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シリーズZ世代考(5)「初任給アップでZ世代を引き留められるか」

~若手のキャリア志向を職場で活かしていくために~

西野 偉彦

目次

1.「初任給30万円」が話題になった2025年春

2025年2月に公表された帝国データバンクの調査によると、2025年4月入社の新入社員の初任給について「前年度から引き上げる」と回答した企業の割合は7割を超えた。初任給の金額としては「20万~25万円未満」が62.1%で最も高く、前年度と比べると4.7ポイント増加した(注1)。実際、厚生労働省の調査によると、新規学卒者(大卒)の賃金は10年前に比べて上昇傾向にあり、2024年度には男性が25万円、女性が24万円をそれぞれ超えている(図表1)。

図表
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2025年4月の新規学卒者のうち大卒者の社員の初任給は、「20万~25万円未満」からさらに上昇する可能性が示唆されている。商社や金融、ゼネコンなどが相次いで「初任給30万円台」に引き上げるという報道を目にした人も少なくないだろう。物価高騰や人材獲得競争が激化するなかで、就職活動は「超・売り手市場」が進行しているといえる。

2.新入社員の35%が早期退職する時代

その一方で、新規学卒者が入社3年以内に離職する割合は年々高まっている。2024年10月に厚生労働省が公表した「新規学卒者の離職状況」によると、2021年3月に学校を卒業し、3年以内(2024年3月まで)に仕事を辞めた人の割合(3年以内離職率)は、大卒が前年比2.6ポイント増の34.9%、高卒が1.4ポイント増の38.4%と、いずれも増加傾向にある。特に、大卒の離職率は2005年以来、16年ぶりの高水準である(図表2)。

図表
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近年、新規学卒者で就職の時期を迎えている世代は、いわゆる「Z世代」にあたる。Z世代は明確な定義は定められていないが、おおむね「1990年代半ばから2000年代に生まれた世代」を指しており、2025年現在は「20代が中心」といえる。生まれながらインターネットが利用可能だったことから「デジタル・ネイティブ」といわれ、多様性を重んじる価値観をもつ傾向などが指摘されている。

なぜ、Z世代の新規学卒者は3年以内に離職する傾向があるのだろうか。厚生労働省の「令和5年若年者雇用実態調査」によると、初めて勤務した会社を2~3年未満で退職した理由は、「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった」(30.3%)、「賃金の条件がよくなかった」(30.0%)、「人間関係がよくなかった」(23.1%)の順となっている(注2)。この調査の対象は厳密にはZ世代だけではないが、若い世代の早期退職の傾向として雇用条件や労働環境が主な理由として挙げられていることがわかる。

3.「入社時から退職を視野に」というZ世代の就職観

それでは、Z世代は就職時に何を重視しているのだろうか。東京商工会議所による新入社員を対象にした調査をみると、「処遇面(初任給、賃金、賞与、手当など)」が56%と最も高く、続いて「社風、職場の雰囲気」(54.3%)、「福利厚生」(45.4%)などとなっている(注3)。前述の厚生労働省の調査結果と照らし合わせても、Z世代の新入社員は職場における「処遇」を重視しており、この点では「初任給」の引き上げという施策はそのニーズに応えているといえるだろう。

ただ、「処遇面」を改善することで、新規学卒社員の35%程度が入社3年以内に離職することを防げるのかというと、必ずしもそうとは言い切れない。仮に初任給が引き上げられたとしても、その高水準が2年目以降の賃金にも反映され続けられるかどうかは未定である。加えて、前述の東京商工会議所の調査をみると「チャンスがあれば転職したい」と回答した新入社員は10年前に比べて14.5ポイント増加しており、2024年度は「将来は独立」と「時期をみて退職」も合わせると、Z世代の新入社員の約4割が入社段階から退職することを想定しているとみられる(図表3)。

図表
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「しっかり自分の価値とスキルを磨いて次のキャリアに活かしたいと思います!」。

これは、今春、初任給を前年度より引き上げると報じられた企業から内定を得たZ世代の大学新卒者から直接聞いた言葉である。それも1人や2人からではない。「待遇が良いにもかかわらず、これほどまでに入社前から転職が前提なのか」という衝撃を受けたが、Z世代の新入社員の一部にとって転職を視野に入れた就職は「ごく普通の感覚」なのかもしれない。

4.Z世代のキャリア志向を職場で活かせる取組みを

このような状況をふまえて、企業はZ世代の早期退職をくい止めるためにどのような対策をしているのだろうか。厚生労働省の調査によると、「入社前後の認識のズレ」の防止や「労働時間・休日・休暇の条件」の改善を図る観点から、第2位に「採用前の詳細な説明・情報提供」(58.4%)、第3位に「労働時間の短縮・有給休暇の積極的な取得奨励」(52.9%)が挙げられている(図表4)。これらは、若手社員の早期退職の原因に直接対応した取組みといえる。

図表
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一方、注目すべきは「職場での意思疎通の向上」(59.7%)がわずかながら第1位になっている点である。コロナ禍を経て、職場でのコミュニケーションは企業によって対面で行うとは限らなくなっていることに加え、前述のようにZ世代の「キャリア志向」が他社に向けられることを防ぐためにも一層重要になっている。

拙稿「シリーズZ世代考(3)Z世代の新入社員に求められる力とは」 でも述べているが、Z世代の新入社員は規律性を敬遠する傾向がある一方で、企業側は逆に規律性を新入社員に求めようとする傾向が指摘されている(注4)。たしかに、規律性は組織で働くうえで必要な要素であるが、新入社員に対して丁寧なコミュニケーションを取らずに規律性を強調し過ぎると、Z世代の価値観に合わなくなり、結果的にキャリア志向を他社に向けることで早期退職につながる可能性もある。

初任給を引き上げて新入社員を採用したにもかかわらず、当初から将来的に退職を想定されていることは多くの企業にとって避けたい事態だろう。そのためにも、Z世代の新入社員に対しては、入社時から丁寧かつ適切なコミュニケーションを図ることが必要だ。Z世代ならではのキャリア志向や特性と企業側の意向がミスマッチを起こさない工夫や、Z世代の新入社員が自社で活躍するための「価値とスキル」を高められる成長実感を継続的に担保できるような人材配置・育成が求められる。


【注釈】

  1. 帝国データバンク「初任給に関する企業の動向アンケート(2025年度)

  2. 厚生労働省「令和5年度若年者雇用実態調査の概況」の「表17『性・年齢階級・最終学歴・雇用形態・初めて勤務した会社での勤続期間階級、最終学校卒業後初めて勤務した会社をやめた主な理由別在学していない若年労働者割合』」参照。

  3. 東京商工会議所「2024年度新入社員意識調査集計結果」の「就職先の会社を決める際に重視したこと」参照。

  4. 同上の「『社会人基礎力』を構成する能力要素のうち、仕事をする上で特に大事にしたいこと」(参考:企業向け調査の結果との比較)参照。

 

【参考文献】

  • 島田恭子『わかる社会人基礎力 人生100年時代を生き抜く力』誠信書房2019年

  • 平澤克彦・中村艶子編著『ワークライフ・インテグレーション 未来を拓く働き方』ミネルヴァ書房2021年

西野 偉彦


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

西野 偉彦

にしの たけひこ

ライフデザイン研究部 主任研究員
専⾨分野: 教育(子ども・若者の学校教育から社会人の学び直しまで)、Z世代やα世代の生活行動・価値観・社会参画

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