中国の外需は引き続き景気を下支えする展開が続く

~商品市況が輸入を押し上げるなか、先行きは金融政策の見直しを余儀なくされる可能性も~

西濵 徹

要旨
  • 足下の世界経済は新型コロナウイルスのパンデミックによる景気減速から立ち直りの動きをみせている。企業マインドは欧米など先進国が回復の動きを一段と強める一方、新興国では感染再拡大が重石となり足踏みする対照的な動きをみせる。他方、世界的な「カネ余り」が続くなかで国際金融市場は活況を呈しており、その動きは先進国の実体経済を押し上げるなど、足下の世界経済は「マネー」を媒介に回復を強めている。
  • 世界経済の回復も追い風に4月の輸出額は前年比+32.3%と伸びが加速しており、前月比も拡大傾向を強めるなど底入れしている。米中摩擦や主要国との関係悪化などの不透明要因はあるが、サプライチェーンの再構築の動きも輸出を押し上げる流れに繋がるなど、中国の外需に追い風となる状況は変わっていない。
  • 一方の輸入額も前年比+43.1%と伸びが加速しており、輸出以上に底入れの動きを強めている。国際商品市況の堅調さに加え、中国の内需底入れの動きも輸入を押し上げている。一部の新興国は新型コロナウイルスの感染再拡大による景気減速懸念にも拘らず物価上昇を受けて金融政策の見直しが迫られているが、中国景気は堅調さが続くも「踊り場」が意識されるなかで政策対応は一段と厳しさを増すことも予想される。

足下の世界経済を巡っては、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染一服の動きを受けて、当初の感染拡大の中心地となった中国では経済活動の正常化が進んでいるほか、欧米など主要国においても経済活動の再開の動きが広がりをみせており、景気回復を促す流れが一段と進んでいる。こうした動きを反映して足下の企業マインドは上昇傾向を強めて11年ぶりの水準となっており、昨年の新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)を受けて深刻な景気減速に見舞われた状況から一転して回復の動きを強めている様子がうかがえる。なお、地域ごとに企業マインドの動きをみると、新型コロナウイルスのパンデミックによる影響は先進国により色濃く現れた様子がうかがえる一方、その後の回復は先進国がけん引役となる動きがみられた。しかし、足下においては先進国で回復の色合いが一段と強まる動きをみせている一方、新興国については回復を示唆する動きは続くものの、その勢いは乏しいなど対照的な様子がうかがえる。その背景としては、足下において感染力の強い変異株がインドをはじめとするアジアのほか、ブラジルなどの中南米、アフリカなど新興国で感染が拡大するなど猛威を振るうなか、これらの新興国において行動制限の再強化を迫られるなど幅広い経済活動に悪影響が出ていることが影響している。他方、全世界的な財政及び金融政策の総動員による景気下支えの動きを背景に、国際金融市場は『カネ余り』の様相を一段と強める展開が続くなか、今春には米国経済の回復期待の高まりを受けて米長期金利が上昇して米ドル高圧力が強まる動きがみられた 1。しかし、その後は米FRB(連邦準備制度理事会)が現行の緩和姿勢を長期に亘って維持する方針を示しており、足下では米長期金利は頭打ちしている上、この動きに呼応するように米ドル高圧力も後退するなど国際金融市場の活況が促される展開が続いている。さらに、上述のように世界経済が先進国を中心に回復の動きを強めていることを受けて、今月からはOPEC(石油輸出国機構)加盟国やロシアなどのOPECプラスが協調減産枠の縮小に動いているにも拘らず 2、原油をはじめとする国際商品市況は堅調さを維持している。こうしたことも追い風に足下の国際金融市場は活況を呈する展開が続いており、そうした動きは先進国を中心に実体経済を押し上げる好循環が続くなど、世界経済は『マネー』を媒介に回復の勢いを強める展開が続いている。

