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DXの視点『ロボット犬から考えるリモートテック』

柏村 祐

ロボット犬の登場

新型コロナウイルス感染拡大防止のため、密を避ける具体策にはどのようなものがあるだろうか。

例えば、スーパーやコンビニに行けば、離れて並ぶようにテープやシールが貼られていたり、銀行の窓口では待合室で座る席が指定されている。また、職場では、離れて座ることが当たり前となった。日本では、「新しい生活様式」としてこれらの行動変容を促す取組みが進められているが、シンガポールでは、テクノロジーを活用したイノベーティブな取組みも実施されている。その1つがロボット犬SPOTによる遠隔操作テクノロジーである。シンガポールGovernment Technology Agencyによれば、同国内のビシャン・アンモキオ公園において、人間が遠隔操作によりロボット犬SPOT を3キロにわたり歩かせ、ロボット犬SPOTからリアルタイムで取得する映像を遠隔で監視員がモニタリングしている。監視員は、人と人が接近しているのを発見した場合、1メートル離れるようスピーカーを通じて注意喚起の音声を流すというような取り組みが実施されている。

もともとロボット犬SPOTは、アメリカのBoston Dynamics社が危険な地域への潜入を伴う作業や、従来人が担っていた労働力の代替を目的として創られたものである。今回の新型コロナウイルス感染拡大に対応するため、シンガポール政府の取り組みはロボット犬SPOTの優位性をいち早く認識し、社会に実装したイノベーティブなものと言える。

利用拡大を見込むロボット犬

ロボット犬SPOTを活用した人の危険を回避するアイデアは他にも模索されている。アメリカのBoston Dynamics社HP「BOSTON DYNAMICS COVID-19 RESPONSE」によれば、そのアイデアは、「遠隔医療」、「遠隔バイタル検査」、「消毒」に分類される。「遠隔医療」のアイデアは、新型コロナウイルスの感染疑いがある人に対して、症状をたずねる等の初期対応をロボット犬SPOTが代替するものだ。医療スタッフは、タブレットが装着されたロボット犬SPOTを遠隔操作することにより、貴重な医療防護具を節約するとともに感染リスクをゼロにすることができる。また、「遠隔バイタル検査」は、サーマルカメラテクノロジーを活用し、ロボット犬SPOTが装備するカメラを通じて、感染疑いがある人の体温、呼吸数、脈拍数、酸素飽和度を測定するというものだ。このような遠隔バイタル検査に関するソースコードは、世界最大のソフトウェアの開発プラットフォーム(GitHub)において開示されており、その詳細を確認することが可能だ。最後の「消毒」のアイデアは、ロボット犬SPOTの背中にUV-Cライトを取り付け、病院内や地下鉄の駅などの不特定多数の人が集まるスペースを除菌するというものだ。これは除菌スプレーを使って人が消毒するという従来の方法をロボット犬SPOTが代替する。

新型コロナウイルス感染拡大前は、お店、病院など公共の場の混雑を気にせず行動することができたが、新しい生活様式として混雑を避けて人との距離を保つことが求められている。現在、公共の場では利用者の密を回避する様々な対策が進んでいるが、意図せず密になってしまうこともある。そのようなシーンにおいて、ロボット犬SPOTのようなテクノロジーは、私たちの新しい生活様式を支え、感染リスクをゼロにする可能性を秘めた有益なツールといえる。

柏村 祐


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柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: テクノロジー、DX、イノベーション

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