ライフデザイン白書2024 ライフデザイン白書2024

Web3が拓く新たな地方創生のかたち(2)

~デジタルとリアルの併用が形づくるもの(夕張メロンNFTプロジェクト)~

稲垣 円

目次

1. 「夕張メロンNFTプロジェクト」収穫祭

2023年7月中旬、筆者は「夕張メロンNFTプロジェクト」参加者(注1)がリアルに交流する「収穫祭」と呼ばれるオフ会(オフラインミーティング)に参加した。開催地はもちろん、夕張市だ。

図表1
図表1

夕張市は、札幌から車で1時間30分ほどの道央地方に位置する。明治24年(1891年)に炭鉱の操業が開始されて以降、「炭鉱の町」として栄え、一時は人口12万人まで増えた。だが1990年代に入ると石炭需要の低迷により全ての炭鉱が閉山し、人口流出が続いた(2023年8月現在 約6,500人)。

夕張市といえば、「財政破綻」した町というイメージをもつ人が少なくないだろう。炭鉱閉山後の社会基盤の整備の遅れや観光施設への過大投資、不適正な財務処理などによる巨額赤字をかかえ、2007年に財政再建団体に指定された。現在は、まちの再建を進めながら、農業を主要な産業として振興に取り組んでおり、特にメロンの産地として知られている。

夕張市で開催された収穫祭には、「夕張メロンNFT」保有者 17名が各地から集まった。開催の目的は、これまでのプロジェクトの軌跡を振り返り、夕張メロンを育てる畑や出荷作業を行う選果場の見学、そして生産者との交流という「体験」を提供することである。参加者に話を聞くと、もともと夕張に縁があった、NFTを子どもに残したい、別のまちで地域おこしをしている、NFTを活用したプロジェクトの持つ新規性に魅かれた、勉強のためなど、動機はさまざまだ。中には、メロンは好きではなかったが今回のプロジェクトで贈られた夕張メロンの美味しさに感嘆して、という参加者もいた。

NFTが発売されてから約半年、メッセージアプリケーション(Discord)上で見守ってきたメロンの生育が、実際にどのような場で行われ、どのように出荷されていくのか。ビニールハウスの中で生育途中のメロンや選果場で収穫されたメロンが形や重さ、網目模様、糖度等の細かな出荷規格に基づきランク分けされ、箱詰めされる様子を見ながら、参加者からはさまざまな質問が飛び交った。交流は、互いにIDしか知らないNFT保有者が、現場で初めて顔を合わせ、参加者やメロン生産者との交流を通じて、Discord上のやり取りの答え合わせをしているようでもある。その後も夜の懇親会までNFT保有者と生産者との交流が続いた。

図表2
図表2

2.デジタルとリアルを併用することの意義

NFT購入者が支援対象の地域や産品に興味をもっていても、実際に現地に足を運ぶとなると話は別だ。物理的に夕張に行く場合、人によってはNFT購入費以上のコストがかかる。しかし、現実には時間や経済的なコストをかけてまで現地に向かうNFT保有者がいる。なぜなのか。

デジタル空間では、場所や時間に制限されずにいつでも、だれでも参加し、コミュニケーションすることができる。リアルでは難しい体験や活動を仮想的に体験することも可能だ。夕張メロンNFTプロジェクトも、Discord上での生産者や他のNFT保有者との交流により、メロンの生産過程や苦労と喜びを共有し、グッズの開発やイベントなど様々な情報のやり取りが行われている。他の事例では、メタバース空間を構築してアバターとなって参加者が交流する場を創っているものもある。

他方、デジタル上のやり取りは、匿名で行われることがほとんどであるため、相手の表情や雰囲気、発言の真意を汲み取ることが難しく、情報の正確性が疑われたり、プライバシーへの配慮に欠ける無責任な発言が続いたりすると、歯止めが利かなくなる危険性も孕む。そうした中で、“リアル”に顔を合わせる交流の機会を挟むことで、互いにその存在を確認し、デジタル上でのやり取りの信憑性を担保しながら、信頼が醸成されていくのではないか。また、イベントの様子がデジタル上で共有されれば、参加できなかった人も「次は実際に行ってみたい、現場を見たい、生産者に会ってみたい」という気持ちになるかもしれない。実際に現地を訪問したり、NFT保有者が直接交流したりしている、という事実を知ることだけでも、そのプロジェクトの透明性が示されているといえるだろう。

