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緊急事態宣言再延長に伴う経済への影響

~一都三県の2週間延長で失業増は+15.1万人から+17.3万人に修正~

永濱 利廣

要旨
  • 一都3県の緊急事態宣言が2週間延長されると仮定すると、家計消費の減少額が▲3.4兆円から▲3.9兆円に修正されると試算される。GDPの減少額も▲2.9兆円から▲3.3兆円(年間GDP比▲0.5%)に修正される計算になる。一都3県で緊急事態宣言が2週間延長されれば、緊急事態宣言発出に伴う半年後の失業者の増加規模は+15.1

  • 雇用調整助成金の特例措置が、宣言延長に伴い4月末まで延長され、5月以降に縮小されることになっているが、雇用環境の悪化が夏場にかけて顕在化する可能性があることからすれば、状況次第では再延長も必要になってくるだろう。家賃支援給付や持続化給付金についても、状況次第では追加支援が必要になってくるかもしれない。

  • 中小企業等が支払う社会保険料や税金の支払いを延滞金や担保の差出なしで猶予できる期限延長も必要になるかもしれない。また、海外で実施されている休業補償のように過去の売上高や経費の一定割合を政府が補填するという形のほうが公平性を担保でき、企業も時短要請に応じやすくなる。一律で多めに支給して、来年の確定申告で年末調整として必要以上に支給した分を回収するといった柔軟な対応も検討に値する。

はじめに

緊急事態宣言発出をきっかけに全国的に新型コロナウィルスの感染縮小が続く中、一都三県の知事は3月7日で終了予定の緊急事態宣言について、政府に2週間延長を要請する方向で調整に入った。

こうした新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言が解除されたとしても、すぐに経済活動が元に戻ることにはならないだろう。しかし昨年5月の緊急事態宣言解除により、2020年6月以降の経済が好転に向かったことからすれば、経済活動自粛の悪影響緩和が先送りされることは確実だろう。

先行解除でGDP▲2.9兆円→▲3.3兆円

前回の緊急事態宣言発動に伴う外出自粛強化により、最も影響を受けたのが個人消費であり、実際に2020年4-6月期の家計消費(除く帰属家賃)は前期比で▲7.0兆円、前年比で▲8.3兆円落ち込んだ。

そこで、緊急事態宣言の影響を試算すべく、直近2020年7-9月期の家計調査(全世帯)を基に、外出自粛強化で大きく支出が減る不要不急の費目を抽出すると、外食、設備修繕・維持、家具・家事用品、被服及び履物、交通、教養娯楽、その他の消費支出となり、支出全体の約51.7%を占めることになる。

また、直近2017年の県民経済計算を基に、一都3県の家計消費の割合を算出すると、33.2%となる。しかし、今回の緊急事態宣言は、前回のような休業要請がないことや国民のコロナ慣れなどにより、経済活動自粛の動きは前回ほど強くない。

そこで、不要不急消費の割合を基に、仮に営業時間短縮を中心とする緊急事態宣言が2週間延長されると仮定すると、2020年7-9月期の家計消費(約57.5兆円)を基準とすれば、家計消費の減少額が▲3.4兆円から▲3.9兆円に修正されると試算される。

しかし、家計消費には輸入品も含まれていることからすれば、そのまま家計消費の減少がGDPの減少にはつながらない。事実、最新となる総務省の2015年版産業連関表によれば、民間消費が1単位増加したときに粗付加価値がどれだけ誘発されるかを示す付加価値誘発係数は約0.86となっている。そこで、この付加価値誘発係数に基づけば、GDPの減少額も▲2.9兆円から▲3.3兆円(年間GDP比▲0.5%)に修正される計算になる。

また、近年のGDPと失業者数との関係に基づけば、実質GDPが1兆円減ると2四半期後の失業者数が+5.2万人以上増える関係がある。従って、この関係に基づけば、3県で緊急事態宣言が延長後1週間で解除されれば、緊急事態宣言発出に伴う半年後の失業者の増加規模は+15.1万人から+17.3万人に修正となる。

それでも必要とされる補償の拡充

このように、一都3県の2週間延長でも、緊急事態宣言に伴う悪影響は大きいと言えよう。そこで、仮に延長となれば気になるのが補償問題である。現時点で打ち出されている支援の延長としては、それまで3月末までとされていた雇用調整助成金の特例措置が、宣言延長に伴い5月末まで延長され、6月以降に縮小されることになっている。しかし、雇用環境の悪化が夏場にかけて顕在化する可能性があることからすれば、状況次第では再延長も必要になってくるだろう。

また、これまで2月15日まで延長となっていた家賃支援給付や持続化給付金についての再延長はなかったが、こちらも状況次第では追加支援が必要になってくるかもしれない。

更に政府は昨春、コロナ対策として中小企業などが支払う社会保険料や税金の支払いを延滞金や担保の差出なしで一年間猶予することを認めた。しかし、1年前から状況が好転していないことからすれば、これらの猶予期間の期限延長も検討すべきだろう。

一方、飲食店などの時短協力金についても、1日当たり最大6万円支給により不公平感が出ていることも事実である。このため、例えば海外で実施されている休業補償のように過去の売上高や経費の一定割合を政府が補填するという形のほうが公平性を担保でき、企業も時短要請に応じやすくなると思われる。

恐らく、一律給付の背景には支給の迅速性というものがあるものと推察されるが、例えば一律で多めに支給して、来年の確定申告で年末調整として必要以上に支給した分を回収するといった柔軟な対応も検討に値すると考えられる。

以上のように、仮に再延長するのであれば、政府には予備費を有効に活用した柔軟で迅速な対応が求められるといえよう。

永濱 利廣


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

永濱 利廣

ながはま としひろ

経済調査部 首席エコノミスト
担当: 内外経済市場長期予測、経済統計、マクロ経済分析

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