内外経済ウォッチ『アジア・新興国~「人口減少社会」が迫る中国経済の行方~』(2021年6月号)

西濵 徹

昨年以降の世界経済は、新型コロナウイルスのパンデミックを受けて景気に深刻な下押し圧力が掛かった。しかし、その後は全世界的に経済活動の正常化、再開の動きが広がりをみせるなど景気回復が促された。さらに、全世界的な財政及び金融政策の総動員を通じた景気下支えにより国際金融市場は『カネ余り』の様相を一段と強め、世界経済の回復も相俟って金融市場は活況を強めている。また、世界経済のけん引役となってきた中国の景気回復は世界経済の回復を促す一方、その背後では債務が急拡大しており、中国経済が抱える構造問題が再燃するリスクが高まっている。

他方、近年の中国では少子高齢化が急速に進むなか、昨年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で出生数も大きく減少した。こうしたなか、10年ぶりに実施された国勢調査の公表が遅れており、様々な憶測を呼んでいる。政府は4月末に突如「我々の理解では2020年も引き続き人口が増加した」と発表したが、比較対象は明らかにしていない。なお、政府系シンクタンクは2027年に人口減少に陥るとの見通しを示していたが、想定を7年上回るスピードで人口動態が変化した可能性もある。そうなれば潜在成長率の低下は避けられない上、政府が懸念した『未富先老(富む前に老いる)』が進んだことを意味し、社会保障制度が整備途上な一方で社会経済格差が懸念されるなか、今後はその対応も困難になると予想される。

資料1
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中長期的にみた中国経済には人口動態をきっかけに様々な課題が山積する状況にあるが、短期的には財政及び金融政策を通じた景気下支えに加え、世界経済の回復による外需の下支えが期待されるなど景気の追い風になる材料は多い。ただし、足下の企業マインドは、製造業、非製造業ともに回復の動きに一服感が出ているものの、好不況の分かれ目となる水準を上回るなど景気拡大を示唆する動きが続いている。雇用の回復が道半ばの状況にあり家計消費など内需の行方には不透明感がくすぶるほか、足下では米国のみならず欧州との関係に不透明感が高まるなど外需の行方に悪影響を及ぼし得る動きもみられる。他方、政府が主導する産業政策の動きは一段と加速しており、感染収束が図られていることも景気を下支えしよう。

足下の景気動向は引き続き緩やかな拡大が続いていることが示唆されており、短期的にみれば中国景気の行方は楽観視出来る状況にあると捉えられる。その一方、中長期的には潜在成長率の低下が景気の足かせとなることが懸念される上、米中摩擦の激化など対外的に混乱を招く要因がくすぶるなか、国内では社会経済格差の拡大や過剰債務問題の再燃といった課題も山積するなど、徐々に見通しが立ちにくい状況となることも懸念される。今後の中国との向き合い方を巡っては、こうした視点がこれまで以上に重要になることを「頭の片隅」に入れておく必要があろう。

資料2
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西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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