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内外経済ウォッチ『欧州~感染再拡大で遠退くコロナ禍完全克服~』(2022年1月号)

田中 理

目次

感染再拡大に見舞われる欧州

コロナ禍克服と経済復興を目指す欧州経済に、感染再拡大と新たな変異種(オミクロン株)が冷や水を浴びせている。ドイツ、オランダ、オーストリア、スロバキアなどでは、1日当たりの新規感染者数が過去最高を更新している。ワクチン接種の進展もあり、多くの国では、重症患者や死者の数が過去の感染爆発時ほど増えていない。それでも、感染者が多い一部の国や地域では病床逼迫が顕著となっており、部分的なロックダウンの再開や行動制限の再強化に乗り出している。

冬場の感染再拡大の様相は、欧州の3つの地域で異なる。感染第一波で震源地となったイタリアやスペインなどの南欧諸国では、感染者が比較的抑制されている。これらの国々はワクチン接種率が非常に高く、集団免疫が感染予防に一定の効果を発揮している。スロバキアやチェコなど中東欧諸国の多くは、ワクチン接種率が低く、感染拡大が最も深刻となっている。オランダやドイツなどの北部欧州諸国は、ワクチン接種率がそれなりに高いにもかかわらず、感染者が急増している。感染者の多くはワクチン未接種者で、冬場の気温低下と感染予防意識の緩みが感染拡大につながっている可能性がある。ワクチン接種で重症化リスクが抑制されているとは言え、感染拡大が続く一部の国や地域では病床逼迫が顕著となっている。

資料1 欧州諸国の感染者とワクチン接種の関係
資料1 欧州諸国の感染者とワクチン接種の関係

オミクロン株の新たな脅威も浮上

こうしたなか、オーストリアがロックダウンの再開とマスク着用の義務化、オランダが夜間の小売店舗・飲食店の営業停止、ドイツがワクチン未接種者を対象とする飲食店の利用制限などを開始した。行動制限を再強化して以降、これらの国々では小売店舗や娯楽施設の人出が減っているが、過去の感染拡大時ほど大幅には落ち込んでいない。今回は行動制限の対象・地域・内容が限定的なうえ、人々の行動変容とワクチン接種の進展もあり、従来と比べて、感染予防と経済活動の両立が可能となってきたことが背景にある。当面は財政・金融政策のサポートも継続するとみられ、この程度の行動制限強化であれば、マイナス成長への再転落は回避可能とみられる。

だが、気温が低下する冬場は一般に感染が拡大しやすく、ワクチン未接種者に対する行動制限強化や追加接種の効果が出てくるまでには時間が掛かる。オミクロン株は従来の変異株に比べて感染力が高く、ワクチンが効きにくい可能性も指摘されている。各国は水際対策を強化しているが、既に多くの欧州諸国でオミクロン株が確認されている。今後も感染が広がれば、ロックダウンを再開する国や地域が増え、行動制限も長期化することが避けられない。そうなれば、欧州のコロナ禍克服と経済活動正常化のシナリオが崩れかねない。

資料2 主な欧州諸国の小売・娯楽店舗の人出
資料2 主な欧州諸国の小売・娯楽店舗の人出

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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