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2026.06.24
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FIFAワールドカップ2026出場国の資産形成(4)モロッコ
~アフリカの星はサッカーも社会保障も堅守速攻?~
重原 正明
- 目次
1. ヨーロッパからは近いアフリカの星、モロッコ
本シリーズでは、FIFAワールドカップ2026出場国における資産形成の制度や現状などを概観する。第4弾となる本稿では、2022年カタール大会でアフリカ初のベスト4進出を果たしたモロッコを取り上げる。
映画「カサブランカ」の舞台ではあるものの、日本では、モロッコはアフリカの国の中では比較的印象が薄い方かもしれない。しかし、ヨーロッパとは地中海を挟んで近い位置にあり、実際多くの観光客が訪れる国である。フランス(一部スペイン)の保護領であったことの影響が強く、外貨ではドルよりユーロ、外国語では英語よりフランス語(第2言語)の方がよく用いられている。前回カタール大会での監督はフランス出身であったが、大会直前に交代した。2030年ワールドカップ主催国(スペイン・ポルトガルと共催)の1つでもある(注1)。
ワールドカップ2026では、初戦のブラジル戦をドローに持ち込み、第2戦ではスコットランドに勝利した。決勝トーナメントでの日本との対戦もあり得るが、アフリカの星(モロッコの国旗は赤地に緑色の星(スレイマンの五芒星)が中央に描かれたもの)が前回のような旋風を巻き起こせるかどうか興味が持たれる。
2. 職業別の5つの公的年金と、3種の2階部分の年金
モロッコの公的年金制度のうち基礎年金(1階部分)は、職業別の次の5つの制度から成り立っている。( )内は制度の略称。
― Le Régime des Pensions Civiles(CMR-RPC):国家公務員・公的セクター向け
― Le Régime des Pensions Militaires(CMR-RPM):軍人向け
― Le Régime Collectif d’Allocation de Retraite - Régime Général(RCAR-RG):CMR-RPC及びCMR-RPM適用外の公的セクター向け
― Le Régime de Sécurité Sociale(CNSS-LT):民間企業被用者向け(注2)
― Le Régime de Pensions des Travailleurs Non-Salariés(TNS):個人事業主・フリーランス向け
CMR-RPCとCMR-RPMはモロッコ退職基金(Caisse Marocaine des Retraites, CMR)が運営し、RCAR-RGは国立年金保険基金(Caisse Nationale de Retraites et d’Assurances, CNRA)が運営、民間セクターの2つのSchemeは国立社会保障基金(Caisse Nationale de Sécurité Sociale, CNSS)が運営している。
2階部分の上乗せ年金については、3つに制度が分かれている。
CMR基礎年金の対象者に対してはATTAKMILIという制度が2005年1月に法令上創設された。CMRによって管理される個人ごとの積立ファンドの仕組みを取っている。
団体退職給付プラン(補完制度)(Régime Collectif d’Allocation de Retraite - Régime Complémentaire, RCAR-RC)は1993年1月に法令上創設された制度で、RCAR-RG加入企業が企業ごとに任意で加入する制度である。企業が加入した場合、その企業の従業員は一定額以上の収入があれば強制加入となる。ポイント方式を取っており、従業員の積立額に雇用主負担分を上乗せする形で、積立方式と配分方式の混合方式となっている。
モロッコ職業退職基金(Caisse Interprofessionnelle Marocaine de Retraite, CIMR)は、民間の雇用主団体により1949年に設立された制度で、現在は退職共済会社(Société Mutuelle de Retraite:SMR)として位置づけられ、モロッコの保険・社会保障監督庁(ACAPS)により監督されている。CIMRは法人被用者の団体加入、(被用者以外の)会員組織の団体加入、個人事業主被用者集団の団体加入、個人加入といった形で加入することができる。
年金支給開始年齢(退職年齢)の標準は民間では60歳、公務員については最近の引き上げを経て63歳、教師等は基本65歳となっている。軍人は階級によって異なる。
また公的年金とは別に、民間保険で積み立てを行うこともできる。モロッコではフランスと同様、積立商品であるカピタリザシオンが保険商品として販売されており、資産形成の手段として利用可能である。
3. 社会保障拡大に向けての動きと、CNSSの広範な役割
モロッコにおける年金などの社会保障において、民間セクターを担当するCNSSの役割は大きい。CNSSは1972年7月に創設され、民間セクターの被用者に対し、退職年金・障害年金などの長期給付(CNSS-LT)、医療給付(AMO)、家族手当・傷病定額給付などの短期給付(CNSS-CT)を含む社会保障全般の提供を行う。また給付だけでなく被用者の登録、保険料の徴収、積立金管理も仕事である。
政府(保険・社会保障監督庁)の監督を受けるが独立した公共機関で独自の総裁(general manager)のもとに運営されている。モロッコの民間事業者はCNSSへの加入が強制されており、従業員の登録や、毎月の支払い給与の報告と保険料の納入が義務付けられる。
医療・年金等の保険料は雇用者と被用者で保険料を負担する(年金については2023年1月時点でそれぞれ給与の3.96%と7.93%、給与には上限(月額6,000モロッコ・ディルハム)適用)。失業時の労働訓練費と家族手当の保険料は雇用者持ちである。このほか雇用者には民間の労災保険への加入も別途義務付けられている。
