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内外経済ウォッチ『欧州~英国のTPP加盟なぜ?~』(2023年5月号)

田中 理

目次

環太平洋を超えた広域自由貿易圏が誕生

英国が近く環太平洋経済連携協定(TPP)に加盟する。欧州の一員である英国がなぜTPPに参加するのか、読者は疑問に思うかもしれない。英国が欧州連合(EU)からの離脱を決めた際、グローバル化に逆行する動きとして批判された。だが、元々自由貿易志向が強い英国は、EUにいることこそが自由貿易の障害になっていると主張してきた。離脱後の英国は、「開かれた英国(グローバル・ブリテン)」を国家戦略に掲げ、EUの一員としては実現できなかった国や地域とも自由貿易協定(FTA)を締結することを目指している。その際に重視したのが、成長著しいアジア地域と、歴史的な関係が深い英連邦(コモンウェルス)諸国、そして最大の貿易相手国である米国だった。

実際、離脱後の英国は、日本と経済連携協定(EPA)、シンガポールとデジタル分野の協力協定、オーストラリア、ニュージーランドとFTAを締結した。英国はインド太平洋地域に大英帝国の遺産としての海外領土を持ち、安全保障の観点からも同地域でのプレゼンス拡大に意欲を見せている。英米豪3ヶ国による軍事同盟(AUKUS)の締結や空母派遣などは、こうした目的を反映したものだ。しかも、TPP加盟国の半分以上がコモンウェルス諸国で、英国のTPP参加は理に適っている。

図表1
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英国に次ぐ加盟国拡大の行方は?

英国と日本はEPAを締結しており、英国のTPP参加によって、日本の自由貿易圏が拡大する訳ではない。だが、インド太平洋地域の安定や経済発展で、日英間の利害は一致する。地域の枠組みを超えたTPPの拡大は、ルールに基づく自由貿易推進やグローバル経済の立て直しにつながる可能性を秘めている。超大国に対抗するうえでも、英国などミドルパワーとの連携が重要となろう。

TPPには現在、中国、台湾、エクアドル、コスタリカ、ウルグアイが加盟を申請している。英国の加盟が呼び水となり、さらに多くの国がTPP参加を目指す可能性がある。今回の英国の加盟交渉では、農業分野を含めた高い関税撤廃率、投資、サービス、貿易円滑化、労働分野での厳しいルールの採用が求められた。今後、加盟を求める国々にも同様の基準が適用されよう。不透明な政府補助金や技術流出の問題もあり、中国のTPP加盟のハードルは高い。台湾の加盟には、「1つの中国」を標榜する中国の反発が予想される。バイデン政権の支持基盤である労働組合の反対もあり、米国の早期復帰は今のところ望めそうにない。英国の加盟や今後のTPP拡大をきっかけに、参加しないことによるデメリットの方が大きいとの、米国世論の変化に期待したい。

図表2
図表2

田中 理


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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