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米国:低迷する住宅市場

~住宅購入コストはコロナ以降に倍増~

前田 和馬

要旨
  • 米国における住宅市場の低迷が続いている。2026年4~6月期における実質住宅投資は前年比-3.3%と6四半期連続で減少したほか、これに先行する住宅着工も停滞を脱していない。アトランタ連銀によると、住宅購入時の月次支払額(中央値)は2019年末の1,596ドルから直近26年8月では3,172ドルへとほぼ倍増している。
  • 住宅価格はコロナ期における低金利、在宅勤務による購入需要の高まり、及び2022年以降の建設コスト高騰を通じて大幅に上昇した。その後、大幅な利上げがなされたものの、米国の住宅ローンは固定型が大半であるため、家計の金利負担は抑制された。逆に価格高騰と金利上昇は住み替えを困難とし、流通在庫が減少することで価格を高止まりさせる要因となった。
  • 住宅ローン金利が高止まりするなか、新規の住宅購入がしにくい状況は当面変化しない可能性が高い。また、供給要因による建設資材の高騰、移民抑制やデータセンター建設需要による建設労働者のタイト化を踏まえると、住宅建設費の高止まりが続くことが懸念される。
  • 2026年7月に成立した大型住宅関連法案では、プレハブ住宅に関する規制緩和や連邦政府による環境審査の一部簡素化が盛り込まれた。もっとも、短期的な住宅供給効果は限られる可能性が高く、住宅ローン金利が低下しない限り、住宅市場の低迷は長期化する懸念が強い。

1. はじめに

米国における住宅市場の低迷が続いている。2026年4~6月期における実質住宅投資は前年比-3.3%と6四半期連続で減少した(図表1)。また、その水準をみても直近のピーク(2021年1~3月期)から18.4%低い水準にある。この間、個人消費や設備投資は堅調に推移しており、GDPに占める住宅投資の割合は3.1%とサブプライムローン問題の発生後の水準(2010年7~9月期:同2.7%)に接近するなど、住宅投資の低調さは鮮明だ。住宅投資に先行する住宅着工件数も停滞が続いており、住宅投資が持ち直す兆しはみられない。

図表
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アトランタ連銀の集計によると、住宅購入時の月次支払額(中央値:物件価格と金利を踏まえたローン返済額、各種税金、保険料を含む)は2019年末の1,596ドルから直近26年8月では3,172ドルへとほぼ倍増している。この結果、家計所得に占める住宅購入コストは26年8月で43.9%に達するなど、住宅購入のしやすさの基準である30%を大幅に上回っている(図表2~3)。実際、ミシガン大学の消費者信頼感調査において、「住宅の買い時」と答える家計の割合は2割を下回るなど、米国人は住宅購入のしにくさを痛感しているとみられる。また、全米不動産業者協会(NAR)の2025年調査によると、初回住宅購入者の年齢の中央値は40歳と1981年以降の最高値に達しており、若年層の住宅購入がより困難になっている様子がみてとれる。

図表
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2. 住宅が購入しにくい背景

住宅の購入しにくさには以下の3つの要因が考えられる。

① 供給不足による価格の高止まり

米国の住宅価格は2020年後半から22年前半にかけて急上昇した。当初の価格上昇の背景にはコロナ禍での在宅勤務の普及による住宅購入意欲の拡大、及び金融緩和によるローン金利の低下があった。また、建設コストの高騰といった供給要因も価格押し上げに寄与した。一方、2022年3月にFRBが利上げサイクルに転じたことで住宅ローン金利が急上昇するなか、住宅価格は上昇幅こそ縮小したものの、本格的な下落トレンドには転じなかった(図表4)。この背景として、米国の住宅ローンは30年固定などの固定型が約9割を占めるなど、利上げ局面での金利耐性が強く、サブプライムショック時のように差し押さえ増加(中古住宅の供給過剰)による価格下落圧力が働きにくかったことが指摘できる。一方、低金利の際に住宅ローンを組んだ家計は、ライフプランに合わせた住み替えを希望しようとも、住宅ローンを組み直すと高金利が適用され金銭的な負担が大きくなる。住宅所有者の住み替えが困難となった結果、住宅売買の9割を占める中古住宅の流通在庫が抑制され(図表5)、売り物件の少なさが価格下落を抑制した。例えば、Aladangady et al.(2025)は22年における市場金利と住宅所有者のローン金利の差が住宅価格を8%押し上げたと指摘する(ロックイン効果)。足下では在庫が回復傾向にあり、住宅価格の伸びも鈍化しているものの、住宅の割高感が解消されているわけではない。

