内外経済ウォッチ『欧州~復興基金の稼働が遅れる恐れ~』(2021年5月号)

田中 理

経済復興と社会課題の同時解決を目指す

欧州復活の起爆剤と財政統合の第一歩として期待された欧州復興基金の早期稼働に暗雲が立ち込めている。昨年7月の欧州首脳会議で合意した復興基金は、財政資金が不足する欧州連合(EU)の加盟国に、コロナ危機からの復興資金を提供する。EU予算を裏付けに欧州委員会が債券を発行し、それを原資に加盟国に財政資金が振り分けられる。総額7500億ユーロの基金の約半分が返済を前提としない補助金として、残り半分が返済を前提とした低利融資として提供される。コロナ禍という特殊な状況下の時限措置ではあるが、EUは部分的な債務共有化に踏み出すことになる。

基金の利用を申請する加盟国は、EUの優先課題である気候変動対策やデジタル化、さらには各国が抱える構造問題の解決に向けた取り組みを網羅した復興計画を欧州委員会に提出する。計画が承認される場合、初回分として各国に割り当てられた資金の13%が拠出され、その後は計画の進捗状況に合わせて追加資金が提供される。復興計画の提出期限は4月末に設定され、計画の承認に2ヶ月程度、債券発行に1ヶ月程度を要するため、加盟国が初回資金を手にするのは最短で7~8月頃とみられてきた。

資料1
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正式稼働には全加盟国の議会承認が必要

だが、欧州委員会と加盟国政府との事前折衝の過程で、多くの国の復興計画が踏み込み不足を指摘され、計画の練り直しを求められている。各国を取り巻く政治環境や既得権益もあり、構造問題への抵抗が根強く、計画策定が遅れている。また、基金の原資となる債券発行を開始するには、全ての加盟国で関連規則の議会承認が必要となる。3月中旬時点の集計では、約半分の国で議会承認が終わっていなかった。

とりわけ問題となりそうなのが、3月中旬に総選挙を行ったオランダだ。今回の選挙で議席を獲得したのは実に17政党に上る。多政党による連立が必要で、政権発足協議には時間が掛かる。前回の選挙後に政権が発足するまでには225日を要した。当初、前政権を率いたルッテ首相の再任が確実視されたが、組閣構想中の虚偽発言が問題視され、速やかな政権発足が難しい状況にある。

この他にも、議会採決を終えたドイツでは、復興基金の合憲性を巡る訴えが提起されたことを受け、憲法裁判所によって関連法案の承認が差し止められている。法的検討が行われるまでの間、債券発行の開始が遅れる。加盟国への復興基金の拠出開始が秋から冬に後ずれする可能性がある。

資料2
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田中 理

田中 理

たなか おさむ

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 欧州・米国経済

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