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米国:民主党勝利で政策は変わるのか?

~フィリバスターと大統領拒否権の壁~

前田 和馬

要旨
  • 11月3日に投開票を迎える米中間選挙において、民主党が上下院ともに過半数を奪取するとの見方が強まっている。この場合、連邦議会はトランプ政権による政策推進へのハードルになる可能性がある。
  • 一方、民主党は上院で勝利しようとも、フィリバスター(議事妨害)を回避できる60議席に到達する可能性が低く、一部共和党議員の賛成がなければ法案の可決が難しい。加えて、仮に法案が超党派で議会を通過しても、大統領が拒否権を発動すれば法案は成立しない。
  • トランプ大統領は外交や関税政策でのレガシー作りを目指すとみられる。一方、イラン戦争は議会による国防予算への権限、関税政策は司法判断がどの程度の歯止めになるかが注目される。他方、AI規制は連邦レベルでの規制案が合意に達するか不透明であり、州・地方政府レベルでのデータセンター建設規制等が続く可能性がある。

1. はじめに

11月3日に投開票を迎える米中間選挙において、民主党が上下院ともに過半数を奪取するとの見方が強まっている。予測市場のPolymarketでは民主党の勝利が下院で9割、上院で7割弱織り込まれている(10月27日時点)。こうした議会構成の下では、議会がトランプ政権の各種政策に一定の歯止めとなる可能性がある。もっとも、上院のフィリバスター(議事妨害)による60票の壁、及び大統領による可決法案への拒否権を踏まえると、議会民主党がどの程度の影響力を持つかは不透明感が残る。

本稿では少なくとも下院では民主党が多数派になるとの前提の下、各種政策に関するトランプ政権の方針、議会による想定される動き、最終的な政策の方向性を考察する。

図表
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① イラン戦争

中間選挙の民主党勝利で内政面での進展が望みにくくなれば、トランプ大統領は大統領権限が強い外交政策を活用し、自身のレガシーを築こうと試みるだろう。こうした動機がイラン情勢の鎮静化に進むのか、或いは過激化に向かうのかは不透明である。もっとも、中間選挙後のトランプ大統領は原油価格に配慮して軍事行動を抑止する必要性が弱まりやすい。例えば、10月21日付のニューヨーク・タイムズは、米国とイスラエルが中間選挙後のイラン攻撃の再開計画を策定したと報道している。ちなみに、Fox Newsの9月世論調査によると、米国民の71%が「トランプ政権にはイラン戦争の終結に向けた明確な戦略がない」と回答するなど、中東情勢の収束に向けた道筋は見通せないとの声が目立つ。

民主党が上下院で勝利しようとも、連邦議会がイラン戦争を直接的にやめさせることは難しい。2026年6月、上下両院は1973年戦争権限法に基づき、議会の承認を得ていない対イラン軍事行動の停止を求める決議を可決したものの、同決議には法的拘束力がない。また、2027年以降に議会が大統領の戦争権限を制限する法案を可決しても、トランプ大統領は拒否権を発動してこの成立を阻止できる。拒否権を覆すには上下両院でそれぞれ3分の2以上の賛成が必要であり、共和党議員の大幅な造反がなければ実現は難しい。

イラン戦争の抑止力となるのは、議会による歳出権限を通じた戦費の抑制とみられる。例えば、トランプ政権は6月に対イラン軍事費用を含む876億ドルの追加予算(国防省向けは671億ドル)を議会に要求したほか、2027年度国防予算では1.5兆ドル(26年度:9,054億ドル)と巨額の国防予算を提示した。民主党が少なくとも下院で多数派となれば、このような巨額の戦費を認める可能性は低い。もっとも、議会が国防予算の成立を巡り、トランプ政権に対して抑止力をどの程度発揮できるかは不透明だ。例えば、2007年には民主党多数派の議会がイラク戦争の継続資金を巡り、一部軍事作戦の終了期限を盛り込んだ補正予算を可決した。一方、ブッシュ大統領は「議会による軍事行動の制限は違憲」と述べて拒否権を発動し、最終的には撤退日程を削除した歳出予算が成立した。他方、今回の中間選挙で民主党が大勝する場合、党内の一部議員による反対の影響を受けにくく、予算案にイラン戦争への使途制限などを盛り込む圧力が強まりやすいだろう。

② 関税政策

トランプ大統領は就任直後から世界各国に対する関税策を矢継ぎ早に導入した。このうち、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく関税策を巡っては、2026年2月に連邦最高裁が違憲判決を下し、トランプ政権は同関税の撤廃と徴収済み関税の返還を強いられた。一方、通商拡大法232条による品目別関税、通商法301条に基づく60か国・地域に対する強制労働対策としての10~12.5%追加関税、スムート・ホーリー法338条を根拠とした対カナダ50%関税などは現在も継続している。

外交政策と同様、トランプ政権は内政面での進展が期待できないなかで、大統領権限での高関税策を濫用する懸念がある。具体的には27年1月からのカナダ製自動車への50%関税、27年6月からの中国製半導体への追加関税などを既に表明済みであるほか、過剰生産能力に関する301条調査や産業機械等に対する232条調査なども関税発動を見据えて進行中だ。高関税は輸入物価を上昇させインフレ加速を招く一方、トランプ政権はこうしたインフレ懸念に配慮する必要性が選挙後にやや弱まるだろう。

