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2025.03.11
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シリーズZ世代考(4)「Z世代は被選挙権年齢引き下げを望むのか」
~若者の社会課題への関心を政治参加につなげるために~
西野 偉彦
1.与野党が重点政策に掲げる「被選挙権年齢引き下げ」
2025年3月、自由民主党の選挙制度調査会は「被選挙権年齢引き下げ」を検討するプロジェクトチームを設置することを決定した。現行制度の被選挙権年齢は、衆議院議員や地方議員などが満25歳、参議院議員や都道府県知事などが満30歳である。
被選挙権年齢引き下げは、自民党に限ったアジェンダではない。2024年の第50回衆議院議員総選挙を前に、与野党を問わず、多くの政党が被選挙権年齢引き下げについて政策集に盛り込んだ(図表1)。引き下げる年齢については意見が分かれているため、今後それぞれの党内及び各党間で調整・協議が行われることになる。

被選挙権年齢引き下げの検討は、2015年6月の公職選挙法改正で実現した、いわゆる「18歳選挙権」をふまえたものだ。選挙権年齢引き下げは1945年に「20歳以上」となって以来70年ぶりで、2015年当時、18歳・19歳の約240万人が新たに有権者となった(注1)。この公職選挙法改正にあたっては様々な若者団体が協力しており、筆者も与党を含む「選挙権年齢に関するプロジェクトチーム」や衆議院文部科学調査室などの要請で、選挙権年齢の引き下げやそれに伴う学校教育などに関して情報提供を行った。
その後、2022年4月には民法が改正され成年年齢も20歳から18歳に引き下がり、「18歳選挙権」と「18歳成人」になったものの、今なお18歳が公職選挙に立候補することはできない。すなわち、選挙権年齢・成年年齢と、被選挙権年齢の間にギャップが生じている状況といえる。
一方、海外に目を転じてみると、195か国のうち最も割合の多い33.3%の国で被選挙権年齢が18歳以上となっている(図表2)。経済協力開発機構(OECD)の加盟国に限ってみると、過半数の国で被選挙権年齢が18歳以上である(注2)。18歳から有権者として投票できるだけではなく、政治家として政策決定に直接影響を及ぼすことが世界の潮流になりつつある。

2.被選挙権年齢引き下げをめぐる論点とは
今後、被選挙権年齢について、選挙権年齢や成年年齢と同様に18歳へ引き下げることを想定した場合、検討すべき論点を整理する必要がある。
第一の論点は、「立候補も想定した主権者教育の充実」である。主権者教育とは、「国や社会の問題を自分のこととして捉え、自ら考え、自ら判断し、行動していく」ための教育である(注3)。2023年5月に公表された文部科学省の「主権者教育に関する実施状況調査」によると、国公私立高等学校などのうち94.9%で主権者教育が実施されている(注4)。とはいえ、現行の主権者教育は「有権者の視点」に立った内容が主となっており、「立候補者の視点」が重視されているわけではない。したがって、被選挙権年齢引き下げに向けて、若者が政治家の役割や権限などについて実践的に学ぶ機会をつくる必要がある。たとえば、海外では普段から高校生が政治家と話したり、議員事務所のインターンとして活動することなどを通じて、政治の現場を体験するプログラムがある。日本でも、政治家を学校に招いて生徒と対話する授業や、他の職業体験と同様に議員インターンシップを実施するなど、従来よりも踏み込んだ内容の主権者教育が求められるのではないか。
加えて、被選挙権を行使する前段階として、学校内における生徒会活動の活性化も一層重要になってくるだろう。被選挙権年齢が18歳以上のドイツでは、生徒会活動を通じて国の政策形成にまで携わることができる取組みをはじめ、民主的な市民を育てる学校教育や若者参画の制度が整えられている。生徒会活動を通じてリーダーシップやコミュニケーション能力を向上させた生徒たちは、自分の意見をもち、それを他者に伝える能力を身につけることが期待されている。
第二の論点は、「供託金制度の見直し」である。供託金は売名行為や泡沫候補の乱立を防ぐための制度で、市議会議員選挙でも30万円(政令市では50万円)、衆議院議員総選挙の小選挙区などでは300万円が必要となる(注5)。選挙では様々な費用がかかるが、供託金だけをみても18歳が容易に準備できる金額ではないだろう。
一方、2024年の東京都知事選挙などをみると、供託金制度そのものを揺るがす問題も起きている。仮に被選挙権年齢引き下げが実現しても、肝心の18歳が供託金制度により立候補が叶わず、逆に経済力を背景に売名行為を目的とした候補者が乱立する事態になれば本末転倒である(注6)。欧米では、供託金制度ではなく立候補に必要な署名数を集める制度を導入している国もある。経済的な制約を受けずに立候補できる環境が整っているともいえ、こうした事例もふまえて、被選挙権年齢引き下げの議論と合わせて、日本でも供託金制度のあり方の見直しが必要である。
第三の論点は、「立候補に対する周囲の理解促進」である。実際に18歳が公職選挙に立候補するためには、学校や家族などの理解が欠かせない。たとえば、高等学校在学中に立候補する場合、学業に支障をきたすとして休学や退学を余儀なくされては本末転倒である。また、家族との協力も必要不可欠であり、周囲の理解と支持が得られない場合、立候補を断念せざるを得ない状況もありうる。実際に18歳が選挙活動を行うためには、社会全体の理解と支援が重要である。
海外では、若者が選挙活動に参加するための家族の理解とサポートが重視されており、家庭内での対話や家族セミナーが行われることもある。これにより、若者とその家族が選挙活動の意義や現実を共有する機会が増え、立候補の際の経済的・心理的負担が軽減されているようである。
もちろん、被選挙権年齢引き下げで起こりうる一時的なムーブメントに乗って立候補するのではなく、若者が自身のライフデザインの中で「なぜ選挙に出るのか」や「政治家としてどんな社会を目指したいのか」などを熟考し、周囲の理解を得る努力をすることが大切だ。そのうえで、若者の立候補を支援するためのガイドラインやサポート制度の整備なども含め、立候補に際し支援体制をどう整えるのか、公平性や中立性の観点からも十分に検討する必要がある。
3.Z世代の「社会課題への関心」を政治に活かすために
こうした制度改革や環境整備を行いつつ、被選挙権年齢引き下げが実現したとすると、果たして若い世代は選挙に立候補するのだろうか。
18歳以上に被選挙権年齢を引き下げることで、新たに立候補が可能になる若者は「18歳~24歳」であり、いわゆる「Z世代」にあたる。Z世代は、おおむね「1990年代半ばから2000年代に生まれた世代」を指しており、2025年現在では10代半ばから20代後半である。拙稿「シリーズZ世代考(1)なぜZ世代の投票率は低いのか」でも述べたように、Z世代の投票率は全年代の投票率において最も低く、政治への関心も低い水準にある(注7)。Z世代は政治家に対する不信感も強く、公益財団法人明るい選挙推進協会が2021年に実施した調査によると、政治家 (国会議員・地方議員・首長)について、「全く信頼できない」と「あまり信頼できない」を合計した割合は18歳~29歳の7割近くに達している(注8)。
実際にZ世代は選挙においてどの程度立候補しているのだろうか。2024年の第50回衆議院議員総選挙では、20代の立候補者数は全体の立候補者の約1.6%にとどまった(注9)。地方議会では、全国の市議会議員のうち25~29歳の議員はわずか0.7%に過ぎない(図表3)。国・地方を問わず、Z世代の議員は非常に少ない現状となっている。

