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内外経済ウォッチ『欧州~ウクライナ問題の世界経済への影響~』(2022年4月号)

田中 理

目次

直接的な影響が最も大きいのは欧州

ロシアによるウクライナへの軍事進攻により、世界経済および金融市場の先行きに対する不安が広がっている。影響の大きさは、今後の戦局がどう展開するか、欧米による追加制裁、ロシアの報復制裁の行方にも左右され、現時点で明確に展望することは難しい。世界経済への主な影響の波及経路としては、①ロシアやウクライナとの貿易取引減少による影響、②穀物・鉱物資源価格高騰による企業収益圧迫や家計購買力の目減り、③金融市場の動揺による逆資産効果や資金調達環境の悪化などが考えられる。まだ実際に起きていないが、④鉱物資源や希少金属不足による世界的な供給網(サプライチェーン)の混乱、⑤ロシア産の原油・天然ガス供給縮小による主に欧州でのエネルギー不足などが加われば、影響は一段と大きくなる。

ロシアとウクライナとの貿易取引が縮小する状況としては、①ウクライナでの戦闘長期化や重要インフラの破壊、②対ロシア制裁によるロシア経済の疲弊、③ロシア企業との取引停止や国際決済からの締め出し、④日米欧とロシアの双方の制裁による禁輸措置などが考えられる。日米欧の主要3極で両国向けの輸出シェアが大きいのは欧州で、20%の輸出減少で成長率が約0.2%ポイント押し下げられる。貿易取引が全面停止した場合の成長率の押し下げは約0.8%ポイントに膨れ上がる。

ロシア・ウクライナ向け輸出減少の影響試算
ロシア・ウクライナ向け輸出減少の影響試算

資源高が続けば日本への影響も無視できない

ロシアやウクライナは穀物や鉱物資源の世界有数の産出国で、供給不安が資源価格の高騰をもたらしている。資源価格の上昇は、資源輸入国から資源輸出国への所得移転という形で世界経済に波及する。日米欧で石油や天然ガス関連の純輸入額が大きいのは日本で、シェールの生産能力拡大で米国は近年、純輸出国となっている。1バレル120ドルの原油価格(ブレント)が続いた場合、日本の成長率は0.5%ポイント、欧州の成長率が0.3%ポイント押し下げられる。ここでは資源輸出国に転じた米国は僅かに成長率が押し上げられる計算となるが、所得移転は一部の資源関連企業に集中し、大多数の国民は資源高による購買力の目減りに直面する。試算結果とは異なり、米国でも資源価格の上昇は景気の下押し要因となる可能性が高い。

輸出減少と資源価格上昇の2経路の影響を合算すると、貿易停滞の影響が深まった場合には経済的な結びつきが強い欧州への打撃が大きく、資源価格の高騰時には資源輸入国の日本への打撃が上回る。ロシアの資源輸出が滞れば、エネルギー供給の多くを依存する欧州への打撃は避けられない。これらに金融市場の動揺や、サプライチェーンの混乱、世界経済減速によるマイナス影響などが加わることになる。コロナ危機からの克服が視野に入ってきた世界経済にとって新たな重石となる。

原油価格上昇による成長率への影響試算
原油価格上昇による成長率への影響試算

田中 理


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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