内外経済ウォッチ『米国~デルタ変異株の更なる変異がリスク~』(2021年9月号)

桂畑 誠治

目次

デルタ変異株による感染急拡大

米国では、7月以降新型コロナウイルスの感染が再び拡大している。その大部分はインドで発見された感染力の強いデルタ変異株であり、ワクチン接種の進んでいないフロリダ州などを中心に急激に感染が拡大している。金融市場では、感染拡大による経済活動への悪影響が懸念されている。

米国の経済情勢をみると、21年4-6月期の実質GDP成長率(1次推計)は、サプライチェーンの混乱による在庫投資の減少が押し下げ要因となったにもかかわらず、21年3月に成立した1.9兆ドル規模の経済支援策、新型コロナウイルスの感染鈍化を受けた行動制限の緩和、ワクチン接種の進展による人の移動の活発化等を背景に個人消費が同+11.8%(同+11.4%)と加速したことで、前期比年率+6.5%(1-3月期同+6.3%)と高い伸びを維持した。また、21年4-6月期のGDPの水準はパンデミック前のピークを上回り、主要先進国で最も早い経済回復を実現した。

7月に入っても企業の景況感を現すISM統計は、製造業が59.5、非製造業が64.1とともに高い水準を維持しており、デルタ変異株による感染拡大の景気への深刻な悪影響は現時点では見られない。

デルタ変異株は既存ワクチンとマスク着用で対応

新型コロナウイルスの変異種であるデルタ変異株は、既存のmRNAワクチンの感染予防効果を変異前の90%台から70%程度に弱めるとの研究結果が公表されており、ブレイクスルー感染(ワクチンを2回接種した人の感染)も起きている。また、2回のワクチン接種後に感染した場合でも、ウイルスの保有量はワクチン非接種者と同じであるため、ワクチン接種者も不織布マスクを着用しないと感染拡大に繋がる。ただし、重症化を抑える効果は90%程度と高いままであることが研究報告されていることから、バイデン政権、州知事は、ワクチン接種の促進、マスク着用の義務付けなどを行っても、ロックダウン、行動制限の強化などを行わないと考えられる。このため、デルタ変異株の経済成長への悪影響は限定的なものにとどまるとみられる。

もっとも、パンデミック終息の兆しが全くみられないなか、2週間程度の周期で変異する新型コロナウイルスの特性を考慮すると、デルタ変異株が既存のワクチンの重症化に対する予防効果を大幅に弱めるような変異を起こす可能性は否定できない。このような変異種によって感染が急激に拡大すれば、新しいワクチンの開発と製造が行われるまでの数カ月、行動制限を強化せざるを得ず、米国を含む世界経済の成長鈍化は避けられないだろう。

図表
図表

図表
図表

桂畑 誠治


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

桂畑 誠治

かつらはた せいじ

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済

執筆者の最新レポート

関連レポート

関連テーマ