四半期見通し『米国~トランプ関税継続も通商合意が景気下支え~』(2025年7月号)

桂畑 誠治

目次

25年1Qにマイナス成長も内需はしっかり

米国では、トランプ2.0による政策の不確実性が高まるなか、経済や労働市場は堅調さを維持し、 インフレ率は下げ渋っている。25年1-3月期の実質GDP成長率(2次推計)は、前期比年率▲0.2%(10-12月期同+2.4%)と22年1-3月期の同▲1.0%以降で初めてマイナス成長となった。もっとも、1-3月期のマイナス成長は、関税賦課前の駆け込みによる輸入の急増や、暴風雪による個人消費の一時的な下振れの影響によるもので、民間国内最終需要は設備投資の拡大によって前期比年率+2.5%と高い伸びとなっており、米経済は堅調さを維持したと判断される。

4-6月期の経済情勢では、企業の景況感を示すISM景気指数で、5月の製造業が48.5(前月48.7)と拡大縮小の分岐点である50を3ヵ月連続で下回り、米製造業部門の縮小ペースの加速が示された。また、非製造業も49.9(前月51.6)と50を下回った。トランプ2.0での混乱を招く政策運営を受け、企業が慎重姿勢を強め、非製造業部門は緩やかに減速を続け、縮小に転じた。

このような中、労働市場では4月の非農業部門雇用者数が前月差+17.7万人(前月同+18.5万人)と高い伸びを維持した。政府部門が連邦政府の減少にもかかわらず増加した他、民間部門が同+16.7万人と高い伸びを維持した。また、雇用の増加基調は、3カ月移動平均で前月差+15.5万人(前月同+13.3万人)、6ヵ月移動平均で前月差+19.3万人(同+17.1万人)とともに加速し、堅調なペースを保った。さらに、4月の失業率は、4.2%(前月4.2%)と、23年4月の3.4%をボトムに緩やかに上昇しているが、依然低い水準にとどまっており、労働市場の良好な状態での安定を示している。

インフレでは、PCEコアデフレーターの上昇モメンタムが4月に3ヵ月前対比年率で+2.7%(前月+3.6%)、6ヵ月前対比年率で+2.6%(同+3.0%)と低下したが依然高い水準にとどまっている。前年同月比でも+2.5%(同+2.7%)と低下しているものの、2%のインフレ目標を依然上回っている。

図表1
図表1

図表2
図表2

FRBは失業増加とインフレ加速のリスクを警戒

このような経済情勢のもと、FRBは、5月6、7日に開催されたFOMCで、政策金利を3会合連続で据え置き、FFレート誘導目標レンジを4.25~4.50%に維持することを全会一致で決定。また、バランスシートの縮小策の継続を決定した。

パウエルFRB議長は「不確実性が高まっているにもかかわらず、経済は依然として堅調である他、失業率は低水準を維持するなど労働市場は最大雇用、あるいはそれに近い水準にある」と強調した。このような中、FRBはトランプ2.0で経済見通しに対する不確実性が一段と高まり、失業増加とインフレ加速のリスクは高まったと説明、当面様子見が適切との判断を示した。

通商合意によって米経済は景気後退を回避へ

4-6月期には、不確実性の高まりで設備投資は鈍化すると予想される。一方、個人消費は、価格上昇の影響を受けるものの、3月に高い伸びとなったことで、4-6月期に+2%台半ば程度に加速すると予想され、国内民間需要は引き続き堅調さを維持しよう。このような中で、7月9日までの相互関税の上乗せ停止、8月12日まで対中関税の引き下げによって、4-6月期に再び駆け込み輸入が増加する可能性が高まった。貿易交渉次第では、上乗せ関税が発動しない国があるものの、合意までには時間がかかることから、貿易交渉に進展がありそうな国からも駆け込み輸入が増加する可能性が高い。それでも、1-3月期の急増の反動によって輸入は小幅の減少に転じてGDPを押し上げるとみられ、4-6月期の実質GDPは前期比でプラス成長に転じよう。この間に、貿易交渉が進展し、一段の関税賦課が回避されれば、米国や各国のリセッション懸念は大幅に後退する公算が大きい。

今後も、医薬品、半導体、銅、木材などへの関税賦課が計画されており、高い不確実性が残存するものの、米国と他国・地域との通商協議は、7月9日の相互関税上乗せ停止期限に向けて、上乗せ回避や、既に賦課された関税の引き下げを求めて、合意が相次ぐとみられる。各国・地域は、米国経済に直接・間接的に依存しており、米国と対立することは経済的なリスクが高いため、英国と同様、米国優位の不公平な通商合意をせざるを得ないだろう。例えば、相互関税の上乗せは行わない一方、10%の相互関税、自動車関税、鉄鋼・アルミニウム関税が維持されたうえで、米国製品の大量購入(農作物、エネルギー、航空機)、米国への巨額な投資、米国装備品の購入等を含む合意が行われる可能性が高い。米国にとっては、関税引き上げによる税収増加、農作物輸出やエネルギー輸出の拡大、半導体やIT機器、自動車、鉄鋼・アルミなどの国内生産・投資の拡大が期待できよう。一方、米中の交渉は進展せず、24%の上乗せ関税が発動する可能性が高いものの、上乗せ関税を回避した国を経由した中国製品の迂回輸出が行われ、価格高騰や供給停止は回避されると見込まれる。

25年後半には、通商合意による不確実性の後退を背景に、設備投資の緩やかな拡大が予想される。また、個人消費は、資産の増加、借入コストの低下にもかかわらず、雇用・所得の伸び鈍化、物価上昇等を背景に伸びが抑制され、米経済は潜在成長率を下回る成長に減速する公算が大きい。この結果、25年の実質GDP成長率は前年比+1.6%と24年の+2.8%から大幅に鈍化すると見込まれる。

図表3
図表3

図表4
図表4

FRBは景気を支えるために利下げを再開

当面の金融政策について、パウエルFRB議長は、関税賦課によるインフレへの影響が短期的、持続的のどちらになるか、最終的には長期的なインフレ期待をしっかりと維持できるかにかかっていると認識しており、タカ派的な姿勢を維持するとみられる。関税賦課によって、物価が上振れるとみられるが、長期の期待インフレ率が安定していれば、FRBは一時的な物価上昇と判断する可能性が高い。FRBは、関税政策の不確実性が強い8月まで様子見を続け、不確実性が弱まると想定される9月以降に景気を支えるために、数回の利下げを実施すると見込まれる。ただし、景気が大幅に減速し、労働市場が急激に軟化すれば、7月に利下げを前倒しし、利下げ幅も拡大することで、米景気後退の回避を目指すと見込まれる。

桂畑 誠治


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

桂畑 誠治

かつらはた せいじ

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