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経済財政諮問会議(2026年6月30日)解説

〜経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)に向けて〜

永濱 利廣

要旨
  • 公表された「骨太の方針」原案では、従来の緊縮志向や財政単年度主義から脱却し、予算編成を根本から改める。令和9年度を「積極財政元年」とし、2040年度までを見据えた「中長期経済財政計画」を推進する。「国・地方の総債務残高対GDP比の安定的低下」を中核目標とする。物価・賃金上昇を反映した予算編成へと移行し、シーリングのない『「強く豊かな日本」投資枠』を新設する一方で、補正予算は真に緊要なものに限定。
  • AI・半導体やGXなど17の戦略分野において、2040年度までに累計370兆円超の官民投資を想定し、実質1%超・名目3%超の成長定着を目指す。「スタートアップ総力創出パッケージ」による一気通貫支援や、脱炭素電源・次世代革新炉の活用を進める。地域産業クラスターの形成や「地域未来交付金」の拡充により、2029年度までに実質賃金年1%程度の上昇定着を目指す。最低賃金は2030年代前半のできる限り早期に全国平均1,500円への引き上げを目指す。
  • 日米同盟を基軸に連携を強化し、5年以内に防衛力を変革。「防災庁」の新設による国土強靱化や、東日本大震災・能登半島地震からの創造的復興に注力。2026年末を目途に「人口総合戦略」を策定。「現役世代の保険料率引き下げ」を目指し、給付と負担の改革を継続。教育面ではAI時代への環境整備を進めるとともに、成長分野への大学の機能強化や教師の処遇改善を行う。データに基づく政策立案を強化し、原則5年ごとに包括的な検証と見直しを行う。
  • 筆者提言:①日本も財政単年度主義の弊害を是正し、中長期計画を通じて経済成長と財政持続性を両立すべき。②「地域未来戦略」を推進し、交付金の拡充や特区での規制改革を行うべき。労働不足に対しては賃上げを「供給力強化」と位置づけ、省力化投資や地域へのAI導入、エネルギー構造の強靱化を支援すべき。③財政目標を債務残高対GDP比の安定的低下に据え、シーリングのない投資枠や複数年度の柔軟な予算措置を具体化すべき。投資効果が十分発揮されれば、2040年度に民間設備投資年230兆円、GDP1100兆円規模の成長と財政健全化が両立できる。
目次

1.はじめに

2026年6月30日に開催された経済財政諮問会議では、経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)の内容について議論された。なお、本方針は、高市内閣が掲げる「強い経済」の実現と「財政の持続可能性」の両立を目指し、従来の緊縮志向や財政単年度主義から「責任ある積極財政」へと抜本的な転換を図るための国家戦略となっている。そして、令和9年度を「責任ある積極財政元年」と位置付け、2040年度までを期間とする「中長期経済財政計画」を策定しているのが特徴である。そこで本稿では、今回の諮問会議で展開された議論の内容と筆者の意見を紹介する。

2.マクロ経済運営の基本的考え方と財政運営の転換

重要なポイントとしては、まず責任ある積極財政への転換である。長年の投資不足やデフレマインドを打破するため、政府が一歩前に出て官民連携で戦略分野へ大胆に投資するために、財政単年度主義の弊害を是正し、予算編成を根本から改めるということである。

そして、肝心の財政運営目標としては、単年度のプライマリーバランス(PB)黒字化を機械的に追うのではなく、一時的な悪化も許容しつつ、「国・地方の総債務残高対GDP比の安定的低下」を中核目標に据えることとしている。

また、予算編成の見直しとして、デフレ・低成長時代の一律抑制型から、物価・賃金上昇を的確に反映した予算編成へ移行することとしている。そして、通常歳出とは別に、国内投資や潜在成長率を引き上げるための『「強く豊かな日本」投資枠』を創設することとしている。一方で、大規模経済対策による補正予算依存からは脱却し、補正は緊要性の高いものに限定することとしている。

3. 日本の成長力強化(「強い経済」の実現)

まず「日本成長戦略」の推進として、17の戦略分野における62の主要製品・技術の官民投資ロードマップを着実に実行することで、2040年度までに累計370兆円を超える官民投資を想定し、実質1%超、名目3%超の経済成長の定着を目指すとしている。また、全産業で「AIトランスフォーメーション(AX)」を加速するとしている。

一方、新技術立国とスタートアップ支援として、科学技術・イノベーションを国家戦略の中核とし、基礎研究や若手研究者を支援するとしている。具体的には「スタートアップ総力創出パッケージ」により、研究開発から社会実装まで一気通貫で支援するとのことである。

他方、エネルギー安全保障とGXとして、2050年のカーボンニュートラルに向け、脱炭素電源の最大限活用や次世代革新炉の開発・設置、重要鉱物の供給源多角化を進めるとしている。

