- HOME
- レポート一覧
- 経済分析レポート(Trends)
- 経済財政諮問会議(2026年6月24日)解説
- Economic Trends
-
2026.07.09
日本経済
経済効果
資産形成・資産運用
高市政権
経済財政諮問会議(2026年6月24日)解説
〜戦略17分野の官民投資額、地域未来戦略〜
永濱 利廣
- 要旨
-
-
官民投資の規模は2040年度までの15年間で、重複を除く累計で370兆円超を想定。そして主な重点分野としては、AI・半導体分野として半導体、バーティカルAI、フィジカルAI。デジタル・その他の分野として、クラウド・データセンター・蓄電池、ゲーム、医薬品など。
-
構造的な人手不足の解消や経済安全保障の強化に向け、日本の現場データや製造技術の強みを活かせる62項目を選定。特にフィジカルAIでは、ロボットのハード・ソフト統合力を活かし、2040年に世界シェア3割超を目指す。半導体では、「System to Silicon」の能力を確保し、国内売上高を2030年に15兆円、2040年に40兆円へ拡大。バーティカルAIでは、日本の現場の暗黙知をデータ化。過度な海外依存を防ぎ、2030年に5兆円の市場獲得を目指す。
-
国内投資を推進・加速するための環境整備として、①新技術立国への投資、②金融・スタートアップ推進、③人材育成・労働改革、④環境整備・中小企業支援、を導入検討する。
-
地域未来戦略として、投資を全国へ波及させ、地域経済の好循環を生み出すためのパッケージとして、A. 戦略産業クラスター計画、B. 地域産業クラスター計画、C. 地場産業成長プランといった3つの計画で「5W1H」を明確化し、半年に1回ペースで評価・改訂を実施。
-
筆者提言として、優れた成長戦略を策定しても、予算編成や査定の現場が「前例踏襲」や「過度な制約・条件付け」といった硬直的な運用を行えば、政策が骨抜きになるリスクを指摘。民間企業が求める「中長期の予見可能性」を確保し、戦略の実効性を担保するためには、予算の執行・査定現場における徹底したマインドセットの転換が必要として、各大臣の強力な指導と政府のリーダーシップを強く求めた。
-
1.はじめに
2026年6月24日に開催された経済財政諮問会議では、「戦略17分野」における主要な製品・技術等の官民投資額や選定の考え方、および今後の方向性を取りまとめたロードマップ、日本成長戦略や地域未来戦略、および中長期的な経済・財政の姿に関する試算の概要が公表された。
そこで本稿では、会議資料を基に、諮問会議で展開された内容と筆者の意見を紹介する。
2.官民投資額の概要
投資の全体規模としては、2040年度までの15年間における重複を排除した官民投資額の合計は累計で370兆円超が想定された。
算出方法としては、学者や企業関係者らによるワーキンググループでの議論をもとに「勝ち筋」を特定し、政策パッケージからなるロードマップ案を作成。これを前提に、政府による主要企業・団体へのヒアリングの予定・見通しを積み上げての算出となっている。
主な分野と投資額の代表的な例を挙げれば、まずAI・半導体分野でフィジカルAIに10.5兆円、半導体に68.0兆円、バーティカルAI(特定業務・業界に特化したAI)に23.1兆円となっている。また、デジタル・サイバーセキュリティ分野では、クラウド・データセンターや蓄電池に32.7兆円、政府・自治体のAX/DX基盤に7.4兆円となっている。さらに、コンテンツ分野ではゲーム(24.5兆円)、アニメ(3.3兆円)、マンガ(1.6兆円)など、バイオ・医療分野でバイオものづくり(12.8兆円)、ファーストインクラス等の医薬品(23.4兆円)等となっている。
3.主要な製品・技術等の選定理由と方向性
続いて、各戦略分野において、「リスク低減」「海外市場の獲得可能性」「技術の革新性」などの観点から優先支援が必要な62項目が選定された。
主要分野の具体例としては、まずフィジカルAIが2040年に約60兆円の市場に成長する見込みとなっており、日本は産業用ロボットで世界シェア約7割と強いが、サービスロボットは1割強にとどまることや、導入コストの高止まりが課題とされている。このため、ハードとソフトの統合力を活かしてロボットOEMや重要コンポーネントを育成し、2040年に世界シェア3割超の獲得を目指すとしている。
また、半導体では、日本の世界シェアが現在10%未満となっており、エッジ側でのリアルタイム処理需要に対応するため、実装先の機能から逆算して最適統合する「System to Silicon」の能力確保が急務としている。そのため、製造基盤の強化や設計拠点の整備を進め、国内で生産される半導体の売上高を2030年に15兆円、2040年に40兆円にすることを目指すとしている。
一方、バーティカルAIを現場で使える専門性の高いAIと位置づけ、暗黙知の多い日本の各現場の経験・知識をデータ化する取り組みと相性が良いとしている。ただ、過度な海外依存によるデータの流出やデジタル赤字がリスクとしており、製造や医療、防衛などの重点領域を定めて官民で集中投資し、2030年に内外で少なくとも5兆円の市場獲得を目指すとしている。
他方、データプラットフォームを企業内データの利活用や組織間のデータ連携の確保が経済安全保障上重要としており、2035年までに国内市場規模5兆円を目指すとしている。
総じて、日本が構造的な人手不足の解消や経済安全保障の強化を果たすため、強みである現場データや製造技術を活かせる「AI・半導体・量子・マテリアル・バイオ・GX・コンテンツ」などの重点分野に官民で巨額の投資を集中させ、国内外で高い市場シェアの獲得と社会課題の解決を同時に目指す戦略が示された。
