老いる東京の現在地

~地方だけではない高齢化問題。今後急増する東京圏の高齢者数~

新家 義貴

要旨
  • 高齢化は「地方の問題」として扱われることが多いが、今後は都市部、特に東京圏でも深刻な社会課題となりうる。
  • 地方圏はすでに高齢者比率が非常に高く、今後も上昇を続ける。2045年には二人に一人が高齢者という地域も出てくる。一方、東京圏は地方圏に比べて高齢者比率は低いものにとどまる見込みである。地方圏からの若年層の流入が続くことが背景にある。
  • 一方、高齢者の「数」で見ると様相が異なる。2045年までを展望すると、半分近くの県で高齢者数が減少する一方、東京圏では211万人増加する(日本全体での増加数の3分の2)。
  • こうした高齢者数の急増が東京圏における医療・介護施設や人材の不足をもたらす。現在、高度経済成長期に東京圏に流入した団塊の世代が後期高齢者にさしかかっている。団塊の世代が80代となる2030年代には医療・介護需要が急増し、施設や人材の不足問題が深刻化するだろう。
  • 地方圏では人口規模の縮小と働き手の不足が焦点である一方、大都市圏では高齢者数の急増への対応が大きな課題となる。どちらも重要な問題だが、都市部における高齢者数急増問題はこれまで必ずしも重視されてこなかったように思う。今後、都市部、特に東京圏の人口問題についても政策レベルでの対応が急務である。

はじめに

日本の高齢化は「地方の問題」として扱われることが多い。もちろん地方にとって高齢化が極めて深刻な問題であることは疑いないが、高齢化は都市部、特に東京圏でも今後深刻な社会課題となりうることも同時に認識する必要がある。本稿では、東京圏と地方圏の高齢化の進展状況を比較し、それぞれが直面する課題について論じる。

1. 地方で深刻な高齢者比率の上昇

まず、都道府県別にみた高齢化の現状と先行きを確認する。資料1は、直近2024年と、今から20年後の2045年における、人口に占める65歳以上の比率(以下、高齢者比率)を都道府県別に比較したものである(2024年は実績、2045年は国立社会保障・人口問題研究所による推計値)。

図表
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2024年の高齢者比率は全国平均で29.3%と、既に人口の3割近くが高齢者となっている。特に秋田県では39.5%と全国で最も高く、約4割に達している。続いて、高知(36.6%)、徳島(35.8%)、青森(35.7%)、山形(35.6%)などでも高い水準となっている。

また、2045年には全国平均で36.3%と一段と高齢者比率が上昇し、やはり最も高い秋田県では48.3%と、およそ二人に一人が高齢者という事態になる。二位以降については順位に多少の変動はあるものの概ね顔ぶれは変わらず、軒並み高齢者比率が大幅に上昇する見通しとなっている。

一方、東京都の高齢者比率は2024年で22.7%と最も低い。また、神奈川(26.0%、43位)、埼玉(27.5%、42位)、千葉(28.1%、41位)と、東京圏(一都三県)は総じて高齢者比率が低い(東京圏で見ると25.4%)。そして2045年には東京都(28.6%)、神奈川(34.3%)、埼玉(34.7%)、千葉(34.8%)、東京圏(32.1%)と予想されている。東京圏でも人口の3分の1近くが高齢者となる見込みであるなど、高齢化が今後急速に進んでいくことは確かだが、地方圏と比べれば相対的に低いことも事実である。東京圏には他の地域からの若年層の流入が今後も続くことから、高齢化比率が抑制されることが背景にある。これだけ見れば、「東京圏の高齢化問題は地方よりは随分マシ」ということになる。

2. 2045年までに東京圏で高齢者数が200万人以上増加

だが、話はそこで終わらない。今度は「比率」ではなく「数」で見てみよう。資料2は、2024年から2045年にかけての65歳以上人口の増加数を都道府県別に見たものだ。先ほどの高齢者比率のグラフとは全く景色が異なることが分かるだろう。

図表
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今後20年間で、47都道府県のうち21県で高齢者数は減少する。これは高齢者比率が高い地方圏において顕著だ。

①先行して高齢化が進んでいたため、死亡者数が増加しやすいこと、②生産年齢人口がすでに大きく減少しているため、将来高齢者となる人の数自体が少なくなっていることが理由である。こうした地域では高齢者数でさえ減少するが、都市部への若年層の流出や出生数の減少によってそれ以上のペースで若者が減少していくため、高齢者比率は上昇を続ける。人口の大幅な減少と高齢者比率の高まりが同時に進行することで、経済規模の縮小と働き手の不足という形で問題が深刻化することになるだろう。

