し、その後の準備作業などを経て2026年以降の発行開始を目指す。オンライン決済の普及やデジタル化の進展に伴い、デジタル通貨への潜在的な需要が高まっており、コロナ禍でこうした流れが一段と加速した。ビットコインなど民間の仮想通貨(暗号通貨)取引が拡大し、米フェイスブックが主導する仮想通貨ディエム(旧リブラ)の試験運用も今年中に開始される予定だ。

仮想通貨は高度化する現金偽造への対抗手段やキャッシュレス化による利便性向上が期待される一方、投機目的で保有・取引されるケースも多く、民間企業による取引データの独占やデジタル弱者を排除する懸念もある。また、民間主導の仮想通貨の流通量が増えれば、これまで中央銀行が独占してきた貨幣発行権が奪われ、貨幣価値の保存や貨幣供給量の調整が難しくなる。そのため、各国中銀が仮想通貨の導入に向けた検討や取り組みを加速している。

中銀主導での仮想通貨の取り組みが先行する国にはそれぞれの特殊事情もある。昨年10月に世界初の中銀デジタル通貨(CBDC)サンドダラーの発行を開始したバハマは、約700の島々で構成され、現金の輸送コストや銀行の店舗維持コストの削減が導入の主たる目的とされる。バコンの発行を開始したカンボジアは、国内の決済通貨として主に米ドルが使われており、過度なドル依存を是正する目的があったとされる。デジタル人民元の実証実験を進める中国は、デジタル化時代の金融覇権を握る意図が見え隠れするとの見方が多い。

ECBは昨年10月に発表した報告書(Report on a digital euro)の中で、デジタルユーロの導入により、①取引コストの削減、②金融包摂の促進(金融サービスへのアクセス改善)、③流動性・信用・市場リスクがなく、安全な支払い手段を提供、④取引データの商業利用防止とプライバシー保護、⑤マネーロンダリングやテロリストの資金調達など不正行為の防止、⑥金融仲介業者のサービス促進と競争力強化、⑦ユーロの国際的な役割の強化、⑧環境負荷の少ない金融・決済システムの提供、⑨デジタル化の促進、⑩戦略的自律性の確保などを上げている。

ECBはデジタルユーロが現金を補完するもので、現金に取って代わるものではないとしている。デジタルユーロの利用上限を3000ユーロ(約40万円)程度に設定し、銀行システムから大量に預金が流出し、金融システムが不安定化することを防ぐ方針とされる。また、不正行為を防止する観点から、現金決済時のような無記名での利用は認められないか、何らかの制限が掛かる可能性が高い。海外送金や域外決済に利用可能かどうかも、今後の検討課題とされる。

今回の決定に先駆けて、ECBや傘下中銀は過去9ヶ月間にわたって外部専門家の協力の下、取引を記録する台帳、個人情報保護、マネーロンダリング防止、流通制限の在り方、デジタル弱者のアクセスなどの検討を進めてきた。向こう2年間の調査期間では、こうした検証結果を活用するとともに、より詳細な検討に着手する。また、必要な法的枠組みを整備するために、欧州委員会、欧州理事会、欧州議会、ユーログループなどと緊密に連携する。最終的にデジタルユーロを導入するかの決定は、今後の調査結果などを踏まえて判断する。

以上

田中 理

田中 理

たなか おさむ

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 欧州・米国経済

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