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2026.09.08
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日本の長期金利3%時代、AIブームは債券安を加速させるのか
~巨額のAI投資が変える「株高・債券安」の新シナリオ~
柏村 祐
- 要旨
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- 日本の長期金利が3%を突破し、金融市場や投資家の関心を集めている。その背景には、国内要因に加え、世界的な「AIブーム」に伴う構造的な金利上昇圧力、いわば「金利の平熱上昇」が日本にも及んでいる可能性がある。
- AIブームは3つの経路を通じて、金利を高止まりさせる方向に働く。第一に、AI関連企業による社債発行の増加が債券需給を通じて金利上昇圧力となりうる。第二に、AIによる生産性向上が自然利子率(r*)を引き上げる可能性がある。第三に、データセンターの電力需要増が新たなインフレ要因となりうる。
- 「インフレが落ち着けば低金利に戻る」と安易に想定すべきではない。長期金利3%を超え、なお上昇する可能性がある環境では、長期債の価格下落リスクが意識され、従来型の資産配分についても再点検が必要となる。
- 個人投資家にとっては、保有する債券のデュレーションを短めに保つことと、インフレ耐性のある資産を補完的に組み入れることが、実務上の対応策となる。
- 目次
1. 日本の「金利3%超え」の衝撃~AIブームも震源か
日本の長期金利の代表的な指標である新発10年国債の利回りが3%を突破した。10年国債利回りが3%台に達するのは約30年ぶりであり、長年にわたりゼロ金利・マイナス金利に慣れてきた日本経済にとって、大きな転換点といえる。金利の上昇は、国内の金融市場だけでなく、個人の暮らしや資産運用にも大きな影響を及ぼす。住宅ローン金利の上昇に不安を感じたり、保有する債券やバランス型ファンドの価格下落によって含み損を抱えたりするなど、急激な環境の変化に戸惑っている投資家も多いだろう。金利の上昇の背景には、国内のインフレ圧力や財政への警戒、日銀の追加利上げ観測など、複数の要因が重なっている。もっとも、その要因を国内事情だけに求めることはできない。世界的に強まる金利上昇圧力にも目を向ける必要がある。一方で、今回の金利上昇を一時的なものとみる見方も、市場には依然として根強い。
しかし、視野をグローバルに広げると、別の要因が見えてくる。世界的な「AI(人工知能)ブーム」そのものが、各国の金利を高止まりさせ、日本の金利上昇をも後押しする構造的な要因となっている可能性だ。AIと聞くと、巨大テック企業の株価上昇ばかりに目が向きがちだが、マクロ経済の視点に立つと、AI革命は株式市場だけでなく、世界の資金需給やインフレ構造にも影響を及ぼしつつある。
「AI株高」の裏側で進む債券安(金利上昇)を、一時的な現象として片づけるのは早計であろう。世界の金融市場で始まった構造的な変化として捉え直す必要がある。本稿では、AIがマクロ経済に影響を及ぼす3つの経路として、「資金需要」「自然利子率」「電力インフレ」を整理し、「長期金利3%時代」における資産運用上の論点を提示したい。
2. AIブームはなぜ債券安をもたらしうるのか
(1) AI投資を支える社債発行が債券需給を変える
現在のAIブームを牽引する巨大テック企業は、データセンターの構築や半導体の確保、電力インフラの整備などに巨額の資金を投じている。OECD(経済協力開発機構)が2026年6月に公表した「OECD Economic Outlook, Volume 2026 Issue 1」によれば、「マグニフィセント・セブン(Magnificent 7)」をはじめとするAI関連企業の設備投資は急速に拡大しており、2027年には1.1兆ドルに達すると予測されている。こうした投資の拡大とともに、AI関連企業では社債やプライベート・クレジット、プライベート・エクイティなど、市場ベースの資金調達の重要性も高まっている。資料1のAはAI関連企業の設備投資が利益の伸びを上回るペースで拡大していることを、Bは米国AI企業の社債残高や、ソフトウェア・テクノロジーサービス企業向けのプライベート・クレジット、プライベート・エクイティ投資が拡大してきたことを示している。
OECDはさらに、2025年の投資適格社債の発行額に占めるAI関連企業の比率が上昇しており、こうした傾向が2026~27年にも続くとみている。そのうえで、投資家がより多くの社債発行を吸収する必要が生じれば、金利やクレジットスプレッドに上昇圧力がかかる可能性を指摘している。株式市場では、AIの成長期待が株価を押し上げる一方、債券市場ではAI投資を支える社債供給の増加が新たな需給要因となりうる。つまり、AIブームが続くほど、株式市場では成長期待が高まりながら、債券市場では資金需要の増大を通じて金利上昇圧力が生じるという、これまでとは異なる構図が強まりやすい。

(2) AIは「金利の平熱」を引き上げるのか
AIが金利に与える影響は、債券市場の需給だけにとどまらない。より長期的には、AIが経済の「金利の平熱」ともいえる自然利子率(r*)そのものを変化させうる。
BIS(国際決済銀行)の「BIS Annual Economic Report 2026」は、AIが長期的な経済成長と自然利子率に与える影響について、複数のシナリオを用いて分析している。資料2は、2040年時点の自然利子率をシミュレーションしたものである。「通常」シナリオでは、経済は歴史的なトレンドである年率2%程度の成長を続け、自然利子率もAI導入前の水準にとどまる。これに対して、AIが生産性を持続的に押し上げる「生産性向上」シナリオや、AIが自律的な技術革新を生み出す「変革的AI」シナリオでは、生産性向上によって資本の限界生産性が高まり、自然利子率も上昇する。AIが企業の収益機会や投資収益率を高めれば、経済全体としてより高い金利水準と整合的になると考えられる。
もっとも、BISの分析は、「AIが進展すれば必ず自然利子率が上昇する」と結論づけているわけではない。AIによる自動化で労働所得や消費需要が弱まり、供給能力の拡大に需要が追いつかなくなる「需要ボトルネック」シナリオでは、自然利子率はいったん上昇した後、長期的にはAI導入前の水準を下回る可能性も示されている。したがって、AIの金利への影響は、生産性向上がどの程度実現するのか、AIによる利益が消費や投資にどのように還流するのかによって大きく異なる。それでも、現在のAIブームが企業投資の拡大と生産性向上を伴って進むのであれば、自然利子率が従来より高い水準へ切り上がるシナリオは無視できない。言い換えれば、金利が下がるとしても、その落ち着きどころが以前より高い水準となる可能性がある。