図1
図1

図2
図2

このように世界経済は回復の動きを強めるなか、4月の中国の輸出額は前年比+32.3%と前月(同+30.6%)から一段と伸びが加速しており、当研究所が試算した季節調整値に基づく前月比も2ヶ月ぶりの拡大に転じている上、中期的な基調も拡大傾向を強めるなど底入れが一段と進んでいる様子がうかがえる。種類別では、一般的な中国製品の輸出額(前年比+38.1%)は一段と底入れの動きを強めている一方、全世界的に半導体不足が深刻化しているほか、世界的な海上輸送の混乱やコンテナ不足、それらに伴う輸送運賃の高騰といった問題を理由に中国を中心とするサプライチェーンが混乱するなかで輸入素材及び部材を用いた加工組立関連の輸出額(前年比+10.6%)のほか、国内で生産工程が完結する加工組立関連の輸出額(同+9.4%)もともに頭打ちの様相を強めるなど対照的な動きがみられる。国・地域別でも、米国向け(前年比+31.2%)やEU向け(同+23.8%)を中心に先進国向けは底入れの動きを一段と強めているほか、ASEAN向け(同+63.3%)やインド向け(同+143.8%)、台湾向け(同+30.1%)、韓国向け(同+23.1%)などアジアに加え、南米向け(同+63.3%)やアフリカ向け(同+31.9%)など新興国向けも軒並み高い伸びとなるなど、世界経済の回復の動きが幅広く輸出を押し上げている。なお、ここ数年は米国との間でトランプ前政権の下で米中摩擦が激化してきたほか、バイデン政権が発足した後も緊張した展開が続いており、両国はサプライチェーンを通じて経済関係が深く入り組むなかでサプライチェーンの再構築を図る動きが広がるなどの動きもみられる。さらに、このところは中国国内における人権問題を理由に米バイデン政権のみならず、EUや英国などが中国に対する姿勢を硬化させており、中国の外需を巡る不透明要因となることも懸念される。こうした状況にも拘らず、足下の輸出は世界経済の回復が進むなかで中国製品に対する需要が高まっていることを追い風に押し上げられているほか、サプライチェーンの再構築に際しても中国から生産過程を一部周辺国に移転する流れに留まると見込まれるなかで結果的に中国からの輸出の押し上げ要因となるなど、中国の外需にとって追い風になる展開が続いている。

図3
図3

一方の輸入額も前年比+43.1%と前月(同+38.1%)から伸びが一段と加速している上、前月比に至っては6ヶ月連続で拡大するなど輸出以上に底入れの動きを強めている様子がうかがえる。種類別では、上述のようにアジア域内におけるサプライチェーンの再構築の動きが広がりをみせていることを反映して、外資系企業による装置関連(前年比▲36.2%)が大きく落ち込んでいることに加え、加工組立に関連する装置関連(同▲4.0%)も弱含むなど、生産拠点としての中国の存在感に影響を与え得る動きが顕在化している。さらに、全世界的に半導体不足が懸念されていることに加え、世界的な海上輸送の混乱やコンテナ不足、それらに伴う輸送運賃の高騰といった問題も追い風に加工組立に関連する素材及び部材(前年比+25.6%)も鈍化している上、原材料関連(同+20.3%)も頭打ちの様相を強めている。その一方、一般的な輸入(前年比+49.5%)は一段と底入れする動きをみせており、中国国内における需要の堅調さを反映しているほか、原油をはじめとする国際商品市況が底堅く推移していることも輸入額の押し上げに繋がっている。なお、国際商品市況の底堅さが輸入額の押し上げに繋がっていることは、豪州をはじめとする主要資源国での天候不順のほか、世界的な海上輸送の混乱などを理由に鉄鉱石の輸入量(前年比+3.0%)のほか、銅の輸入量(同▲5.3%)、原油の輸入量(同▲0.2%)、石炭の輸入量(同▲29.8%)などが軒並み低迷しているにも拘らず、輸入額は総じて押し上げられていることに現れている。他方、足下の中国では新型コロナウイルスの感染収束が進むとともに経済活動は正常化する一方、依然として海外旅行が困難な状況が続くなかで高所得者層を中心に自動車や宝飾品といった高額消費が活発化する動きもみられるなど、こうした動きも輸入額の押し上げに寄与している可能性がある。その一方で、足下においては雇用の回復は道半ばの状況にあるなかで幅広く家計部門は財布の紐を固くする動きもみられるなど、家計部門においてはディスインフレ圧力が強まりやすい状況が続く一方、国際商品市況の底堅さを背景に企業部門は調達価格の上昇圧力に晒されるなどインフレが意識される展開となっており3 、しばらくは同様の展開が続くと予想される。足下では、国際商品市況の底入れを受けて多くの新興国でインフレ圧力が強まる一方、新型コロナウイルスの感染再拡大により景気に不透明感が強まるなかでも金融引き締めに追い込まれる動きがみられる。中国については、3月に開催した全人代(第13期全国人民代表大会第4回全体会議)において先行きの政策運営について「急激な変更はない」と慎重な運営を志向する姿勢を示したものの 4、仮に川上でのインフレ圧力が一段と強まれば政策変更を余儀なくされることも懸念される。足下の景気は上述のように外需が底入れの動きを強めるなど堅調さを維持する一方、景気動向や企業マインドは『踊り場』を示唆する動きをみせるなか 5、今後の政策対応は難しさを増すことも予想される。

図4
図4


以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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