デジタル国家ウクライナ デジタル国家ウクライナ

AfD大勝後、対照的なドイツ2州の政権協議

~防火壁を維持する政治的なコストが高まっている~

田中 理

要旨
  • 9月のドイツ東部2州の州議会選挙でAfDが相次いで第一党となったが、その後の政権形成は対照的な展開をみせている。メクレンブルク=フォアポンメルン州では、SPD、左翼党、緑の党による連立協議が進み、AfDを政権から排除する「防火壁」が機能している。だが、3党連立が成立すれば、AfDが州議会で唯一の野党となり、州政府への不満や政権批判票を吸収しやすくなる、一方、ザクセン=アンハルト州では、AfD以外の政党だけでは安定多数を確保できず、AfDの少数政権や超党派の州首相など異例の選択肢が浮上している。AfDの支持が4割近くまで高まるなか、防火壁そのものが崩れていなくても、それを維持するための政治的コストは高まっている。2州の政権形成は、AfDの全国的な支持拡大が続いた場合にドイツ政治全体が直面する連立形成の難しさを先取りしている。

9月に行われたドイツ東部の州議会選挙で、右派ポピュリスト政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が相次いで大勝したことを受け、新たな州政府の発足に向けた動きが本格化している(詳細は9月24日付けレポート「AfD躍進で揺らぐドイツの中道政治」を参照されたい)。ともにAfDが第一党となったにもかかわらず、その後の展開は2つの州で大きく異なる。9月20日に選挙が行われたメクレンブルク=フォアポンメルン州では、AfDを政権から排除する形で連立協議が進んでいる。これに対して、9月6日に選挙が行われたザクセン=アンハルト州では、既成政党だけで安定した政権を樹立することが難しく、AfDが州政府を率いる可能性を排除できない状況が続いている。

メクレンブルク=フォアポンメルン州では、AfDが第一党となったが、他党はいずれもAfDとの連携を否定しており、同党が州政府を率いる可能性は低い。代わって州政府の樹立に向けて動いているのが、シュヴェーズィヒ現州首相が率いる中道左派の「社会民主党(SPD)」だ。SPDはAfDに第一党の座を明け渡し、これまで連立を組んできた左派政党「左翼党(Linke)」と合わせても過半数には届かないが、環境政党「緑の党」が加われば、州議会の過半数を確保できる。

3党は9月下旬に政権発足に向けた予備協議を開始した。10月上旬に予備協議を終える予定で、その後、正式な連立協議に移行する方向で調整している。過去5年間、連立を組み、州政府を運営してきたSPDと左翼党の政策距離は比較的小さい。両党と緑の党の間には、気候変動対策などを巡って多少の温度差もあるが、政権発足に向けての障害はそこまで大きくない。11月中旬頃までには、3党連立による新たな州政府が誕生する可能性が高い。

その結果、AfDは4割近くもの得票率を獲得して第一党となったにもかかわらず、他党が連立を拒否することで政権から排除される形となる。AfDとの連携を拒む「防火壁」がなお機能していることを示す一方、SPD、左翼党、緑の党による連立が成立すれば、AfDは州議会で唯一の野党となる。 このことは、州政府の政策に不満を持つ有権者の受け皿をAfDが独占しやすくなることを意味し、次回の州議会選挙に向けて「既成政党対AfD」という構図が一段と鮮明になる可能性がある。

ザクセン=アンハルト州では、州政府の樹立に向けた複数の動きがある。州議会選挙で圧勝したAfDは、単独過半数に3議席届かなかった。主要政党がAfDとの協力を否定するなか、5議席を持つ「ザーラ・ワーゲンクネヒト同盟(BSW)」は、政策毎の協力に含みを残している。ただ、BSWはAfDとの正式な連立には否定的で、AfDの州首相候補であるジークムント氏を支持しない方針も示している。

それでも、AfDによる政権発足の可能性が完全に消えた訳ではない。ジークムント氏は9月末、十分な支持が確保されていない現状でも、州首相選に立候補する意向を表明した。 同州の州首相選出手続きでは、最初の2回の投票では議員定数の過半数の賛成が必要となる。2回とも選出できなかった場合、州議会はまず議会を解散するかを採決し、解散が決まらなければ、3回目の投票を行う。3回目の投票では、棄権票が投票総数に算入されず、投じられた票の過半数を得た候補が選出される。

AfDとAfD以外の4党がそれぞれ39議席、BSWが5議席を持つため、BSWの5議員が全員棄権するだけでは39対39となり、AfDの候補は州首相に選出されない。ただ、BSWが棄権したうえで、他党からさらに棄権や造反が出れば、第3回投票でジークムント氏が州首相に選出される。この場合、AfDは少数政権を率いることになり、予算や重要法案を成立させるには他党の協力が不可欠となる。5議席を握るBSWが、州政府の存続を左右するキングメーカーの役割を担うことになる。

これに対して、AfDを政権から排除しようとする動きもある。SPD、緑の党、左翼党、BSWの4党は9月29日に会合を開き、AfDを含まない州政府を樹立する可能性について協議した。特定政党に所属しない超党派の人物を州首相に据える案も検討されている。4党は新議会が招集される10月6日以降も協議を続ける方針だ。

問題は、この4党だけでは議会の過半数に届かないことだ。4党の議席は計39議席にとどまり、安定多数を確保するには、連邦政府を率いる保守政党「キリスト教民主同盟(CDU)」の協力が必要になる。だが、CDUは9月29日の協議への参加を見送り、現時点ではこうした枠組みに加わっていない。 AfDを政権から排除するには、従来なら連立を考えにくかった政党同士が協力するなど、異例の統治形態を模索せざるを得なくなっている。

これまでドイツでは、「AfDと連立を組まない」という防火壁を維持することで、AfDを政権から排除することが比較的容易だった。しかし、AfDの得票率が4割近くまで上昇した結果、単にAfDとの連立を拒否するだけでは、安定した政権を樹立することが難しくなりつつある。今のところ防火壁が崩れた訳ではない。むしろ今回の2州では、多くの既成政党が防火壁を維持する姿勢を改めて示している。ただ、そのために支払わなければならない政治的なコストは高まっている。

こうした構図は、州政府だけでなく、連邦政府にも少なからず当てはまる。AfDは連邦レベルでも支持を拡大しており、直近の一部の世論調査では支持率が3割に達する。メルツ政権に対する評価は厳しさを増しており、10月のARD世論調査では、「メルツ首相の仕事に満足している」との回答は10%にとどまった。 相次ぐ州議会選挙での敗北を受け、CDU内にはメルツ党首(首相)の交代を模索する声も一部で浮上している。後継候補として、ノルトライン=ヴェストファーレン州のヴュスト州首相らの名前が取り沙汰されている。一方、CDUの8人の州首相は9月中旬にメルツ氏を支持する共同声明を発表しており、現時点で党内が交代論に傾いている訳ではない。

それでも、AfDの支持拡大が続けば、連邦レベルでも防火壁を維持しながら安定した議会多数を形成することは一段と難しくなる。同時に、AfDへの対抗策を巡る意見の違いが、CDU内部の路線対立や指導部の求心力低下につながる可能性もある。9月の東部2州で起きている政権形成の難航は、AfDの躍進によってドイツ政治の連立の選択肢が狭まり、防火壁を維持する政治的コストが高まっていることを象徴する。州レベルで先鋭化したこの問題は、今後の連邦政治にも波及しかねない。

以 上

田中 理


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