そして、強い地域経済の構築として、各地に産業クラスターを形成し、「地域未来交付金」を拡充することで、2029年度までに実質賃金で年1%程度の上昇を定着させ、最低賃金は2030年代前半のできる限り早期に全国平均1,500円の達成を目指すとしている。

4. 安全・安心の確保と基盤強化

まずは外交・安全保障の強化として、日米同盟を基軸に同志国やグローバル・サウスとの連携を強化するとしている。また、5年以内に防衛力を変革し、「新しい戦い方」に適応するとともに、対外情報収集機能や経済安全保障を抜本強化するとしている。

一方、国民の安全・安心として、「防災庁」を設置して事前防災や復旧・復興の司令塔機能を強化し、令和の国土強靱化対策を断行し、特に東日本大震災や能登半島地震からの創造的復興に全力を挙げるとしている。また、匿名・流動型犯罪グループの撲滅やサイバーセキュリティ強化、秩序ある外国人共生施策を推進するとしている。

他方、人口減少への対応として、少子化傾向の反転と活力維持のため、2026年末を目途に「人口総合戦略」を策定するとしている。

5. 持続可能な社会保障と教育の再生

まずは全世代型社会保障の構築として、「現役世代の保険料率の上昇を止め、引き下げていく」との方針のもと、給付と負担の改革を継続するとしている。また、DX・AIの活用による生産性向上や、医療・介護提供体制の再編、創薬イノベーションの拡大、攻めの予防医療を推進するとしている。

一方、公教育の再生として、学校向けAI指針の改定やGIGAスクール構想の推進など、AI時代に対応した教育環境を整備するとしている。また、理工・デジタルなど成長分野への大学の機能強化を進めるほか、教師の働き方改革・処遇改善を進め、教師のなり手を確保するとしている。

6. 計画推進とPDCA

これまでの推進体制を発展させ、歳出改革、投資実行状況、政策効果、財政指標を一体的に点検する新たな枠組みを構築し、EBPMを強化し、原則5年毎に包括的な検証と計画の見直しを行うとしている。

7.筆者提言

以上を踏まえ、本会議において筆者は、以下の各観点から提言を行った。

一点目が、「責任ある積極財政」へのコペルニクス的転回の背景と必要性である。というのも、世界の主要国では、官民連携による大規模かつ長期的な財政支出を伴う産業政策が大きな潮流となっている。この世界的な大競争時代に対応するため、政府が一歩前に出て、官民が連携して戦略分野への投資を進めるべきとした。また、予算編成の刷新面でも、従来の財政単年度主義による弊害を是正し、予算の作り方を根本から改めることが重要とした。さらに、中長期の目標として、令和9年度予算を「責任ある積極財政元年」と位置づけ、2027年度から2040年度までを対象とする「中長期経済財政計画」を刷新することで、持続的な経済成長と財政の持続可能性を同時に達成することが極めて重要であるとした。

二点目が、強い地域経済の構築と地方主役の社会についてである。47都道府県のどこに住んでいても安全に生活でき、働く場所がある社会こそが目指すべき姿であり、新たな取組である「地域未来戦略」の強力な推進が必要と強調した。そして具体的な支援策として、戦略産業クラスター計画や地域未来交付金などの拡充、成長資金の供給、特区制度を活用した規制改革を一体的に進めることが重要とした。また、労働供給制約への対応面では、深刻な労働不足に立ち向かうため、賃上げを「供給力強化」と位置づけ、省力化投資の促進や地域企業へのAI導入を積極的に支援することを強調した。さらに、エネルギー構造の強靱化面では、安全確保と地域の理解を大前提として、原子炉の再稼働加速や次世代革新炉の開発・設置に取り組み、供給構造を強靱化することも強調した。

三点目が、予算編成の抜本的な見直しについてである。特に、新たな財政目標として単年度の黒字化等ではなく、「国・地方の総債務残高対GDP比の安定的低下」を中核に据え、持続可能な財政を構築することを強調した。また、ふさわしい予算規模への転換として、物価や賃金の上昇を的確に反映し、経済の拡大に見合った規模の予算編成へと転換することに加え、国内投資による潜在成長率引き上げの予見可能性を高めるため、「シーリングを設けない新たな投資枠」を創設することが重要であるとした。また、透明性と規律の向上として、補正予算は真に緊要性の高いものに限定し、恒常的な施策は当初予算で措置し、長期投資を可能にするための複数年度にわたる柔軟な予算措置を具体化することも強調した。さらに、官民投資の効果が十分に発揮されれば、2040年度には国内民間設備投資額が年230兆円、GDPが1100兆円に迫る経済成長が実現し、かつ債務残高対GDP比の安定的低下も両立できるという試算が示されたことは極めて重要とした。

永濱 利廣


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

永濱 利廣

ながはま としひろ

経済調査部 首席エコノミスト
担当: 内外経済市場長期予測、経済統計、マクロ経済分析

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