(3) AIデータセンターは新たなインフレ要因になる
さらに、AIの物理的なインフラであるデータセンターの急増が、新たなインフレ要因となりうる。AIの計算処理には大量の電力が必要であり、データセンターの増設は電力需要を押し上げる。電力供給の拡大が需要増に追いつかなければ、卸売電力価格や小売電気料金の上昇につながりうる。
ダラス連銀が2026年3月に公表した分析では、データセンター建設の拡大が米国の電力価格とPCE(個人消費支出)インフレ率に与える影響を試算している。ダラス連銀によれば、データセンターの増設に伴う電力需要増は、短期的にはより高コストの発電設備の稼働を必要とし、長期的には発電設備や送配電網、再生可能エネルギー、蓄電池などへの追加投資を必要とするため、電力価格を押し上げる可能性がある。資料3は、データセンターの電力需要がPCEインフレ率に与える影響を示している。現実的な想定に基づくシナリオでは、2030年頃の年間PCEインフレ率を0.04~0.13%ポイント程度押し上げると試算されている。
また、こうした試算は再生可能エネルギーの供給拡大を前提としている。ダラス連銀は、太陽光や風力発電の拡大が想定を下回った場合、データセンターによるインフレ押し上げ効果がほぼ倍増する可能性を指摘している。もちろん、0.04~0.13%ポイントという数字だけをみれば、マクロ全体のインフレ率を大きく変えるほどではない。しかし、米連邦準備制度理事会(FRB)が2%のインフレ目標を掲げて金融政策を運営するなかでは、継続的な0.1%ポイント前後の上振れ要因も無視できない。AIブームが電力需要を通じてインフレ圧力を残せば、FRBによる利下げの余地を狭め、結果として米国金利の低下を妨げる要因となりうる。

3. 「長期金利3%時代」の資産防衛術
第2章で見てきたように、AIブームは「資金需要」「自然利子率」「電力インフレ」という3つの経路を通じて、世界的な金利を高止まりさせる構造的な要因となりうる。この視点に立てば、日本の長期金利が3%を超えた現状も、国内固有の事情や一時的なオーバーシュートだけでは説明できない。世界的に金利の均衡的な水準が切り上がる、いわば金利の平熱が上がるという大きな流れの一部である可能性がある。
ここで重要なのは、「インフレが落ち着けば、かつての低金利時代に戻る」と安易に考えないことである。日本においても、長期金利3%、あるいはそれ以上の水準が新常態となる可能性も視野に入れる必要がある。こうした「長期金利3%時代」を迎えるなか、個人投資家には、従来のポートフォリオ戦略を前提から見直すことが求められる。
第一に、伝統的な株式と債券の分散投資の効果を過大評価しないことである。金利が構造的に高止まりし、さらに上昇圧力が続く環境では、金利上昇によって債券価格が下落するデュレーションリスクが顕在化しやすい。これまで「安全資産」と考えて国内の長期国債やそれを組み込んだ投資信託を保有してきた投資家は、インフレ懸念を背景に株安と金利上昇が同時に進む局面では、株式の下落を債券がカバーするという従来の分散効果が十分に働かない可能性がある点に注意が必要だ。債券を保有する場合には、保有期間やリスク許容度に応じて、価格変動の比較的小さい短期・中期債へ比重を移すことや、物価の動きに応じて元金額が変動する物価連動国債を活用することが、有効な選択肢となる。
第二に、電力インフレに強い実物資産やインフラ関連資産の活用を検討することである。データセンターの電力需要増がもたらすインフレ圧力は、電力インフラ企業にとっては、長期的な追い風となる可能性がある。NISAなどを活用し、全世界株式やS&P500連動商品をポートフォリオの中核に据えつつ、補完的な資産として、電力インフラ関連株、エネルギー関連株、高配当バリュー株などを組み入れることは、AIブームが引き起こすインフレや高金利に備える選択肢の一つとなるのかもしれない。ただし、特定の業種に偏りすぎないよう、投資比率には十分な注意が必要である。
AI革命は株式市場に大きな成長機会をもたらす一方で、世界の金利やインフレの構造にも変化を及ぼしつつある。これからは、「AIだから株を買う」という発想にとどまらず、その裏側で進む金利の変化まで見据えることが重要になる。AI関連企業の社債発行やデータセンター向け電力価格の動きも、株価と同様に注視する。それが、金利のある世界で投資家に求められる新たな視点であろう。
【参考文献】
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OECD (2026) “OECD Economic Outlook, Volume 2026 Issue 1”
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BIS (2026) “BIS Annual Economic Report 2026”
-
Federal Reserve Bank of Dallas (2026) “Data center boom expected to raise electricity component of PCE inflation”
柏村 祐
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 柏村 祐
かしわむら たすく
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政策調査部 主席研究員
専⾨分野: AI・資産運用・デジタル資産
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