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2026.10.28
アジア経済
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タイ中銀、インフレ加速も景気支援を重視して4会合連続で金利据え置き
~原油高やバーツ安など物価上昇リスクがくすぶるなか、難しい政策運営が続くであろう~
西濵 徹
- 要旨
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タイ銀行(中央銀行)は、10月28日に開催した定例の金融政策委員会において、政策金利を4会合連続で1.00%に据え置くことを決定した。同国では、イラン情勢の悪化による原油高などを背景にインフレが加速しているものの、内需の弱さを反映して需要面からの物価上昇圧力は限定的とみられる。
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一方で、世界的なAI関連需要の拡大が一部産業を押し上げているものの、家計債務の大きさや雇用環境の脆弱さなどが個人消費の重しとなり、景気回復の恩恵は一部にとどまっているとの見方を示している。さらに、原油高による対外収支の悪化や洪水対策に伴う財政負担の増大、通貨バーツ安なども景気や物価に対する不透明感を強めている。
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こうしたなか、中銀は足元の金利水準が景気回復を支えるうえで適切との認識を示し、インフレの上昇は一時的との見方を維持するなど、景気支援を優先する姿勢を示した。ただし、エルニーニョ現象やイラン情勢を巡る不透明感に加え、金融緩和の長期化に伴うリスクも意識されるなか、先行きの政策運営は引き続き難しい局面が続くと見込まれる。
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タイ銀行(中央銀行)は、10月28日に開催した定例の金融政策委員会において、政策金利を4会合連続で1.00%に据え置くことを決定した。同行は、イラン情勢が緊迫化する直前に開催した2月会合において、同国経済のコロナ禍からの回復がASEAN(東南アジア諸国連合)主要国のなかでも遅れていることに加え、物価の低迷が続いていることなどを背景に利下げに踏み切った。しかし、直後にイラン情勢が緊迫化したことで状況は一変した。その結果、中銀は金利を据え置く様子見姿勢を維持している。
タイでは、2025年半ば以降のインフレ率はマイナスで推移していたものの、2026年4月以降は一転してプラスに転じている。直近9月のインフレ率は前年同月比+2.82%と中銀の目標レンジ(2±1%)内にとどまるものの、上限に近付くなどインフレ圧力が強まっている様子がうかがえる(図1)。コアインフレ率は前年同月比+1.50%にとどまるものの、2023年5月以来の高い伸びとなるなど、インフレの動きが広がりをみせている可能性がある。とはいえ、コアインフレ率は依然として低水準にあり、需要面からの物価上昇圧力も限定的とみられることが、中銀の様子見姿勢を後押ししたと考えられる。

金融市場においては、原油高が対外収支を悪化させるとともに、政府による家計支援を目的とした補助金政策などに伴う財政悪化への懸念も重なり、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の脆弱化が警戒されてきた。さらに、タイでは9月中旬以降、豪雨による洪水被害が広がり、政府は洪水対策を目的に財政支援を拡充したため、公的債務残高のGDP比は法定上限(70%)に近付いている(注1)。こうした事情も重なり、通貨バーツ相場は調整の動きを強めている(図2)。タイでは、伝統的に金取引が活発であり、バーツ相場は年明け直後にかけて金価格に連れ高する形で強含んだ。しかし、足元では金価格が調整の動きを強めており、こうした動きもバーツ安を後押ししている可能性がある。バーツ安は輸出競争力を高める一方、輸入物価の上昇を通じてインフレ圧力を増幅させることが懸念される。とはいえ、足元では景気の不透明要因が山積しており、中銀にとっては様子見姿勢を維持せざるを得ない事情もうかがえる

会合後に公表した声明文では、今回の決定が「全会一致(出席した6名の政策委員が据え置きを支持し、1名が欠席)」であったことを明らかにした。タイ経済については「AI(人工知能)関連の好循環が景気の勢いを増している」ものの、「経済成長率は潜在成長率を下回り、景気拡大の恩恵は一部に集中している」との認識を示した。一方で、物価動向については「供給要因を理由に一時的な上昇が見込まれる」とした。信用動向については「全体的な伸びは加速している」ものの、「中小企業向け融資は引き続き縮小している」ほか、「中小企業や家計向け融資の質を注視する必要がある」との認識を示した。そのうえで、中銀の政策運営について「緩和的な金融政策と的を絞った金融措置は景気回復を下支えしている」と評価しつつ、「金利を据え置き、イラン情勢やエルニーニョ現象によるインフレリスクの影響を注視する必要がある」とした。
具体的には、「2026年の経済成長率は+2.4%、2027年は+2.1%になる」との見通しを示す一方、「その恩恵はAIに関連する製造業やサービス業の企業・労働者に集中している」とした。個人消費については「家計債務の大きさ、脆弱な雇用環境、低所得世帯を中心とする購買力の弱さが重しになっている」との見方を示した。加えて、「原油高が外国人観光客数の足かせになる」としたほか、「全体としての経済成長が潜在成長率を下回るなかで、中小企業は依然事業環境への適応や競争激化という困難に直面している」との認識を示した。
物価動向については「2026年のインフレ率は+2.1%、2027年は+1.3%になる」との見通しを示し、「エネルギー価格やエルニーニョ現象の影響で2027年初めにかけて上昇が続く」一方、「その後は構造的な制約要因による低成長や内需の弱さを反映して鈍化する」とした。コアインフレ率も「2026年は+1.2%、2027年は+1.3%になる」との見通しを示すとともに、「中期的なインフレ期待は依然として目標レンジ内に定着している」とした。ただし、「イラン情勢の動向、補助金財政の余力低下、企業によるコスト転嫁の影響、中期的なインフレ期待による上振れリスクを注視する」とした。
バーツ相場については「FRB(米連邦準備制度理事会)による引き締め観測や原油高が重しになっている」とした。一方で、「国際的な金利上昇の動きにあわせてタイでも長期金利が上昇している」ものの、「民間部門の借入コストは概ね安定している」ほか、「大企業向けをけん引役に信用動向は回復しているが、中小企業向け融資は縮小している」、「中小企業や低所得者層をはじめ家計の債務返済能力を注視する必要がある」との認識を示した。
先行きの政策運営については「物価安定と持続可能な経済成長、金融安定の維持を目指す」との従来からの考え方を繰り返した。そのうえで、「足元の金利水準が景気回復を支えるうえで適切」として、景気支援を優先する考えを示した。物価動向については「供給要因による物価は上昇しているが、今後もインフレ見通しや関連するリスクを注視する」と8月の前回会合と同じ文言を繰り返すなど、インフレが一時的なものにとどまるとの認識を維持している。一方、今回は「低金利が長期的なマクロ金融安定に及ぼす影響」にも言及するなど、金融緩和の長期化に伴うリスクにも一定の警戒姿勢を示した。とはいえ、先行きはエルニーニョ現象の影響が長期化する懸念が高まっており、世界経済や国際金融市場を巡る不透明要因も山積するなか、政策の舵取りは引き続き難しい局面が続くと考えられる。
注1 10月2日付レポート「タイ、洪水被害が景気の新たな重石に」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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