処方薬の市販薬化の流れと気を付けたいこと

~OTCで公的医療保険の財政改善、だけではなく~

重原 正明

目次

1. 政策的に「市販薬」の拡大が進められている

最近「医療用でしか使えなかった薬が薬局で買えるようになりました」という広告を耳にすることが多い。以前には医師の処方がなければ買えなかったような成分の濃い医薬品や強い効果を持つ医薬品が、薬局等で買える市販薬(専門用語ではOTC医薬品(注1)という)になった例が増えている。このような、処方薬から市販薬への転用が認められた医薬品を「スイッチ OTC医薬品」と呼ぶ。

スイッチOTC医薬品の増加は政府の政策によるものである。政府は、公的医療保険財政の健全性確保と政府支出の削減のため、医療費の効率的な支出に努めている。その一環として、軽微な疾患については医者にかからず薬局で薬を買って対応するセルフメディケーションを推進している(注2)。また将来は、成分や効能で市販薬に類似のものがある処方薬を、保険適用の対象から外すことも考えている(注3)。

2. 世界では(日本でも)保険適用の薬の自己負担割合は必ずしも一律ではない

世界では、公的医療保険での薬剤費自己負担割合は一律とは限らない(資料1)。

図表
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資料1の通り、薬の性質によって自己負担率を変える国や、一定額までは自己負担とする国が存在する。公的医療保険で給付すべき範囲を考えて、公的給付に傾斜をつけたものと考えることができよう。

実は日本でも、公的医療保険での薬剤費の自己負担割合は実質的に一律ではなくなっている。2024年10月から、ジェネリック医薬品(後発医薬品)がある保険適用薬(注4)について、非ジェネリック医薬品(先発医薬品)を受け取った場合は、ジェネリックと非ジェネリックの差額の4分の1は差額ベッド等と同じ選定療養として保険適用外・自費診療となっている(資料2)(注5)。

図表
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実質的に非ジェネリック医薬品について自己負担割合を引き上げたとみることもできる措置で、今後の薬剤別自己負担率導入に道を開く制度ともみられなくはない。

3. 今後に向けて、真に効率のよい医療のための議論を

高齢化が進む日本における公的医療保険の財政を考えても、また今後予想される医療人材の不足への対応(受診件数の削減)を考えても、「真に保険が必要な給付に公的医療保険の給付対象を絞る」「セルフメディケーションを進める」という政府の政策には一定の根拠がある。その一方で検討しなければならない課題も多い。

保険給付に傾斜をつけるためには、どのような医療を「真に保険が必要な領域」とするかについて、国民的合意を得ることが必要であろう。

また診療を通して治療していた疾患を市販薬に頼るのであれば、医薬品の供給体制の充実についても検討すべき点があろう。薬剤の専門家は不足気味で、実際に限られた時間しか特定の医薬品を販売できない薬局・ドラッグストアも多いようである(注6)。2025年5月に法律が改正され、薬剤師等が常駐しない場所でもオンライン管理による市販薬の販売が可能となる(注7)など改善も図られているが、薬不足の問題も含めてより一層の検討が必要であろう。

一方で、供給の充実が医薬品に関する事故・犯罪を増加させる可能性もある。従来の市販薬でも問題になることではあるが、特にスイッチOTC医薬品は、効果も副作用も強いものがあるため、事故防止、過剰・重複販売やオーバードーズの防止について対策が必要である。ここは薬局の服薬指導・服薬管理等の機能と密接にかかわってくるところである。

さらに、重い病気の前兆が、例えば風邪や神経痛に似た軽い症状で現れることも多い。予防と早期発見により疾病の重症化を未然に防ぐことも医療政策の柱であるが、これとセルフメディケーション推進の動きとは対立してしまう可能性がある。健診や身体測定機器の活用等で、この対立をどう克服していくかは、大きな課題であろう。

国民皆保険が名ばかりのものになり、国民の健康が公的に保障されることがなくなることのないように、例えば処方薬から市販薬への移行に関しても、将来の真に効率の良い医療に向けた議論が、十分に行われることを望みたい。

以 上

【注釈】

  1. OTCとはOver The Counterの略で、「店頭で買える」の意味。

  2. 例えば内閣府(2014) 二.テーマ1(3)ii) ③医療用医薬品から一般用医薬品への移行(スイッチ OTC)の促進 参照。

  3. 内閣府(2025)には39ページに「持続可能な社会保障制度のための改革を実行し、現役世代の保険料負担を含む国民負担の軽減を実現するため、OTC類似薬の保険給付の在り方の見直しや、(中略)などの改革について、引き続き行われる社会保障改革に関する議論の状況も踏まえ、2025 年末までの予算編成過程で十分な検討を行い、早期に実現が可能なものについて、2026 年度から実行する。」との記載がある。

  4. 日本では保険適用となる医薬品は医師の処方箋による指示に基づく処方薬に限られるが、先進医療などで処方薬でも保険適用とならない医薬品があり得る。それらを排除するためここでは保険適用薬ということばを使っている。

  5. 資料2にあるとおり、医学的に非ジェネリック医薬品が必要な場合は対象外。 

  6. 市販薬には大きく第1種医薬品、第2種医薬品、第3種医薬品の3種類があって、第1種は薬剤師しか販売できない。なお薬局では人体に使用するものとして医薬品でない医薬部外品や清涼飲料水なども売っている。

  7. 厚生労働省(2025)スライド1の4.③「薬剤師等による遠隔での管理の下で、薬剤師等が常駐しない店舗における一般用医薬品の販売を可能とする。」が該当箇所。

【参考文献】

重原 正明


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

重原 正明

しげはら まさあき

政策調査部 シニア研究員
専⾨分野: 社会保障・保険・年金、リスク管理・保険数理、会計・開示

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