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2025.08.05
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シリーズZ世代考(7)「Z世代の経済的不安とライフデザイン教育」
~ライフデザインを「自分ごと」として学ぶ機会の充実を~
西野 偉彦
- 目次
1.「将来の暮らしに経済的な不安がある」Z世代は7割以上
Z世代は、定義が厳密に定められているわけではないが、おおむね「1990年代半ばから2000年代に誕生した世代」を指しており、2025年現在では10代後半から20代後半にあたる。生まれながらにしてインターネットが利用可能だったことから「デジタル・ネイティブ」といわれ、多様性を重んじる傾向などが指摘されている。
これまで「シリーズZ世代考」と題して、多角的・多面的にZ世代について考察してきたが、本稿では「Z世代とライフデザイン」を取り上げる。Z世代は、自分の将来に対して不安を抱いている世代といわれている。第一生命経済研究所が2025年3月に、全国の18~69歳の1万人に対して実施した調査によると、「将来の暮らしにおいて経済的な不安がある」と回答したZ世代全体(18~27歳)のうち、「あてはまる」と「どちらかといえばあてはまる」の割合を合わせると72.4%にのぼった(図表1)。

こども家庭庁が2023年に実施した調査でも、子ども・若者の7割以上が仕事に関して「十分な収入を得られるか」について不安があると回答している(注1)。Z世代は幼少期以降、ITバブル崩壊、リーマンショック、東日本大震災、コロナ禍など経済不安が高まる時期を過ごしていることの影響も考えられる。こうした日本における若者の収入への不安感は、アメリカやドイツなど4か国の同世代と比べても高い水準にある(注2)。物価高など景気の動向への不安感もあるとみられる。
2.「ライフデザインについて学ぶ機会」と経済的な不安
なぜ、Z世代の多くが「将来における経済的な不安」を抱いているのだろうか。第一生命経済研究所の同調査で、ライフデザインについて学ぶ機会の有無別にみると、ライフデザインについて学んだことがない人のうち、「将来の暮らしにおいて経済的な不安がある」人は、Z世代全体で77.5%にのぼった(図表2)。
これは、ライフデザインについて学んだことがあり「将来の暮らしにおいて経済的な不安がある」人と比べると20ポイント以上高い。Z世代にとって、ライフデザインについて学ぶ機会の有無が、将来の暮らしにおける経済的な不安に影響を及ぼしていることがわかる。ライフデザインについて学ぶということは、進路選択を含め将来の様々なライフステージを見据えて必要な情報を得たり、関連する知識などを身に付けるとともに、それらを通じて経済的な見通しを立てることにもつながるからだ。

また、「学んだことはないライフデザインの分野」をみると、Z世代全体では「結婚や子育てについて」が49.5%、「ライフデザインを考える上で必要な情報について」が45.2%、「お金の稼ぎ方や資産形成について」が42.2%などとなっている(図表3)。
Z世代のなかでも、Z世代前期(23~27歳)が、Z世代後期(18~22歳)に比べて、ライフデザインに関するどの分野においても「学んだことはない」割合が高い。特に「ライフデザインを考える上で必要な情報について学んだことはない」は、Z世代前期とZ世代後期の差が10ポイント以上となっている。