一方、大都市で問題になるのは数としての高齢者の急増である。今後20年間で、東京都だけで93万人、東京圏でみれば211万人も高齢者が増加する。日本全体での増加(321万人)のうち約66%を東京圏が占めることになる。ちなみに211万人という数字は2024年の新潟県の総人口(210万人)に匹敵する。いかに多くの高齢者が増加するかが分かるだろう。また、75歳以上に限っても、東京都だけで36万人、東京圏で94万人もの増加となる。高齢化比率が他地域に比べて低いとはいえ、こうした高齢者数の増加は大きな問題をもたらす。若年層が流入するのであれば問題は軽微という見方は適当ではない。

3. 東京圏で急増する医療・介護需要にどう対応するか

こうした高齢者数の急増により懸念されるのが大都市圏における医療施設、介護施設の不足である。先に見た通り、地方圏の多くでは今後高齢者数の増加は限定的であり、減少する県も多い。これらの地域では医療、介護施設の不足が大きな問題になることは考えにくい。むしろ、余剰になったインフラをどう活用・縮小していくか、またそこでの働き手をどう確保するかという点が重要になってくるだろう。

一方、大都市圏では今後医療施設、介護施設が不足することが予想される。特に懸念されるのが、団塊の世代の医療・介護需要の急増である。

図表
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資料3は、三大都市圏の転入超過数の推移を示したものである。これを見ると、1950年代後半から60年代にかけて非常に大きな山があることが分かる。当時、第一次産業を中心とする地方圏では、そこで生まれた多くの子供たちに十分な就業機会を与えることができなかった一方で、高度経済成長に湧く都市部では第二次産業を中心として多くの労働力が必要とされていた。こうして地元を離れた地方の農村の次男や三男などが都市部に大量に流入した。いわゆる「集団就職」の時代であり、この主役となったのが団塊の世代だ。こうして高度成長期に都市部に大量に流入した若年層の多くがそのまま都市部にとどまって年齢を重ね、現在高齢化の時を迎えている。

1947年~1949年に生まれた団塊の世代は現在75歳~78歳であり、いわゆる後期高齢者となっている。年齢別の要介護認定率をみると、65歳~69歳では3%程度にとどまるのに対して、80~84歳では25%程度に急上昇、85~89歳では5割近くに達する(資料4)。団塊の世代が80代となる2030年代には東京圏において介護需要が急拡大する可能性が高いだろう。

図表
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こうした医療・介護需要の急増に対応するだけの施設を今後新たに整備することは容易ではない。大都市圏では地方圏に比べて地価が高く、建設費が嵩むことを考えればなおさらだ。

人材確保も大きな課題となる。確かに東京圏では他地域に比べて若年人口が多いが、その人材を医療・介護に振り向ければそれで済むという問題ではない。日本はこれから生産年齢人口の大幅な減少に直面することが避けられず、就業者の数も減少せざるを得ない。こうした中で日本が今後も成長力を確保していくためには、限られた人的資源をいかに効率的に活用していくかという点が非常に重要となるが、医療・介護への過度の人材集中はそうした動きに逆行する。

もちろん医療や介護分野において生産性の向上や省人化が強く求められることは言うまでもないが、労働集約的な同分野でそれを実現することは容易ではない。今後、人材面でも資金面でも、日本経済の成長力維持と、増大する医療・介護需要への対応というバランスをとっていくことが必要となるが、その道のりは非常に険しいものとなるだろう。

4. 高齢化問題は地方だけのものではない

これまで見てきたとおり、地方圏と大都市圏での高齢化問題は性質が異なるため、それぞれに適した対策が必要となる。

筆者の問題意識は、大都市、特に東京圏における高齢者数増加問題について、重要度合いが正しく認識されていないように感じることにある。地方については、「地方創生」という言葉に代表されるとおり、これまでも様々な対策が行われ政府の予算策定に際しても重要視されている一方、大都市圏での高齢者数増加問題が取り上げられることは少ない。人口減少が今後も続く日本では、大都市、特に東京圏も引き続き活力を維持し、成長を牽引していくことが求められるが、そのためにも東京圏での高齢者数の急増という今後避けようのない現実に対して正しく向き合っていくことが重要である。政府は東京圏の高齢化問題にも注目し、都市部にフォーカスした政策を打ち出すことを検討する必要があるのではないだろうか。

新家 義貴


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

新家 義貴

しんけ よしき

経済調査部・シニアエグゼクティブエコノミスト
担当: 日本経済短期予測

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