選択の自由の時代に、未来の家族を描くには

~結婚や子育ての体験型ライフデザイン支援の効果~

福澤 涼子

目次

1.結婚や子育てが当たり前ではなくなった時代

結婚や出産が「ライフステージの変化」として語られるように、若者にとって家族形成は人生の重要な節目となり得る。かつては結婚や子どもをもつことが当然とされていたが、近年は選択肢が多様化し、図表1が示すように、結婚や子どもをもつことを当たり前だと考える人は減少している。

図表
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実際、独身を選ぶ人、子どもをもたない夫婦、出産後も仕事を続ける女性など生き方は多様化している。モデルケース的な人生が用意されていない現代では、数ある選択肢のなかから自分自身で人生を設計していかなくてはならない。

2.家族形成のライフデザインは一人ひとりの価値観に大きく依存する

そうした人生設計は決して容易なことではなく、若者が判断を先送りにすれば少子化の一因にもなりうる。国や自治体は若者に対するセミナーなどライフデザイン支援事業をいくつか実施しているが(注1)、こども家庭庁の調査によると、未婚者の70.8%が「ライフデザインを学ぶ機会はなかった」と回答し、学びの経験者のなかでも結婚生活(19.1%)や子育て情報(19.2%)に関して学んだ人は特に少数となっている(注2)。確かに、家族形成はそれぞれの人生観によるところが大きいため、学んだ内容が直接的な答えになりにくい。もちろん、結婚や子育てのメリット・デメリットを学ぶことは可能だろうが、家族をもつということはそれらで簡単に説明できるものでもない。

そのため、家族形成のライフデザインは、個人が結婚や子育てについての人生観をそれぞれで見つけていくことがまず必要となると考えられる。加えて、結婚をする場合には、パートナーと共に柔軟にライフデザインをすり合わせることも大切だ。

ライフデザインとは、就学期・就労期・高齢期などの人生の縦の時間軸ごとの、経済・健康・家族など人生の各分野に関する横断的空間的次元の計画を表すとされている(注3)。結婚や子育てについての「当たり前」がなくなった現在、家族に関するライフデザインは、一人ひとりの価値観により大きく依存する分野になったといえる。

3.体験型のライフデザイン支援とは

以下では、家族形成に関するライフデザイン支援の1つとして、子育て家庭に大学生などの若者が訪問し、子育てを体験したり、夫婦に実体験を聞くことのできる体験型のプログラムを取り上げる。こうした体験型に期待される効果は、結婚式の費用や妊娠しやすい年齢といった客観的な情報だけでなく、子どもと触れ合ったり、夫婦の姿を見聞きしたりすることで、若者が自分の価値観を発見したり、逆に偏った思い込みを見直す機会を得られるということである。

このようなプログラムは、NPO法人や企業が提供するほか、いくつかの都府県では行政主体で行っており、国がその運営費用の一部を補助している。本稿では、岡山県、岐阜県が実施した「家庭留学」という子育て体験プログラムを取り上げる。

家庭留学は、20〜30代の若い世代が子育て家庭の1日に同行し、子どもと触れ合ったり、ロールモデルに話を聞くというプログラムである。事前に、参加する若者に仲介業者がヒアリングを行い、ニーズにあった家庭を紹介する。たとえば、「将来起業を考えているが、経営と子育ては両立できるか」という不安をもつ女性に対して、子育て中に事業を起こした母親の家庭を紹介するなど、よりリアリティのあるライフデザインにつながるような工夫が施されている。

図表
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岡山県や岐阜県が家庭留学に取り組む背景には、近年の出生率や出生数の低迷がある。県では結婚支援サービスや子育て支援サービスを提供しているが、県民の意識調査からは、結婚や子育て、仕事との両立に漠然とした不安をもつ人も少なくないことがわかっている。結婚や子育てにかかわるSNSのネガティブな情報を鵜呑みにして、自分には無理だと思い込んでいる若者もいる。そのような背景もあり、体験を通じて子育てや結婚に対する解像度を高め、自らのライフデザインに役立ててもらうことが本プログラムの目的の1つとなっている。

4.育った家庭環境と現代の家庭像のギャップを抱える若者

今回の両県の家庭留学プログラム参加者(計37名(注4):2024年7月~2024年12月の参加者)はどのような人々なのだろうか。まず男女比では、2/3が女性、1/3が男性で、約9割が未婚者である。学生が75%を占め、残りが社会人となっている。

育った家庭環境として、自分が小学生のころまでの親の就労をたずねると、専業主婦(55.6%)のほうが共働き(44.4%)より多い。そのため、「専業主婦の母親が時間をかけて自分を育ててくれた印象が強く、仕事と両立しながら子育てができるのか不安」という声があった。一方、共働き家庭で育ったという社会人男性は、「自分が小さいころ、家事育児は母親がしていた。自分としては、家事も子育ても半半でやりたいので、その方法を模索して参加した」とのことである。自分が育った家庭環境と、現代の家庭像が異なりイメージがつかみにくいことが参加の動機となっているようだ。

また、別の男性は、周囲の友人と「一生独身が楽だ」と話すことが多く、結婚に対して後ろ向きだが、本当にそうなのかという疑問もあり、体験を通じてリアルな情報を手に入れたいとのことである。

