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2021.04.05
日本経済
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「緊急事態宣言」振り返りと「まん防」の経済的影響
~地域拡大と期間延長で影響は甚大に。海外から圧倒的に遅れるワクチン接種~
永濱 利廣
- 要旨
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- 過去のGDP個人消費と消費総合指数に基づけば、2020年4~5月にかけての個人消費は、緊急事態宣言がなかった場合を想定すれば、▲4.5兆円程度下振れしたと試算される。また、第2回目のマクロ的な個人消費押し下げは第1回目の1/3程度の▲1.5兆円程度だったことが推察される。
- まん防発出3府県の消費押し下げ圧力と発出期間を前回の緊急事態宣言の半分程度と仮定すれば、マクロの個人消費押し下げ効果は▲819億円程度、GDPの減少額は▲704億円程度、それに伴う半年後の失業者の増加規模は+0.4万人程度と試算される。
- しかし、今回発出地域以外でも新型コロナウィルス陽性者数が増加傾向にある。また、2回目の緊急事態宣言発出終盤では、新規陽性者数の抑制効果は限定的となっていたことも勘案すれば、発出地域も広がる可能性があり、発出期間も長期化することを警戒すべき。
- 海外に比べてワクチン接種率の進捗が圧倒的に遅れていることからすれば、政府は更に接種率を早めることも検討すべき。英調査会社「エアフィニティ」が昨年12月に公表した、集団免疫獲得時期の見通しによれば、日本は欧米諸国に大きく遅れて来年4月となっている。
- 例えば、集団免疫獲得に近づくまでまん防が全国発出に拡大し、最長6か月間延長されると仮定すれば、その影響は6市1か月発出の92.3倍程度の影響(個人消費▲7.6兆円、GDP▲6.5兆円、失業者+37万人)が出ると試算される。こうならないためにも、政府は海外を見習い、国産ワクチン実用化も含めて、国内でのワクチン接種率をさらに加速させるべく柔軟で迅速な対応が求められる。
●はじめに
緊急事態宣言解除をきっかけに全国的に新型コロナウィルスの感染拡大が続く中、緊急事態宣言に準じる「まん延防止等重点措置」(以下、まん防)が5日から、大阪、兵庫、宮城の3府県の計6市で初めて適用された。
こうした改正新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づくまん防が導入されたとしても、コロナ4段階ステージ指標の「ステージ3」での発出となるため、「緊急事態宣言」ほどの経済活動抑制圧力とはならないだろう。しかし、過去の緊急事態宣言により、その後の経済が大きく悪化したことからすれば、経済活動自粛の悪影響が出ることは確実だろう。
●6市1か月発出で個人消費▲819億円
過去の緊急事態宣言発出に伴う外出自粛強化により、最も悪影響を受けたのが個人消費である。そして、実際に過去のGDPにおける個人消費と消費総合指数に基づけば、2020年4~5月にかけての個人消費は、緊急事態宣言がなかった場合を想定すれば、▲4.5兆円程度下振れしたと試算される。
また、2021年1月以降の緊急事態宣言の影響は、消費総合指数が1月分までしか公表されていないため、同様の試算は不可能である。しかし、消費総合指数の前月比を見ると、一回目発出時の2020年4月が▲9.1%だったのに対し、2回目発出時の2021年1月が▲3.1%だった。こうしたことからすれば、第2回目のマクロ的な個人消費押し下げは第1回目の1/3程度の1.5兆円程度だったことが推察される。なお、第1回目が全国だったのに対して、第2回目が全国の個人消費の約6割を占める地域に限定されたため、発出地域に限定した影響としては、第1回目の1/3/0.6×100=56%程度だったと予想される。
そこで、今回のまん防発出の影響を試算すべく、直近2017年の県民経済計算を基に、家計消費の全国に占める発出地域の割合を算出すると、宮城県1.7%+大阪府7.8%+兵庫県4.2%=13.1%となる。
ただ、今回のまん防は3府県の6市に1か月限定で発出されることになる。このため、3府県の消費押し下げ圧力も発出期間も前回の緊急事態宣言の半分程度と仮定すれば、マクロの個人消費押し下げ効果としては、1.5兆円/2/2*0.131/0.6=▲819億円程度になると試算される。
しかし、家計消費には輸入品も含まれていることからすれば、そのまま家計消費の減少がGDPの減少にはつながらない。事実、最新となる総務省の2015年版産業連関表によれば、民間消費が1単位増加したときに粗付加価値がどれだけ誘発されるかを示す付加価値誘発係数は約0.86となっている。そこで、この付加価値誘発係数に基づけば、GDPの減少額は▲704億円程度と計算される。
また、近年のGDPと失業者数との関係に基づけば、実質GDPが1兆円減ると2四半期後の失業者数が+5.7万人以上増える関係がある。従って、この関係に基づけば、3府県でまん防が1か月発出されれば、それに伴う半年後の失業者の増加規模は+0.4万人程度と試算される。
●海外から圧倒的に遅れるワクチン接種
このように、6市に1か月程度のまん防発出にとどまれば、マクロ経済に及ぼす影響は限定的と言えよう。しかし、今回発出地域以外でも新型コロナウィルス陽性者数が増加傾向にある。また、2回目の緊急事態宣言発出終盤では、新規陽性者数の抑制効果は限定的となっていたことも勘案すれば、発出地域も広がる可能性があり、発出期間も長期化することを警戒すべきだろう。
こうした中、政府は新型コロナウイルスワクチンの高齢者への接種開始を1週間後に開始すべく、5日から都道府県にワクチンの配送を始める。しかし、海外に比べれば、接種率の進捗が圧倒的に遅れていることからすれば、政府は更に接種率を早めることも検討すべきだろう。
一方、英調査会社「エアフィニティ」が昨年12月に公表した、集団免疫獲得時期の見通しによれば、日本は欧米諸国に大きく遅れて来年4月となっている。このため、例えば集団免疫獲得に近づくまで、まん防が全国発出に拡大し、最長6か月間延長されると仮定すれば、その影響は6市1か月発出の92.3倍程度の影響(個人消費▲7.6兆円、GDP▲6.5兆円、失業者+37万人)が出ると試算される。
こうならないためにも、政府は海外を見習い、国産ワクチン実用化も含めて、国内でのワクチン接種率をさらに加速させるべく柔軟で迅速な対応が求められるといえよう。
永濱 利廣
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 永濱 利廣
ながはま としひろ
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経済調査部 首席エコノミスト
担当: 内外経済市場長期予測、経済統計、マクロ経済分析
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永濱 利廣