一方で、Z世代の「社会課題への関心」は高い。連合が2022年に公表した調査によると、Z世代の87%が「関心のある社会課題がある」と回答している。関心をもっている社会課題の内容は、Z世代の社会人では「長時間労働(ワーク・ライフ・バランス)」や「医療・社会保障(年金問題含む)」など、Z世代の学生では「ジェンダーにもとづく差別」や「自殺問題」などが挙げられているほか、Z世代全体を通じて「いじめ」に対する関心が高かった(注10)。つまり、Z世代の多くは社会課題に関心をもっているが、その解決のために政治家のキャリアを選択していないということである。
だが、こうした社会課題の解決には、企業やNPOなど民間の取組みはもとより、関連する法律や政策なども欠かせず、テーマによっては政治が果たすべき役割も大きいのではないか。Z世代がそれぞれ関心のある社会課題の解決を目指すとき、政治家になるとどのような役割を果たせるのか、具体的なイメージをもてるようになれば、選挙への立候補も選択肢になりうるのではないだろうか。
海外では、政治の役割を若い頃から具体的に理解する取組みを行っている国もある。18歳から被選挙権を得られるイギリスでは、若者の政治参加を積極的に推進するための「Young Mayor」制度を導入している自治体がある。これは、被選挙権年齢に満たない若者が、学校などを通じて選挙で選ばれ、実際の市長や市議会などに様々な助言を行う仕組みである。一定の予算を監督することも認められており、政治家の役割や権限を実体験することで、被選挙権を得た後に公職選挙に立候補した際のトレーニングにもつながる。
日本においても、地方議会や自治体と学校が協働し、Z世代が政治家の立場や役割を理解しつつ社会課題を解決するプログラムを開発する必要がある。たとえば、神奈川県では、県立湘南台高等学校と藤沢市議会が連携して2019年度に公民科の選択科目「ソーシャルデザイン」を実施した。同市議会の広報広聴委員会に所属する各会派の議員が同校を訪問し、市内の課題についてフィールドワークなどを行った高校生と意見交換を行い、それを踏まえて生徒がまちづくりの陳情に取り組んだ。高校生による陳情は、同市議会に提出され「趣旨了承」となったことで、2020年度から藤沢市におけるプロジェクトの一環として実施されるなど、実際の地域参画につながっている(注11)。こうした取り組みを通じて、若者は関心のある社会課題を解決する過程における政治家の役割などについて、身近に学ぶことができるのではないだろうか。
このように、教育制度や社会全体の理解・支援が整えば、Z世代を中心に若者が有権者としてだけでなく、立候補者としても政治に参加することができるようになる。被選挙権年齢引き下げは、単に法律の改正にとどまらず、「こども・若者参画社会」をつくるための重要な一歩となることが期待されている。
【注釈】
【参考文献・資料】
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小串聡彦・小林庸平・西野偉彦・特定非営利活動法人Rights「ドイツの子ども・若者参画のいま」2015年
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西川明子「子ども・若者の政策形成過程への参画」国立国会図書館「レファレンス」2016年3月号
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那須俊貴「主要国における被選挙権年齢(資料)」国立国会図書館「レファレンス」2020年6月号
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西野偉彦「『18歳被選挙権』を見据えた教育と環境の整備を」自治日報2024年10月21日号
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西野 偉彦
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