② ローン金利の高止まり

住宅ローン金利の上昇は購入者の金利負担を拡大し、家計の負担感を増大させる。米国の主な住宅ローンタイプである30年固定型は長期金利との連動性が強く、2025年はFRBの利下げ姿勢を背景に緩やかな低下基調にあった(図表6)。一方、2026年に入ってからは米・イラン戦争による原油価格上昇、インフレ高止まりによる利上げ観測の台頭、軍事費増大や関税還付に伴う財政懸念が顕在化し、これらを通じた長期金利の上昇が住宅ローン金利を再び押し上げている。

なお、米国の多くの住宅ローンは住宅ローン担保証券(MBS)として証券化されており、米国債との利回り差(MBSスプレッド)の変動も住宅ローン金利に影響する。MBSの需給動向を巡って、FRBは22年6月からMBS保有の縮小を進めており、これはMBSの需給を悪化させ住宅ローン金利を押し上げる要因となる。一方、2026年1月、トランプ大統領はファニーメイ(連邦住宅抵当金庫)とフレディマック(連邦住宅貸付抵当公社)に計2,000億ドルのMBS購入を指示するなど、ローン金利を抑制する姿勢を示している。もっとも、こうしたスプレッド縮小策を実施しても、住宅ローン金利の持続的かつ大幅な低下には長期金利の低下が求められるだろう。

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③ 建設コストの高止まり

一般的に住宅市場の低迷は建設資材や建設労働者の供給過剰へと繋がり、ラグを伴いながら建設コストを低下させる。実際、過去に住宅投資が大きく調整した局面では、住宅投資デフレーター(住宅建設コスト)が調整する傾向にあった(図表8)。一方、コロナ後に急騰した住宅建設コストは、住宅市場の低迷にもかかわらず、足下で高止まりしている。この背景として、原油などの商品市況の高騰が建設資材価格を押し上げていること、及び移民規制によって建設業を担う移民労働者の供給が制限されていることが指摘できる(図表9)。加えて、AI需要を背景としたデータセンター建設投資の増加も、建設コストの高止まりに寄与している可能性がある。住宅市場の低迷で供給過剰となるはずであった建設資材や労働者の一部がデータセンター需要に吸収されるのであれば、住宅建設コストの下落圧力が緩和されているかもしれない(図表10)。例えば、テキサス州では電気技師がデータセンター建設に確保されているため、新築住宅の建設期間が長期化しているとの報道がみられる。

3. 住宅関連法案が可決も、短期的な効果は限定的

2026年6月、連邦議会は超党派で手ごろな住宅の普及を目指す「21st Century ROAD to Housing Act」を可決した(同法案はトランプ大統領が署名しなかったため、7月に自動成立)。米国では住宅不足が2024年7~9月期で370万戸に達するとの試算があり、同法案ではこうした住宅不足に対処するため、製造住宅(プレハブ住宅)に関する規制緩和、連邦政府による環境審査の一部簡素化、10万ドル以下の小口住宅ローンに対するアクセス改善の取り組み(パイロットプログラムの開始)、大手機関投資家(350戸以上の戸建住宅を保有)による一部住宅の購入制限などが盛り込まれた。一方、同法案は連邦政府による新たな予算措置を含まない。加えて、住宅供給の制約となる開発規制の多くは地方政府の権限であるため、全米での住宅不足を連邦政府の施策だけで解消することは難しい。このため、同法案による短期的な住宅供給の増加、それによる価格抑制効果は限定的とみられる。

図表
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【参考文献】

  • Aladangady, Aditya, Jacob Krimmel, and Tess Scharlemann (2025), “Locked In: Mobility, Market Tightness, and House Prices,” Finance and Economics Discussion Series 2024-088.

  • Golding, Edward (2026), ”On the 21st Century ROAD to Housing: What Congress Accomplished in 2026 and What Remains to Be Done,” MIT GCFP - Briefs and Blogs (September 15, 2026).

以 上

前田 和馬


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

前田 和馬

まえだ かずま

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 米国経済、世界経済、経済構造分析

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