そして、就職活動を控えている女性は、「就活の軸として仕事と家庭との両立や、福利厚生がどのくらい自分にとって大切かを見定めたい」と参加を決めた。確かに、女性が働きながら子どもを育てることが選択肢となった現代において、前もって家庭と仕事の両立の実態を理解することは、キャリアデザイン上も有意義だといえる。

5.結婚や子育てを「体感」するから見えてくること

家庭留学に参加する若者たちは、体験を通じて、乳児のぬくもりや、食事をひっくり返される音や汚れ、幼児の話し方や仕草、泣きわめく声などを目の前で見聞きし、子育ての愛しさや大変さを実感している。

体験後のアンケートによると、42.4%の参加者が「子育ては大変と体験前より思うようになった」と回答している。ある男性からは「寝かしつけに苦戦したことで、これが毎日続くと想像すると、自分にできるのかと感じた」という感想があったが、その一方で「参加前には、子どもに愛情をもてるのかと不安を抱えていたが、楽しく遊ぶことができたので、その不安は消えた」と話している。

先述の起業志望の女性は「両立のコツを教えてもらったが、子育てをしながら事業を興すのは想定以上に大変そうだった。まず起業して30歳目前までは仕事に専念し、育児期は専業主婦になるのが自分にとってベストな道かもしれない。もちろん、そのときの状況でまた判断するが、まずは起業を目指したい」と自分のライフプランの方向性を見出していた。

妊娠中に参加した女性は、「訪問先に4歳の子どもがいても、落ち着いて大人同士の会話もできたし、家も片付いていたことに少し驚いた。子育てはずっと大変だと思っていたが、どんどん楽になっていくという言葉を聞けて、希望がもてた。」と話した。共に参加した夫も「夫の育休が終わると、妻が大変になるという話を聞いて、育休期間だけでなく子育ては続いていくということを再認識した」と近い未来の子育てに対する意識を改めたという。

結婚についての不安が軽減したという男性は、「育った家庭環境もあり、夫婦が良好な関係性を続けることは難しいと思っていたが、夫婦の会話などを聞いていると、仲良くし続けることができるのかもしれないと思うようになった」と話し、「独身希望だったが、結婚も選択肢に入れたい」と考え方が変わったとのことである。このように、体験の結果、参加者は「これまでよりライフプランを具体的に考えるようになった(51.5%)」「今回の体験を機に、ライフプランを考えてみたいと思った(27.3%)」「改めて、これまでのライフプランを考え直したいと思うようになった(21.2%)」と回答している。

6.若者たちのライフデザインを支えていく支援を

家庭留学は、ライフデザイン形成の支援策として実施されたものではあるが、婚姻数や出生数の増加などの効果がすぐに現れるとは限らない。場合によっては、子育てが大変だから出産を控えようという意識につながる可能性もある。それでもプログラムに参加した若者たちのリアクションを受けて、岡山、岐阜両県の担当者は、次年度以降も事業を継続することに前向きである。

また、今回の参加者の84.8%が「職場の子育て中の社員や街で見かける子連れ家族に対して思いやりをもって接したい」と思うようになったと回答している。このような世代間交流による理解を通じて、子育てに関わる社会環境が改善していけば、少子化対策にも有益だといえるだろう。

結婚や子育ては、昭和までの時代に比べると「選択の自由」の側面が強くなった。選択の自由は、選んだ自分に責任が生じるということでもある。だからこそ、若者自身が選択肢に関する情報を正しく理解し、自分なりの判断軸を持つことが重要である。ただ、若者の大半は結婚や子育ての経験がなく、世代間の交流が減った現代ではロールモデルとなる人が身近にいないことが多い。子育て体験は、そうした若者に対するソリューションの1つとなりうるだろう。

一方、ただ1回の体験でライフデザインが完成するわけではなく、情報収集や内省を若者自身で継続的に行うことが求められる。その際、家族形成に加え、経済や健康、仕事など多岐にわたる人生の分野を総合的に計画することが重要である。その観点では、各分野における正しい知識を体系的に学ぶ機会を提供したり、今回取り上げたような世代をまたいだ対話の機会を継続的につくっていくことなど、複合的かつ継続的なライフデザイン支援が必要となってくるのではないだろうか。


【注釈】

  1. こども家庭庁は、各自治体が行う若い世代向けの総合的なライフデザインセミナーや乳幼児とのふれあい体験などに費用の支援を行っている。また経済産業省は今年度、ライフデザインサービスを手掛ける企業などと「ライフステージを支えるサービス導入実証等事業」を行っている。

  2. こども家庭庁「若者のライフデザインや出会いに関する意識調査」2024年11月

  3. 加藤寛/ライフデザイン研究所『ライフデザインのすすめ―「生活優先」時代をどう生きるか』1993年,ダイヤモンド社

  4. 今回掲載したアンケート調査結果は、事前アンケート回答者36名、事後アンケート回答者33名の回答結果である(※重複回答者1名除く)。

 

【参考文献】

・こども家庭庁ホームページ「地域少子化対策重点推進交付金」

・NPO法人manmaホームページ

・経済産業省ホームページ「ライフデザインサービス」

・日本放送協会(NHK)「日本人の意識調査」1973~2018年

 

【関連レポート】

・福澤涼子「親になる前に、子育てを体験する価値~シェアハウスで他者の子育てに触れる経験から考える~」2023年

福澤 涼子


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

福澤 涼子

ふくざわ りょうこ

政策調査部 副主任研究員
専⾨分野: 資産形成

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