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2025.12.11
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量から質へ、保育政策の転換(2)
~保育士の社会的評価の向上につながる情報発信の促進を~
小林 菜
- 目次
1.保育の質向上には、保育人材の確保が必須
こども家庭庁は、2024年12月20日に「保育政策の新たな方向性」を公表し、2025年度から2028年度末を見据えた保育政策では、保育の質の向上や多様なニーズへの対応を目指した施策を推進するとしている。
しかし、保育の質の向上や多様なニーズへの対応は、それを支える保育人材が十分に確保されている前提で可能になる。保育士の有効求人倍率は全職種平均と比べて高い水準にあるなど、保育現場では保育人材不足の状況が続いており、この意味で、保育人材の確保が最重要課題といえる(注1)。
本稿では、保育人材確保の障壁として、保育士の社会的評価の問題を取り上げ、保育人材確保に向けた対策のあり方について考察する。
2.保育士の社会的評価の現状
保育人材不足の背景として、保育士の平均賃金の低さが繰り返し指摘されてきたが、保育士は平均賃金だけでなく、社会的評価も低い傾向が続いている。
(1)「先生」と呼ばれる職業における保育士の社会的評価の低さ
「職業」に対する人々の主観的な評価を図る指標に、「職業威信」と呼ばれる指標がある。職業威信とは、「個々の職業の一般的な望ましさや地位の高さを示すもの」(注2)であり、特定の職業に対する人々の評価の高さを0点~100点で数値化したものが「職業威信スコア」と呼ばれている(注3)。
一般的に、「先生」と呼ばれる職業は、職業威信スコアが高い傾向にあるが、保育士は例外的にこのスコアが低位で推移してきた。たとえば2020年3月に行われた調査(注4)では、職業威信スコアについて、全職業平均が54.49であるのに対して、保育士は47.69であり、平均を下回っている。他の「先生」と呼ばれる職業は、幼稚園教諭50.48、小学校の先生57.69、大学教授74.18となっている(注5)。
(2)命を守る仕事としての保育士の社会的評価の低さ
また、命を守る仕事という観点から見た場合にも、保育士の社会的評価は低い傾向にある。たとえば前述の調査(注4)では、日々の職務が命を守る仕事という点で典型的にイメージされる看護師の職業威信スコアは62.98、医師は85.29と高い傾向にある。乳幼児期のこどもと向き合う保育の現場は、日常的に窒息や誤嚥、乳幼児突然死症候群といったリスクの予防と対応を求められるという意味では「命を守る」実践の場だが、医師や看護師と保育士の職業威信スコアには大きな開きがある。
2016年には関係省庁が連名で、保育所等の施設の事業者向けに55ページにわたる「教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン」を公表している。このガイドラインからもわかるように、遊びなどを通してこどもの学びや育ちを支える保育の現場は、こどもたちの命を守る保育士の毎日の工夫や配慮のうえに成り立っているが、保育士の担う職務責任の重さと社会的評価との間には乖離があると考えられる。
なお、このような社会的評価の低さは、保育士自身も感じているようである。2025年12月2日に公表された、OECD(経済協力開発機構)が幼児教育・保育の従事者(幼稚園教諭、保育士、保育教諭等)を対象に行った国際調査では、「保育者は社会的に高く評価されている」と感じている日本の幼児教育・保育従事者の割合は28.4%にとどまっている(注6)。
3.社会的評価の低さが保育人材確保に及ぼす影響
上記のような、保育士の責任や専門性と社会的評価との乖離は、現役保育士や潜在的保育士(保育士資格を有しながら保育士としての就職を希望しない者)の心理的負担やモチベーションの低下につながり、離職や保育士としての就業を回避させる要因となっているおそれがある。