CNSSの年金額は、退職前8年間の給与平均をもとに、加入期間に応じてその50~70%が支給されるが、保険料計算上の上限給与(月6,000モロッコ・ディルハム、執筆時為替で日本円換算約26万円)が年金給付計算にも用いられるので、実際の所得代替率は制度の見た目ほど高くない。
CNSSの年金等長期給付部門の積立金662億モロッコ・ディルハムは、公的ファンドCDG(注3)への預託分を除いた分の、54.3%が債券等の利付証券、34.3%が株式・持分証券、10.3%が不動産に投資されている(BAM他(2025))。運用は複数のファンドを通して行われているようである。
社会保障制度の普及率が低いことに加え、一部制度、特に公務員年金の財政状況が厳しく積立金の枯渇が懸念されることもあり(BAM他(2025))、モロッコでは社会保障の加入範囲の拡大、一部支給開始年齢の繰延べなどの改革が進められてきた。2017年には国民登録システムの開発とシステム能力の強化のために世界銀行より融資が行われている。2020年に始まった社会保障改革計画では、2025年までにすべての国民に社会保障を提供することを目標としており、非正規労働者へのCNSS登録が呼びかけられ数百万人単位で被保険者が増加した。加入率等の現況については情報が得られなかったが、2025年の4月に年金受給のための最低加入日数が1,320日に引き下げられるなど、改革は続いている。
4. 社会保障も「堅守速攻」となるか
モロッコ代表は、近年は変化もみられるものの、一般には「堅守速攻」のチームとして知られている。ボールを保持していない局面でもポジションを崩さず、堅い守りから素早く攻撃に転じる戦術を得意とする。また国内リーグで育った選手と、欧州で育成された選手の双方を代表に取り込めることも強みだろう。
年金等社会保障の仕組みを見ても同様のことを感じる。距離的に近く人的交流も容易なヨーロッパ諸国に学んでいるためか、ガバナンスのための組織が構築されており、また改革の方向性も明白である。低い給付水準や先に述べた財政上の問題など課題は多いが、サッカーとともに社会保障や資産形成の面でも、モロッコが堅実な発展を遂げていくことを期待したい。
【注釈】
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次回2030年の大会はワールドカップ100周年記念として、主たる主催国のほかに、発祥の地南米の3か国(ウルグアイ、アルゼンチン、パラグアイ)で最初の3試合が行われる。
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略語はCNSSの行う長期給付事業の意味。
3CDG(Caisse de Dépôt et de Gestion)は、1959年設立のモロッコの公的金融機関で、預金者の貯蓄を保全・運用しつつ、国家開発戦略を支援するという二重の使命を持つ。資金拠出元には、公的年金制度や保険基金、制度上預託される資金などが含まれる。運用先は、金融資産の他、不動産、インフラ、地域開発等の国家的プロジェクトに広がっている。
【参考文献】
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敦賀一平(2017)「モロッコが社会保障制度を強化、世界銀行がID登録システムを整備」The Povertist 2017年3月27日(2026年6月19日閲覧)
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モロッコ保険・社会保障監督庁(ACAPS)公式サイト(英語版)公衆向けページ(中央上のmenuボタンを押し、PensionsやSavingsを選択する)
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BAM他(2025)Bank Al-Maghlib, Autorité de Contrôle des Assurances et de la Prévoyance Sociale, et Autorité Marocaine du Marché des Capitaux “Rapport annuel sur la stabilité financière“ Exercice 2024 (Numero 12)
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Marie-aude(2023)”Moroccan social security (CNSS)”Life in Morocco 2023年1月2日アップデート
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jihane-rahhou(2008)”Morocco’s Finance Minister: Pension Reforms Are ‘Strategic’ Endeavor”Morocco World News 2022年10月6日
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Issam Toutate(2025)”Morocco to Implement New Retirement Pension System Starting May 1” Morocco World News 2025年4月7日
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WeCount(2019)WeCount Team “Social Security in Morocco : CNSS”2019年9月29日
重原 正明
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