4. 分野横断的課題への対応と主要施策
以上の戦略17分野の国内投資を推進する上で生じる課題を解決するため、主に以下の4つの分野横断的施策が講じられるとされた。
一点目が、新技術立国への投資と強化である。予見可能性を持った投資が行えるよう、通常の歳出とは別に「新たな投資枠」を創設し、経済安全保障上、特に重要な分野は複数年度で財源を確保し、別枠で管理する政策スキームを検討するとされた。また、高い研究力を有する中核大学群を認定し、その研究開発と社会実装を中長期的に支援する新制度を創設するとしている。
2点目が、金融・スタートアップ推進である。「スタートアップ総力創出パッケージ」を実行し、政府系金融機関等からの資金供給を強化するとしている。また、研究開発段階から本格調達まで一貫して支援する「戦略製品・技術等政府実装加速化プログラム」を創設し、SBIR(Small Business Innovation Research)制度を抜本強化するとしている。さらに、企業の資源配分を成長・人材投資へ向かわせるため、取締役会に説明を求める「成長投資ガイダンス」の策定や迅速な経営に資する会社法改正を検討するとされた。
3点目が、人材育成と労働市場改革である。理工・デジタル系人材の育成を加速するため、大学の理系分野への学部再編などを支援し、柔軟で多様な働き方の実現に向け、労働時間法制の見直しを労働政策審議会で議論するとしている。また、業所管省庁と連携してスキル標準の策定からプログラム開発まで一気通貫でリ・スキリングを支援し、家事支援やベビーシッター等の利用を促進し育児・介護離職を防止するとしている。
4点目が、環境整備とサイバーセキュリティ中小企業の「稼ぐ力」強化のため、積極的に賃上げを行う中小企業の重点支援や、官公需での価格転嫁推進、中小M&A支援を行う者の資格制度創設などを検討する一方、「サイバーセキュリティ戦略」に基づき、能動的なサイバー防御のための体制整備や重要インフラにおける統一基準の策定を行うとしている。
5. 地域未来戦略の政策パッケージ
日本成長戦略の17分野の投資を全国へ拡大し、強い地域経済の好循環を通じて「日本列島を、強く豊かに」することを目指し、以下の3つの計画類型に応じた支援を講じるとしている。
A. 戦略産業クラスター計画(国が策定):17の戦略分野の大規模投資を起点とするクラスター。道路や工業用水等のインフラ整備、産業人材の育成等を計画的に推進。特定半導体の生産施設整備支援、産業用地整備支援、学部再編等による人材育成など。
B. 地域産業クラスター計画(都道府県知事等が主導・主体):海外輸出や国内シェア上位を目指して重点育成すべき産業分野を特定。中堅・中小・スタートアップの工場新設等の大規模投資促進、施設等の共同利用による効率化、地域未来金融アクションプランの策定など。
C. 地場産業成長プラン(市町村または都道府県が主体):農林水産業、観光業、伝統的工芸品製造業など、面的に地域経済を支える数多くの地場産業の更なる成長を目指す。地域産品の高付加価値化・海外展開や、インフラ整備、インバウンド観光消費拡大の支援など。
そして、以上のすべての計画において、目標、道筋、政策手段を盛り込み、施策の意義や期限、担当等の「5W1H」を明確化するとしている。そして、半年に1回程度の頻度で進捗状況の点検や戦略のブラッシュアップを行い、投資マップで可視化して定期的な評価・改訂を進めるとされた。
6.筆者提言
以上を踏まえ、本会議において筆者は、「新たな投資枠が、予算編成・査定の現場の硬直的な運用によって形骸化(骨抜き)してしまうリスク」への強い懸念と、それを防ぐためのマインドセットの転換の観点から提言を行った。
というのも、どんなに立派な成長戦略の枠組みを作っても、現場の運用次第で実質的に機能しなくなるリスクがあるということである。そして、想定される具体的事態としては、各省庁への予算要求を躊躇させる圧力や、査定段階での前例踏襲的な過度な制約・条件付けなどの硬直的な対応が懸念され、これらが起きると、民間企業が必要とする「中長期の予見可能性」が失われ、投資枠が単なる看板の掛け替えに逆戻りしてしまうリスクがある。
このため、成長戦略の実効性を担保し、経済成長への強い期待を醸成するためには、予算の執行や査定の現場における徹底したマインドセットの転換が不可欠であり、硬直的な査定を打破するため、各大臣の強力な指導と政府の力強いリーダーシップを期待すると指摘した。
永濱 利廣
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 永濱 利廣
ながはま としひろ
-
経済調査部 首席エコノミスト
担当: 内外経済市場長期予測、経済統計、マクロ経済分析
執筆者の最近のレポート
-
経済財政諮問会議(2026年6月30日)解説 〜経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)に向けて〜
日本経済
永濱 利廣
-
6月短観から見た26年度業績見通し ~目立つ生成AIブーム関連業種の収益計画上方修正~
日本経済
永濱 利廣
-
経済財政諮問会議(2026年6月25日)解説 〜予算編成改革基本原則、中長期的な経済・財政試算の概要〜
日本経済
永濱 利廣
-
「責任ある積極財政」と金融政策の針路 〜「金利ある世界」における地域金融機関の役割と生存戦略〜
日本経済
永濱 利廣
-
財政改革検討本部提言(2026年6月25日)解説 〜強い経済と財政の持続可能性を両立させる『責任ある積極財政』〜
日本経済
永濱 利廣