実際に、保育士に対する社会的な評価の低さが、保育人材の不足に関連していることを示唆する調査結果がある。図表1は、都道府県に対して保育人材が不足している要因をたずねた結果である。これをみると、回答選択肢が17項目あるなかで、「保育士という職業に対して良いイメージが持たれていない」という保育士の社会的評価の低さに関する項目が第4位となっている(注7)。

裏を返せば、保育士の専門性に対する理解および社会的評価が向上すれば、保育人材の心理的負担が軽減され、働く意欲の向上につながる可能性がある。日常生活においても、周囲の人々や社会から評価・理解されているという実感は、負荷のかかる場面で立ち向かうための支えや安心につながる。そうであるならば、保育士の働く意欲の向上においても、周囲の人々や一般の人々からの社会的評価や理解が、想定以上に重要になるのではないだろうか。
実際、保育所の多くが保育人材の確保・定着のために、保育士の専門性に対する理解と社会的な評価の向上へ向けた対策を求めている。図表2は、全国の保育所等に対して、保育人材の確保・定着において行政に求める支援をたずねた結果である。これをみると、「保育士のイメージアップ」が第2位になっている。保育士の専門性に対する理解と社会的な評価の向上へ向けた対策が急務である。

以降では、保育士の社会的評価が低位に留まっている要因について整理したうえで、保育人材確保の観点から、保育士の社会的評価の向上へ向けた対策の在り方について考察する。
4.保育士の社会的評価が上がりにくい要因
保育士の社会的評価が低位にとどまっている要因については、保育士資格取得の制度的なハードルの低さや、保育士の専門性が理解されにくいことなどが指摘されている。
(1)保育士資格取得の制度的なハードルの低さ
看護師など他の国家資格の専門職養成では4年制が主流で(注8)、なおかつ国家試験も課されるなど、資格取得が厳格化している。一方、保育士養成は2年制が主流であり(注9)、なおかつ養成施設卒業者には国家試験が課されていない。こうした資格取得までのハードルの差が、「保育士は専門職である」という社会的意識の形成を妨げた、などの指摘がある(注10)。
(2)保育の専門性が理解されにくい
「保育=子育て」というイメージが強く、その延長で、保育は専門的知識を必要としないものとして社会的に受け止められ、その専門性が理解されにくいことなども指摘されている(注10)。また、保育所保育指針(保育の基本的事項を定めた国の指針)の「保育の方法」に「乳幼児期にふさわしい体験が得られるように、生活や遊びを通して総合的に保育すること」とあるように、保育所では遊びを通してこどもの学びや健やかな育ちを支援する。こうした遊びを中心とした保育の活動には保育士の教育的な意図や専門性が不可欠だが、一般的には「保育士はこどもと遊んでいるだけ」の仕事として受け止められやすく、その専門性が理解されにくい。
5.保育士の社会的評価の向上へ向けて
このように保育士の社会的評価が低い状況のなか、その社会的評価の向上に向けてどのような対策が考えられるだろうか。
(1)保育士資格の高度化に関する検討
保育士資格取得の制度的なハードルの低さへの対策として、保育士資格の高度化を目指すことが提案されている。具体的には、「保育士資格に学位を必須とする(現行では、学位がなくても国家試験合格や指定養成施設卒業で資格取得可能)」、「教員免許のように、2種免許状(短期大学士)、1種免許状(学士)、専修免許状(修士)など、学位に応じた保育士資格の階層化を行う」、「養成カリキュラムの見直しを行う」、「養成施設卒業者に国家試験を課す」などが言及されてきた(注10)。
国際的には、保育者の学位レベルは学士(大学の学部課程修了)が主流になってきているなかで、日本はその潮流に乗り遅れているという指摘もある(注11)。学位という目に見える制度的裏付けによって社会的評価が向上する可能性も高いことから、これは重要な論点である。
他方、こうした高学歴化は、経済的あるいは時間的制約により保育士を断念する人々を増やす可能性もあり、実際の導入の方法などについては引き続き検討が必要である。
(2)保育士の担う職務や数値化できない専門性への理解促進
