内外経済ウォッチ『日本~こじれる消費税減税の裏側にあるもの~』(2026年9月号)

星野 卓也

目次

百家争鳴の消費税減税

食料品の消費税率を引き下げる政府方針が閣議決定された。2027年4月から税率を8%から1%へと引き下げ、中低所得者にはさらに1%分を給付することで実質ゼロを実現するとしている。財源やインフレへの影響を懸念する声も強く、議論は百家争鳴の様相を呈している。

批判的な立場からは、消費税減税の効果は小さいとの指摘もある。物価上昇下では減税分の一部が値上げに吸収され、家計の実感は乏しいのではないか、との見方だ。しかし、物価上昇下であっても減税する場合としない場合の差は生じるはずで、家計の実質所得を押し上げるだろう。また、給付や所得税減税と異なり、消費税減税は「消費すること」に対する減税である。幅広く家計の負担を軽減すると同時に、支出を促し、需要を喚起する効果も相対的に大きい。負担軽減策であると同時に、景気刺激策としての性格も強いのである。

効果があるからこそ課題が多い

効果がないことが問題なのではない。効果があるからこそ課題が多いのである。効果があるからこそ、税率を戻す際の家計への負担も大きくなる。消費へのインセンティブを高める性質を踏まえても、景気悪化時の需要喚起策として行うならば理解できる。しかし、足元ではインフレが定着し、長期金利が上昇する中、実質賃金もプラスに転じつつある。そうした局面で需要刺激策によって景気のアクセルを踏むことには、やはり経済政策としてのちぐはぐさが残る。

また、今回の消費税減税は、2年間の措置後に新設する給付付き税額控除へ接続するものと整理されている。しかし、所得に応じて支援する制度と、消費額に応じて恩恵が及ぶ制度では、対象も政策効果も異なる。前者は低所得層への重点支援に向き、後者は幅広い家計の負担軽減と需要喚起に向く。両者を代替関係として扱うことには難しさがある。

一方で、足元で家計が「割を食っている」側面も否定はできない。暫定値ではあるが、内閣府の最新財政試算では2025年度の政府のプライマリーバランスがおおむね均衡する。税収が急ピッチで増加していることなどが背景にあるが、それは物価上昇によって税収が増える一方、政府部門からの還元が十分に進んでいないことの裏返しでもある。

欠けている2つの仕組み

筆者は、議論がこじれる根底には、家計を支える2つの仕組みの不在があると考えている。

1つ目は、インフレによって家計に生じる負担増を自動的に調整する仕組みだ。物価が上昇すると、名目所得や消費額の増加を通じて税収は増えやすい。一方、税制上の基準や公的給付が物価に応じて改定されなければ、家計の実質的な負担は重くなる。

諸外国と同様に公的価格や給付水準を物価に応じて改定するとともに、所得税の課税最低限や税率区分を調整するブラケット・クリープ対策などを講じ、インフレによる「隠れ増税」を一定程度相殺する必要がある。筆者の試算では、2019→25年の物価上昇に控除等を調整しなかったことによる隠れ増税額は年1.9兆円に上る。

2つ目は、所得や生活状況に応じて、必要な家計に迅速かつ柔軟に支援を届ける仕組みだ。給付付き税額控除は、その有力な選択肢である。対象を絞るための所得情報や、迅速に給付するための行政基盤も含め、平時から仕組みを用意しておく必要がある。

この2つの仕組みが欠けているため、家計の負担が高まるたびに、給付や減税が形を変えて議論される。コロナ禍の一律給付、所得税の定額減税、そして今回の消費税減税と、家計向け支援はその都度政治判断に委ねられ、政争の種となってきた。2つの仕組みを整え、その場その場の給付・減税から脱却し、政策の安定性を高めることが求められている。

星野 卓也


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

星野 卓也

ほしの たくや

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 日本経済、財政、社会保障、労働諸制度の分析、予測

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