内外経済ウォッチ『アジア・新興国~トルコは何処へ向かっていくのか~』(2021年5月号)

西濵 徹

ここ数年のトルコは、経常赤字と財政赤字という『双子の赤字』に加え、インフレも常態化するなど経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の脆弱さを理由に、国際金融市場の動揺局面では資金流出圧力が強まる動きがみられた。特に、インフレ率は中銀の定めるインフレ目標を大きく上回るものの、エルドアン大統領が低金利を求めるべく中銀に対して圧力を強めたため、中銀は景気下支えを目的に金融緩和に動いて金融市場からの信認は低下した。また、昨年は新型コロナウイルスのパンデミックによる景気下振れを受け、中銀は利下げによる景気下支えに動き、結果的に通貨リラ相場への調整圧力は一段と強まった。

その結果、中銀はリラ安阻止に向けて利上げ実施に追い込まれたが、エルドアン大統領の反発を招いて昨年11月に中銀総裁が更迭された。しかし、後任総裁となったアーバル氏は国際金融市場の信認回復を目指して大幅利上げを実施し、その後もリラ相場及び物価の安定を目指して金融引き締めを堅持する姿勢をみせた。さらに、3月の定例会合でも追加利上げを実施した上で、追加利上げに含みを持たせるなど敢然と金融引き締めを維持する考えを示した。この背景には、米長期金利の上昇をきっかけに国際金融市場では新興国からの資金流出圧力が強まり、リラ相場への悪影響が顕在化したことがある。アーバル氏の下での『正しい』政策運営はリラ相場の安定に繋がった。

年明け以降、同国内ではワクチン接種の取り組みが進んでいるものの、感染力の強い変異種を中心に感染が再拡大する動きがみられ、政府は行動制限を再強化する事態に追い込まれている。さらに、輸出の半分以上を占める欧州でも、感染再拡大による行動制限の再強化を受けて景気の下振れが懸念されるなど、先行きの景気に対しては内・外需双方で不透明要因が山積している。

こうしたなか、3月末に中銀の信認回復に尽力したアーバル氏が突如解任された。後任総裁となったカブジュオール氏は新聞に「高金利が高インフレを招く」という論考を載せるなど、エルドアン大統領と同じ考えを持つこともあり、その後のリラ相場は一転して調整するなど混乱している。なお、カブジュオール氏は市場の動揺を沈静化させるべく引き締め姿勢の重要性を説くなど『変心』する動きをみせるが、上述した論考の内容を勘案すれば付和雷同感は否めない。さらに、エルドアン大統領の下では中銀総裁が3代連続で更迭されていることを勘案すれば、仮にカブジュオール氏が金融引き締めに動けば自ら更迭されるリスクを高めることも予想される。アーバル氏の突如の更迭を受けたリラ相場の調整を受け、中銀はリラ相場の安定に向けた為替介入に動いた。外貨準備高の減少により国際金融市場の動揺に対する耐性が低下している可能性も想像に難くない。トルコを取り巻く状況は着実に厳しさを増している。

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資料2
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西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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