「保育=子育て」のイメージから、社会的に保育の専門性が理解されにくいことについては、保育士の担っている職務やその専門性について、広く社会的に知ってもらうための取り組みが必要だと考えられる。
しかしながら、保育士の専門性は成果として示すことや数値化して示すことが難しい。保育の専門性を知ってもらうための方法には工夫が必要である。
たとえば、保護者からの欠席連絡を知らせる一本の電話でも、「今必要な声掛けや支援は何だろうか」と、電話越しに聞こえる保護者の声の変化を気にかける。こうした応対には保育の専門的な力量が求められる。また、日々の保育のなかで、各年齢の発達段階やこどもたちが築いている友人関係、こどもたちが何カ月も前から挑戦してきたことや「やってみたい」と言ったことなどを踏まえ、その育ちにとって最良だと思う環境を設定することも、保育士の力量として、保育の専門性が問われる場面である。そのような深い「こども理解」と意図(ねらい)をもって、現場で日々実践されている数値化できない専門性や想いを、いかに広く一般の人に知ってもらうか、そのために誰にどのような情報発信ができるかを検討し工夫することが重要である。
(3)より広く、社会一般に向けた情報発信の必要性
一方、国も保育人材の確保のために、保育士の社会的評価の問題に対する施策を打ち出している。
冒頭で述べたこども家庭庁「保育政策の新たな方向性」には「保育の現場・職業の魅力発信」の項目があり、保育士の仕事に対する社会的理解の促進と社会的評価の向上に関連する施策が掲げられている。
具体的には、SNS上の保育に関する誤情報や、保育士・保育現場へのネガティブなイメージを生む情報の存在を課題とし、保育現場や保育士等の仕事の魅力を発信することによって保育人材の確保を図るとしている。その一環である魅力発信プラットフォーム「ハローミライの保育士」では、主に中高生や資格保有者を対象に、保育所等の実践事例集や実践動画などで保育の魅力を発信するとともに、中高生の保護者、進路指導担当者、地域の関係者など、社会全体の保育士という職業への理解促進に取り組むとしている。
このような情報発信によって保育士という職業への社会的理解が進めば、保育士に対する社会的評価の向上につながり、保育人材の働く意欲を高める可能性がある。
ただし、社会全体の保育士という職業への理解・評価の向上という点では、さらなる工夫が必要と思われる。「社会全体の保育士という職業への理解促進に取り組む」としつつも、こども家庭庁「ハローミライの保育士」特設サイトの紹介文には「保育士の仕事に興味がある方、保育の現場に復帰したい方、そんなミライの保育士さんに向けて」とある。この場合、情報発信の主な対象は、保育に関心をもち将来的に保育士となる可能性のある人材と、その関係者に向けられていると考えられる。
しかしながら、現役保育士や潜在的保育士が、周囲や社会から理解されている・適切に評価されていると感じられる環境を整えるためには、むしろ保育士としての就職に関わらない一般の人々に対して、保育の専門性や魅力に関する情報をいかに届けるかといった点について検討していくことが重要なのではないだろうか。
保育関係者にとどまらず、広く社会一般に対して保育の専門性に対する理解を求めるための情報発信をしていくことこそが、保育士の社会的評価向上につながるものと考えられる。
質の高い保育や、多様なニーズに応じた支援を実現するためには、それを支える保育士が自らの専門性に誇りをもって働き続けられる環境を整える必要がある。保育人材確保のためには処遇改善のみでなく、以上のような3点を含め、保育士の専門性に対する社会的理解および社会的評価向上への取り組みを進めていくことも、重要な視点である。
【注釈】
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詳しくは拙稿、小林菜「量から質へ、保育政策の転換(1)~質向上の最重要課題は保育人材の確保~」第一生命経済研究所,2025年11月など。
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太郎丸博「『先生』の職業威信」『日本労働研究雑誌』645,p.2‐p.5,2014年:p.2.
