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2026.09.18
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台湾中銀は10会合連続で金利据え置いたが、引き締め傾斜を示唆
~イラン情勢の影響をAI・半導体需要の旺盛さが相殺、政策姿勢は引き締め方向へ~
西濵 徹
- 要旨
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- 台湾中銀は9月17日の定例理事会で、政策金利を10会合連続で2.000%に据え置いた。台湾では2025年半ば以降のインフレ率が1%台に鈍化したが、イラン情勢の悪化を受けた原油・LNG価格の上昇により、エネルギーインフレが再燃している。台湾は原油輸入の6割を米国産が占め、原油備蓄も比較的厚く、中東産原油への依存度が高い他のアジア新興国に比べ供給不安への耐性は高い。一方、天然ガス輸入の約3割をカタールに依存するほか、脱原発・脱石炭を進めるなかでAI・半導体産業の拡大に伴う電力需要も増加しており、エネルギー安定供給を巡る課題は大きい。こうした状況を背景にインフレ率は加速しているうえ、足元では原油価格の再上昇によるインフレ長期化が懸念される。
- 中銀は、AI・半導体需要の拡大を背景に台湾景気が想定以上に好調であるとして、2026年の経済成長率見通しを+11.48%に上方修正し、2027年も+5.82%と高い成長を見込んでいる。一方、2026年のインフレ率見通しも+2.03%に引き上げた。今回の会合では、世界経済やイラン情勢を巡る不確実性を踏まえて据え置きを決めたものの、2名の理事が利上げを主張した。楊金龍総裁も記者会見で「政策運営は引き締め方向に傾いている」と述べるなど、インフレ圧力が続けば将来的な利上げも辞さない姿勢を示した。
- 一方、不動産市場では、これまでの住宅ローン規制によって取引や価格の伸びが鈍化したことを受け、中銀は2軒目以降の住宅ローンに対するLTV比率の上限を60%から70%へ引き上げるなど一部規制を緩和した。金融市場では、AI・半導体産業の好調を背景に株価が最高値圏で推移しており、台湾ドルも底堅い動きをみせる。先行きもAI・半導体投資の動向に左右されるものの、中銀のタカ派姿勢が台湾ドル相場を下支えする可能性があろう。
- 目次
【インフレにつながる材料は山積するが、台湾中銀は10会合連続の金利据え置きを決定】
台湾(中華民国)中央銀行は、9月17日に開催した定例理事会において、政策金利を10会合連続で2.000%に据え置くことを決定した。台湾では、コロナ禍後の景気回復を追い風にインフレが高止まりしたため、中銀は、2022年初めから物価と為替の安定を目的とする断続的な利上げを実施した。その後はインフレ率が鈍化に転じたため、中銀は2024年6月に利上げ局面を終了させるとともに引き締め姿勢を維持した。インフレ率は一段と鈍化して、2025年半ば以降は1%台で推移するなど落ち着きを取り戻した。しかし、イラン情勢の悪化による原油高は、エネルギー資源の大部分を輸入に依存する台湾経済に悪影響を及ぼすことが懸念された。
台湾は、一次エネルギーに占める原油が35%、天然ガスが20%であるうえ、原油需要の99%以上を輸入に依存する。しかし、近年の米中摩擦の激化を受けて、エネルギー安全保障の観点から米国産原油の輸入を拡大させてきた。こうした取り組みの結果、原油輸入の6割を米国産が占めている。イラン情勢の悪化により、中東産原油に依存する多くのアジア新興国が供給不安に直面するなか、台湾はその影響を比較的受けにくいとみられる。さらに、台湾の原油備蓄の水準はアジア新興国のなかで高水準であり、原油の供給懸念に対する耐性も比較的高いとされる。
一方で、台湾は一次エネルギーの35%を石炭が占めるなか、近年は脱石炭に加えて脱原発を図るべく、天然ガスの輸入を拡大させてきた。天然ガス輸入の4割をオーストラリア産が占める一方、カタール産も3割を占めるため、イラン情勢の悪化による影響は避けられない状況にある。さらに、台湾は2025年にすべての原発の稼働を停止する脱原発を実現したものの、エネルギーの安定供給を理由に再稼働を検討するなど政策の見直しを迫られている。そのうえ、補完的に石炭火力も稼働させるなど、脱石炭の流れも反転している。背景には、世界的なAI(人工知能)・半導体需要の高まりを追い風に、安定的な半導体の生産・供給に膨大なエネルギーの供給が不可欠となっていることがある。こうしたなか、イラン情勢の悪化による原油・LNG(液化天然ガス)価格の上昇、アジアでの代替需要の高まりなどを受けた石炭価格の上昇がエネルギーインフレを招いている。その結果、インフレ率は再加速に転じて6月には前年比+2.56%と1年半ぶりの高い伸びとなった。その後は原油高の一服を受けてインフレ率は鈍化しているものの(図1)、足元ではイラン情勢の不透明感が高まり原油価格は再上昇しており、エネルギーインフレの長期化が懸念される。