3.ライフデザインを学ぶ「高校家庭科」(家庭基礎・家庭総合)
同じZ世代でも、前期と後期でライフデザインについて学んだ機会に差が生じているのは、なぜだろうか。その背景の一つには、学習指導要領の改訂がある。
学習指導要領とは、全国どこの学校でも一定の水準が保てるように、文部科学省が定めている教育課程(カリキュラム)の基準である。約10年に一度改訂されており、現行の高校学習指導要領は2018年告示、2022年実施となっている。2025年現在は実施3年目であり、この学習指導要領のもとで科目を履修した若者は、前述の第一生命経済研究所の調査におけるZ世代後期(18~22歳)に含まれる(注3)。
現行の高校学習指導要領では、社会の変化や複雑化に対応し、生徒が自らの人生を主体的に構築する力の育成に重点が置かれている。特に「家庭基礎」と「家庭総合」という家庭科においては、結婚や子育て、資産形成、健康、働き方やキャリア形成など、ライフデザインに関して多岐にわたる内容が盛り込まれている。
たとえば、結婚や子育てについては、多様化する家族のかたちや社会のあり方を背景に、自分らしい生き方や様々な家族観について考察できるような学びが設計されている。具体的には、家族の機能・役割の歴史的変遷や、少子高齢化などの現代日本が直面している課題を学び、結婚や子育ての意義・環境を知ることで、自身の将来像や価値観を柔軟に形成できるよう工夫されている。
ライフデザインに欠かせない資産形成や金融リテラシーも、2022年4月からの成人年齢引き下げを受けて、生徒が従来に比べて踏み込んだ内容を学ぶことができるようになった。契約やクレジットカードなどに関する消費者被害の防止に加え、ライフステージごとの支出や収入を考えること、家計管理を実践するための具体例、資産形成の特徴やリスクなどにも言及している。生徒は、社会に出て自立した生活を送るうえで不可欠な金融リテラシーの基礎を身につけることができる。
また、健康については、心身の健康を維持・増進しながら長い人生を設計する観点が重視されている。食生活の重要性や生活習慣、ライフサイクルに応じた健康管理などが組み込まれ、生涯を通じた健康づくりの意識を早期から養うことが盛り込まれている。
さらに、グローバル化や少子高齢化の進展など現代日本の就労環境を踏まえ、ワーク・ライフ・バランスの重要性など多様な働き方を尊重する姿勢やキャリア形成に関する学びも拡充されている。生徒が社会で求められる資質・能力、進路や職業選択について学び、自身のキャリアビジョンを主体的に描けるような指導が期待されている。
こうした高校家庭科で学ぶ内容は、「持続可能な社会」の実現という観点とも結び付いている。SDGsの理念から家庭生活を考えることで、消費者選択やエシカル消費、家庭内での環境配慮などを学び、個人の幸福だけでなく、社会全体の持続性も重視する意識を養うことが目指されている。
もちろん、前述の第一生命経済研究所の調査におけるZ世代前期(23~27歳)が履修した旧・学習指導要領の「高校家庭科」においても、結婚・子育てや健康などライフデザインに関して学ぶことができた。ただ、現行の学習指導要領では、各教科に共通する「主体的・対話的で深い学び」の方針のもと、家庭や地域及び社会における諸課題を発見し解決するとともに、様々な人々との協働や社会に参画する姿勢まで身に付けることが目指されており、より実践的かつ多角的にライフデザインを考えられるようになったといえるだろう(注4)。
4.学校教育と社会人教育でライフデザインを学び続けるために
こうした学習指導要領における高校家庭科の実効性を高め、Z世代が抱く将来の経済的な不安を解消するためには、いくつかの課題がある。
第一に、家庭科の単位数や履修の現状である。現行の高校学習指導要領では「家庭基礎」(2単位)または「家庭総合」(4単位)のいずれかの履修が必修となっているが、学校現場では前者が選択されるケースが多い。この単位数では、膨大かつ変化する家庭科の学習内容すべてを十分に深く取り組むには授業時数が足りない。金融教育や社会保障、そしてライフデザインの探究までを網羅するとなると、知識習得にとどまらず、体験的な学びを通して「主体的に考える力」を養うにはさらなる時間的余裕が必要だ。
第二に、高校生及び保護者の家庭科に対する意識や価値付けの向上である。大学入試において家庭科は選択できない場合が多く、進路指導や学力評価の面で家庭科が「受験に直結しない教科」という認識は根強い。いまだに「家庭科といえば調理や被服」というイメージにとどまりがちで、その学びの核心にある「ライフデザインの涵養」という本質まで意識が届きにくい現状があると考えられる。また、家庭科の授業内容が社会生活の基盤となりうることを十分に理解している保護者も多くないだろう。
第三に、教員の専門性や授業リソースの限界である。近年は金融経済教育や社会課題への対応として、家庭科教員にも高度なリテラシーや最新の知識などが求められているが、そのサポートは十分ではない。教員は研究会などを通じて授業実践のアップデートを図っているものの、全てを専門的に指導するのは困難であるため、場合によっては外部から各分野の専門家を招聘することも必要である。
こうした課題を解決し、Z世代が将来的な経済不安を払拭できるようなライフデザインを学ぶ機会を一層充実させる方策としては、学校教育と社会人教育の両面から行うことが大切だ。
学校教育では、家庭科が「家庭」に直接関連する内容を学ぶだけではない科目となっている現状を踏まえ、「ライフデザイン科」に衣替えすることで、単位数や授業時数の充実を図ってはどうか。すでに「家庭科」で行われているプロジェクト学習や体験学習、生徒同士・地域社会との協働活動を含めて、知識の習得にとどまらず「自分ごと」としてライフデザインを構築する意識や能力を醸成することが期待される。「ライフデザイン科」の履修は結果的に進路選択などにも資する可能性がある。
社会人教育では、前述のとおりZ世代前期(23~27歳)が、Z世代後期(18~22歳)に比べて「ライフデザインを学んだことはない」割合が高いことを受けて、「社会人になってからのライフデザインを学ぶ機会」を充実させる必要がある。現行の高校学習指導要領にもとづく文部科学省検定教科書の「家庭科」を読むと、社会人になってからも役に立つ内容が非常に多い。むしろ、教科書に掲載されている「給与明細の読み方」や「住居の間取り」、「バランスのよい食生活に向けたレシピ」などは、社会人になってからこそ実感が湧くかも知れない。従業員のための「ライフデザイン研修」などを実施している企業も少なくないが、新入社員や若手社会人向けに、高校「家庭科」の教科書をもとにした研修(学び直し)を行うことも必要ではないだろうか。
このように、学校教育と社会人教育の両輪によって、誰もが必要な「生活人として自立し、よりよい人生を構築する力」を継続的に身に付けるとともに、Z世代を含む若者たちが将来の経済的な不安を払拭するために、ライフデザインを「自分ごと」として学び続ける機会を一層充実させることが求められる。
【注釈】
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同上
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現行の高等学校学習指導要領は、2019年度からの移行期間を経て、2022年度入学生から年次進行で実施されている。文部科学省「高等学校学習指導要領について」参照。
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高等学校「家庭科」学習指導要領の新旧比較は、文部科学省「高等学校学習指導要領 比較対照表【家庭】(各学科に共通する教科)」参照。
【参考文献】
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文部科学省検定済教科書 高等学校家庭科用『家庭基礎 自立・共生・創造』東京書籍2022年
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文部科学省検定済教科書 高等学校家庭科用『家庭総合 自立・共生・創造』東京書籍2022年
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第一生命経済研究所『ライフデザイン白書2024 ウェルビーイングを実現するライフデザイン』東洋経済新報社2023年
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第一生命経済研究所ライフデザイン研究部「第13回 ライフデザインに関する調査~前編(世代別にみた幸福度、ライフデザイン教育機会ほか)~」第一生命経済研究所2025年
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本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