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職業威信を測る際には、以下のような質問をする。「世間では一般に職業を高いとか低いとかいうふうに区別することもあるようですが、いまかりにこれらの職業を高いものから低いものへ順に5段階に分けるとしたら、これらの職業はどのように分類されるでしょうか。それぞれの職業について、『最も高い』『やや高い』『ふつう』『やや低い』『最も低い』のどれか1つを選んでください」。そして「最も高い=100点」「やや高い=75点」「ふつう=50点」「やや低い=25点」「最も低い=0点」と25点間隔で点数を割り振り、各職業の平均値を計算する。そのようにして算出された値が各職業の職業威信スコアである(池田岳大「職業威信スコアに見る医療・福祉関連専門職の序列構造の推移およびその要因」『保健医療社会学論集』33(2),p.81‐p.91,2023年/直井優・鈴木達三「職業の社会的評価の分析」『現代社会学』4(2),p.115‐p.156,1977年)。このようにして測定された職業威信スコアは、各職業の社会的地位の高低だけでなく、それらの職業の社会的役割の機能的な重要性や (職務)遂行上の困難さに対する人々の評価が含まれているとされる(直井・鈴木,1977)。
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脇田彩「ジェンダーと職業威信」『理論と方法』36(1),p.51‐p.64,2021年。全国の20~69歳男女の調査モニターを対象に、同規模の性別・10歳刻みの年齢層のモニターを確保できるよう割り付けが行われたインターネット調査である。本稿で参照するC票は、全60職業について、520名の回答をもとに各職業の職業威信スコアが計算されている。
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1955年・1975年・1995年・2000年・2010年の複数年の調査結果をもとに、いわゆる「先生」と呼ばれる職業(大学教授・医師・小学校の先生・保育士など)と他の職業の職業威信スコアの変遷を分析した論文(太郎丸,2014年)でも、調査年ごとの平均値に対して「先生」と呼ばれる職業のほとんどが平均値以上であるのに対して、保育士は平均値を下回る年度があるなど、例外的な傾向があることが指摘されている。
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国立教育政策研究所「OECD国際幼児教育・保育従事者調査(TALIS Starting Strong)2024結果のポイント」2025年/OECD(2025)“Results from TALIS Starting Strong 2024”
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この調査は全国の都道府県、市区町村、保育所等(認可保育所・保育所型認定こども園・幼保連携型認定こども園・地域型保育事業)のそれぞれに対し行われ、都道府県41件・市区町村1,096件・保育所等9,373件から回答を得ている。
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榊原剛「保育士の専門性の高度化に向けた養成教育のあり方に関する研究(第1報)」『名古屋女子大学紀要』70,p.85-98,2024年。榊原は、厚生労働省「看護師等学校養成所入学状況及び卒業生就業状況調査」をもとに、2022年に看護系大学の入学者数が3年制短期大学・3年課程看護師養成所の合計を上回ったことから「看護師養成は実質的に大学がマジョリティとなった」と結論付けている。
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榊原(2024)は、厚生労働省「保育士資格関係資料」において、2021年度の指定保育士養成施設数のうち短期大学と専修学校の合計割合が大学を上回ること、厚生労働省「保育士の現状と主な取組」において保育士養成施設への入学者数の割合(2018年度)が短期大学と専修学校を合わせて6割にのぼることから、「保育士養成の学歴構成は未だ『短大卒』相当である」と結論づけている。
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榊原(2024)/矢藤誠慈朗「保育士養成の現状と課題」『日本家政学会誌』73(5),p.279‐p.284,2022年/吉田幸恵「保育士養成における課題」『名古屋経営短期大学紀要』51,p.81‐p.94,2010年、など。なお、本文で社会的評価の指標のひとつとして参照した職業威信の高低については、ジェンダー・ステレオタイプとの関連(池田,2023/脇田,2021)、各職業の在職者の平均教育年数や平均年収、専門職か否か等との関連(太郎丸,2014)などが指摘されていることを注記しておく。
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矢藤(2022)。
【参考文献】
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こども家庭庁「保育政策の新たな方向性(参考資料)」2024年
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こども家庭庁ホームページ「『ハローミライの保育士』特設サイト」(最終閲覧日2025年11月28日)
小林 菜
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。