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- マイオピニオン~若手研究員の意見~『多死社会への備え』
高齢社会から多死社会へ
日本社会は約3割が65歳以上を占める世界有数の高齢社会です。公衆衛生の改善や医療技術の進展による平均寿命の延伸が大きく貢献してきました。近年の研究では、人の寿命には生物学的限界があるとされ、寿命が永遠に伸びるわけではないことが示されています。
つまり、多くの高齢者が生物学的寿命を迎えることにより、今後一気に死が訪れる可能性があります。既に年間の死亡数は約140万人を突破しており、2040年にかけてさらに増加すると予測されています。(資料1)
また、生涯医療費の半分は70歳以降に発生するとされており、社会の高齢化と死亡数の増加は医療費の急増につながる可能性があります。(資料2)日本社会は高齢社会の先にある「多死社会」と向き合うための準備を進める必要があると言えるでしょう。


社会経済的な変革の必要性
多死社会を迎えると、経済や社会にも大きな影響を及ぼすでしょう。例えば、葬儀場や墓地の不足、遺品整理、遺産相続、空き家管理などのサービス需要が高まると考えられます。火葬率が極めて高い日本にとっては、火葬によるCO2排出量の増加や環境への悪影響も無視できないでしょう。
このような変化に備えるためには、経済や社会の仕組みを大胆に変える必要があるでしょう。例えば、革新的なアプローチを可能にするための規制緩和や制度改革、新たな商品・サービスの開発を支援する政策も必要になると考えられます。
医療制度の評価基準が変わる可能性
死の直前に行われる延命処置や緩和ケアは、終末期医療と呼ばれます。急激な終末期医療の需要増は、人々の求める医療のあり方を変える可能性があります。
例えば、近年ではQuality of Death(QOD)の概念が注目されています。これは終末期の意思決定において本人の意思が尊重されることを意味します。延命治療が必ずしも患者や家族の生活の質であるQuality of Life(QOL)向上に貢献しないという問題提起がなされています。同時に、提供される医療の種類や回数などの量的側面に基づいてのみ評価が行われてきた従来の「診療報酬型」の医療制度にも疑問が呈されています。
多死社会においては、医療が患者や家族のQOLをどれだけ改善させたかという質的側面に基づいて評価される「バリューベースド型」の医療制度に評価基準が変わっていく可能性があります。これからの医療制度は、患者の苦痛や不安を和らげ、最期の瞬間を、誰と、どこで、どのように迎えるかといった幅広い選択肢を提供できるように変わっていくことが求められるでしょう。患者本人が最も自分らしいと思える最期を迎えることができる「新しい価値観」を社会全体で受け入れる体制づくりが重要です。
田村 洸樹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