下院民主党のトップであるジェフリーズ院内総務は関税撤廃の方針に言及する。もっとも、民主党が上下院を支配する議会において、大統領による関税策を制限する法案が可決されようとも、トランプ大統領は拒否権を発動してこの成立を阻止できる。このため、トランプ政権による関税の抑止力となるのは引き続き司法判断となるだろう。一方、IEEPA関税と同様、訴訟進行中における関税徴収が差し止められない場合、高関税策は政権の意向通りに継続する。なお、通商拡大法232条に基づく品目別関税の法的根拠は比較的強固とみられる一方、通商法301条による強制労働関税やスムート・ホーリー法338条の対カナダ関税はこれを違法と主張する訴訟が起きており、その持続性は司法判断に左右される。

③ AI規制

トランプ政権は、中国に対する経済的・技術的な優位性を確保するため、AI開発・投資への規制をあくまで企業の自主的な取り組みに留める姿勢を示している。一方、中間選挙ではデータセンター(DC)建設を中心にAI規制が大きな論点の一つとなっている。Reuters/Ipsosの世論調査(9月30日~10月5日)では「米国に厳格なAI規制が必要」と回答する米国民が69%に達するなど、DC需要による電気代高騰やAI普及による失業などを懸念する声が目立つ。

中間選挙後もAI規制論を巡る議論が鎮静化する可能性は低いだろう。もっとも、例えばAIモデルの開発規制を巡っては、規制対象となる事業者やモデルの範囲、重大なリスクの定義、安全性の評価方法など、現時点において議会が合意を形成できているようにはみえず、規制法案の成立可能性とその時期は非常に不透明だ。また、AI産業の成長を阻害するような法案にはトランプ大統領が拒否権を発動するだろう。もっとも、上下院で民主党が大勝しAIの大型規制法案を可決する場合、次期政権下でこうした法案が再提出され、2029年以降に民主党系の大統領と民主党支配の議会の下でこれが成立するシナリオが浮上する。

一方、州・地方政府によるDC建設を含むAI規制は、より一層強まる可能性がある。実際、11月3日に実施される36州の知事選のうち、16州では少なくとも1人の候補者がDC建設の一時停止を主張する(Scarboro[2026])。例えば、接戦のオハイオ州知事選において、民主党候補のアクトン氏は地元住民への費用負担が生じない等の条件を満たさない限り、DC建設を認めないと表明する一方、共和党のラマスワミ氏も従来のスタンスを転じDC建設の一時停止に傾いている。また、ミシガン州でも民主・共和両党の候補がDCへの規制強化を主張している。

④ 金融政策

トランプ大統領は低金利を志向し、FRBのパウエル前議長に繰り返し利下げを求めてきたほか、クック理事の解任を試みるなど、金融政策の独立性に対する攻撃を繰り返していた。一方、ウォーシュ議長は9月FOMCにて約3年振りに利上げに踏み切ったものの、トランプ大統領自身が同議長を2026年に指名したこともあり、ウォーシュFRB体制に対する批判は抑制されている。

このため、当面の金融政策は高止まりするインフレ動向、及びAI投資を中心とした景気動向に大きく依存するとみられる。一方、中期的な金融政策の方向性は上院選でどちらが勝利するかに左右されうる。理事として留まるパウエル前議長は2028年1月に任期を迎えるほか、27年9月に任期を迎えるジェファーソン副議長はその後も理事としてFRBに残るのかを明言していない。すなわち、トランプ政権は中間選挙後に1~2名の後任理事を指名する可能性が高い。仮に上院を共和党が支配し続けるのであれば、利下げに積極的なハト派な人物を指名しやすくなる。一方、上院を民主党が支配する場合、トランプ政権に近すぎる人事承認は難航することが見込まれる。後任人事の行方はFOMCメンバーのタカ派・ハト派分布に影響を与え、主に2028年以降の金融政策に影響を与える可能性がある。

⑤ 財政政策

トランプ大統領は共和党が上下院で勝利した際に全成人の米国民に5,000ドルを給付するトランプ配当を掲げたほか、イラン戦争の経費を含めた軍事予算の大幅増額を要求している。もっとも、仮に共和党がサプライズ的に上下院の多数派を維持しようとも、共和党内の一部議員は財政規律を重視するため、大規模な財政拡張策が議会を通過する可能性は低いだろう。

一方、民主党が勝利する場合、民主党は医療費(オバマケア)補助金拡充の復活や、低所得者向け公的保険(メディケイド)の支出削減方針の撤回を目指すとみられる。予算案に関しても大統領が拒否権を持つため、大型予算の成立や歳出削減は見込みにくく、財政スタンスは概ね横ばい圏で推移する可能性が高い。特に下院は民主党、上院は共和党が勝利する場合、社会保障政策に関する考えの違いが予算審議を難航させるかもしれない。一方、民主党が上下院の過半数を奪取する場合、トランプ大統領が軍事費拡大の取引材料として、メディケイドやフードスタンプなどの低所得者支援策の削減方針を撤回するなど、財政赤字が拡大するリスクシナリオも浮上する。

なお、2027年度予算は既に12月11日までのつなぎ予算が成立した一方、その後の予算審議が難航する場合には予算未成立による一部政府閉鎖のリスクが高まるだろう。また、議会予算局(CBO)は2027年中に現在の債務上限に達すると指摘しており、同上限の引き上げ審議が膠着すれば、米国債のデフォルト懸念が浮上する。

【参考文献】

以 上

前田 和馬


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

前田 和馬

まえだ かずま

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 米国経済、世界経済、経済構造分析

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