3.デジタルコミュニティの望ましい運営とは

しかし、プロジェクト参加者が多くなる、すなわち規模が大きくなることへの課題もある。NFTが幅広く購入されるということは、プロジェクトが認知され、多くの資金を獲得することを意味する。地域や産品の生産を支援するための資金が多いに越したことはない。他方、コミュニティの形成や持続性という視点からいえば、規模が拡大することで、それまで参加者同士のやり取りを把握できる程度の規模で築かれた関係が、どのように変化していくのか考えておかなければならない。

参加者が増えたデジタル上のコミュニティにおいて、経験豊富なメンバーと初心者のメンバーの双方が居心地よく、互いに良い場にしようと協力し合うにはどうするか。あるいは、深くしっかりとプロジェクトに関わりたい人と、ほどほどにプロジェクトの経過がわかっていれば良いと考える人等、多様な考えやモチベーションをもつ参加者が混在する場合はどうするか。規模の拡大に伴い複雑化する組織のマネジメントに特化したコーディネーターやファシリテーターなどの役割の存在が重要になるだろう。また、そうした特別な役割を果たす人材への報酬や、彼らが快く協力できる環境づくりも大切だ。

「フラットで透明性の高い空間」とはいえ、NFT購入だけでなく地域への興味関心や愛着、そして行動を促すコミュニティを形成・発展させていくには、目的を共有しルールが守られ、参加者が安心して交流することができるデジタル上の共有地における「望ましい規模やあり方」について検討することが必要になるだろう。

4.自分のできることで、長く関わるために

地域おこし協力隊をはじめとして、地域に深く関わり活性化を担っていきたいと考える人材への間口は、ここ数年充実が図られてきた。活用できる制度も多様になり、隊員数や受け入れ自治体数は年々増えている(注2)。他方、筆者が過去のレポート(「何が『地域愛着』を育てるのか」)で言及したように、地域社会における「まちづくり」や「地域づくり」は、地域住民がどのように関与するかに依存する。

しかし、地域住民の当事者意識を醸成する以前に、関わらざるを得ない地域の慣習や活動に「煩わしい」というネガティブなイメージが根付いていることも事実である。また、多くの地域が直面している、地域を支える担い手の不足は深刻だ。

そのような中、本稿で紹介した事例も含め、リアルとデジタルによって拡張されたコミュニティの形は、ブロックチェーンをはじめとするWeb3を象徴する技術を積極的に利用しながら、これまで地域づくりや地方創生といったことに縁のなかった層を惹きつけ、さらにリアルな現場へ連れ出すことに成功している。理想は、経験を積んだNFT保有者がその知見を活かして、1か所だけなく様々な地域と有機的につながる生態系を創っていくことであろう。

こうした人びとに、今後も自分のできることで地域や人に貢献したい、馴染みの場所として繰り返し訪問したいと思わせるには、どのようなインセンティブが必要なのか。細く、時に深く、そして長くその人なりの関わり方ができる仕組み、受け入れる地域側との関係づくりが必要だ。地域側には、そうした人びとの考え方や行動を迎え入れ、試行錯誤しながら共に地域づくりに取り組む柔軟さが求められる。

【注釈】

  1. プロジェクトの詳細は、前稿「Web3が拓く新たな地方創生のかたち(1)~『トラストレス』なしくみの中で、つながりをつくる~」を参照のこと。

  2. 令和4年度(2022年度)の地域おこし協力隊の隊員数は、前年度から432名増の6,447人となり、インターン参加者数を含めた合計数は、6,813人。受入自治体数は、前年度から31団体増加し、1,118団体(受入可能自治体1,461団体の約77%)となっている。

【参考文献】

  • 稲垣円「『地域をおこす』という生き方~地域おこし協力隊、それぞれの立場で制度を生かしていくために~」第一生命経済研究所、2022年7月
  • 稲垣円「NFT×地方創生~その可能性と留意点~」第一生命経済研究所、2023年1月
  • 稲垣円「何が『地域愛着』を育てるのか」第一生命経済研究所、2023年6月
  • 稲垣円「Web3が拓く新たな地方創生のかたち(1)~『トラストレス』なしくみの中で、つながりをつくる~」第一生命経済研究所、2023年9月
  • 総務省「令和4年度 地域おこし協力隊の隊員数等について」2023年4月
  • 夕張市ホームページ<https://www.city.yubari.lg.jp/smph/index.html>
  • MeTown株式会社<https://metown-inc.studio.site/>

稲垣 円


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

稲垣 円

いながき みつ

ライフデザイン研究部 客員研究員
専⾨分野: コミュニティ、住民自治、ソーシャルキャピタル、地域医療

執筆者の最新レポート

関連レポート

関連テーマ