【中銀は基本的に様子見姿勢を維持しつつ、引き締め方向への傾斜を示唆】
今回の定例理事会後に中銀が公表した声明文では、世界経済について「6月の理事会以降もAI・半導体関連投資の増加が持続的かつ緩やかな成長に寄与している」とする一方、「イラン情勢の悪化が商品市況の高騰を招いて世界的なインフレ圧力が続いている」との認識を示した。そして、「主要国中銀が相次いで利上げを実施している」一方で、「金融政策の行方や主要国の財政動向、AI・半導体関連投資の収益性を理由に金融市場のボラティリティは高まっている」とした。先行きについては「エネルギーショックの影響が一段落すれば、景気回復が進む一方でインフレの低下が見込まれる」としつつ、「イラン情勢、主要国中銀の政策動向、AI・半導体関連投資の動向、米国の貿易政策など、不確実性が多数存在する」との見方を示した。
一方で、台湾経済について「年前半は想定を上回るペースで拡大した」ほか(図2)、足元でも「AI・半導体関連の力強い需要が輸出や民間投資を押し上げ、民間消費も持続的に拡大している」として、「2026年通年の経済成長率見通しは+11.48%になる」と従来見通し(+9.45%)から上方修正した。2027年についても「輸出や民間投資の拡大が見込まれる」ほか、「公務員の賃金や最低賃金の引き上げも予想され、民間消費も増加が見込まれる」として、「経済成長率は+5.82%になる」との見通しを示している。物価動向についても「商品市況の高止まりが見込まれる」として「2026年のインフレ見通しは+2.03%」と従来見通し(+1.91%)から上方修正した。先行きは「商品市況の上昇一服や需要鈍化が見込まれる」として「2027年のインフレ見通しは+1.83%に鈍化する」としつつ、「地政学リスクや異常気象がインフレ動向に影響を与える可能性がある」との見方を示した。

今回の決定について「国内外の経済・金融動向を検討した」とした。そのうえで、「2026年はインフレが抑制され、2027年も2%を下回る一方、景気は堅調な拡大が見込まれる」とし、「世界経済・金融環境を巡る不確実性とイラン情勢が物価や景気に与える潜在的な影響を慎重に考慮し、据え置きが健全な景気・金融発展の維持に資すると判断した」と6月理事会と同じ判断を示した。先行きについては「物価動向、主要国の金融政策、金融情勢、AI・半導体関連投資の動向、米国の経済・通商政策、異常気象など不確実要因を注視する」、「金融・物価安定の維持と経済発展の促進という責務を果たすべく、適時適切に調整する」とした。
会合後に記者会見に臨んだ中銀の楊金龍総裁は、会合での協議について「2名の理事会メンバーがインフレ懸念を根拠に、今回利上げすることが適切と表明した」として、6月理事会と同様の評決になったことを明らかにした。そのうえで、今回の決定について「利上げを行わないとしても、政策運営は引き締め方向に傾いている」、「多くの理事会メンバーは物価動向に関する懸念を示した」と述べるなど、引き締め方向を示唆した。そして「他国と同様に引き締め方向にシフトする方向で検討を進めている」としつつ、「他国に追随するものではなく、独自に決定するもの」、「物価動向を注視し続ける時間はある」と、当面は様子見姿勢を維持する考えも示した。ただし、「2027年にかけてインフレ圧力が持続すれば、中銀として必要な措置を講じる」と述べるなど、将来的な利上げの可能性にも言及した。
【住宅ローン規制の緩和決定の一方、金融市場を取り巻く環境はどうなるか】
中銀は2020年以降、不動産投機や価格高騰を抑えることを目的に、預金準備率の引き上げのほか、段階的に2軒目以降の住宅ローンに関するLTV比率(融資比率)の上限引き下げや融資の引き締めを実施した。一連の規制により、全体としての不動産取引や価格の上昇ペースは鈍化傾向にあるなど一定の効果が出ている(図3)。一方で、現金で一括購入が可能な富裕層への効果は薄く、そのしわ寄せが実需を伴う中間層や住み替え層に及んでいるといった問題が指摘されている。このため、中銀は2軒目以降の住宅ローンに関するLTV比率の上限を60%から70%に引き上げることを決定した。さらに、2021年12月に銀行に対して住宅ローンの供与に際して義務化した、着工時期を記した書面の提出義務も撤廃した。

金融市場では、AI・半導体産業の活況を追い風に主要株価指数(加権指数)が最高値圏で推移するなど、堅調な動きが続いている。一方で、2025年後半以降の台湾ドル相場は、米国の通商政策の影響を警戒して下落したものの、2026年に入って以降は通商合意の締結、世界的なAI・半導体投資の活発化が台湾経済を押し上げる動きが確認されたことも追い風に底堅く推移している(図4)。先行きも、世界的なAI・半導体関連投資の行方に左右される展開が続くと見込まれるものの、中銀がタカ派姿勢を強めつつあることが台湾ドル相場の下支え要因となり得るであろう。

西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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