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マレーシア中銀、7会合連続で金利据え置きにより様子見姿勢を維持

~世界的なAI・半導体需要が景気を押し上げるなか、引き続き景気・物価の安定を重視~

西濵 徹

要旨
  • マレーシア中銀は9月会合で政策金利を7会合連続で2.75%に据え置いた。足元の同国経済は、世界的なAI・半導体需要を背景とする電子部品などの輸出拡大を追い風に堅調に推移する。同国は資源国である一方、国産の軽質油を輸出し、国内製油所向けに中東産の中・重質油を輸入する構造にある。このため、イラン情勢の悪化による中東からの原油供給懸念の影響を受けやすい。原油高の一服や燃料補助金を背景に7月のインフレ率は+1.8%に鈍化したが、足元では原油価格が再び上昇し、補助金負担による財政悪化が懸念される。さらに、エルニーニョ現象による食料インフレのリスクもあり、中銀は様子見姿勢を維持している。

  • 中銀は、同国経済が堅調な内需と旺盛な輸出に支えられ、2026年の成長率は約5%、2027年も底堅い成長を見込んでいる。イラン情勢の長期化などが下振れリスクとなる一方、ハイテク輸出や観光の上振れが押し上げ要因になるとした。賃金上昇の限定的な動きや政府の価格抑制策、安定した需給環境がインフレを抑えている。一方、イラン情勢による商品市況の上昇がコスト増につながるため、中銀はコスト圧力や国内需給を引き続き注視するとした。中銀は、今後も景気と物価を巡るリスクを見極めつつ、当面は様子見姿勢を維持するとした。

  • 資源純輸出国である同国では原油高がリンギの下支え要因となる一方、補助金負担による財政悪化懸念やFRBの利上げ観測に伴う米ドル高が重しとなっている。先行きもリンギ相場は方向感に乏しく、中銀にとって政策金利を据え置きやすい状況が続くと見込まれる。

目次

【原油高の再燃、異常気象の影響が懸念されるなか、中銀は7会合連続で様子見姿勢を維持】

マレーシア中央銀行は、9月3日に開催した定例の金融政策委員会において、翌日物政策金利(OPR)を7会合連続で2.75%に据え置くことを決定した。中銀は、2025年7月の定例会合において、米国の相互関税が実体経済に悪影響を与える可能性を警戒して「予防的措置」としての利下げに踏み切った。

しかし、米国との協議を経て相互関税は19%と周辺国並みとされ、対米輸出の1割強を対象外とすることで合意するなど、最悪の事態は回避された。さらに、米連邦最高裁が2月にトランプ米政権が導入した相互関税を違法とする判決を下し、直後に米国政府は相互関税を停止して代替関税を導入して実質的に関税率が引き下げられており、対米輸出のハードルは低下している。加えて、世界的なAI(人工知能)・半導体関連投資の活発化を追い風に、足元では主力の輸出財である半導体など電子部品関連を中心に輸出は堅調に推移している。

一方で、イラン情勢の悪化による原油高は、中東からのエネルギー資源輸入に依存するアジア新興国経済に悪影響を与えている。同国は東南アジア有数の資源国であり、輸出全体に占める原油・天然ガスなどエネルギー資源の割合は4割弱にのぼる。しかし、同国産原油は国際的に高値で取引される軽質油であり、国営石油公社(ペトロナス)は国内供給より輸出を優先している。国内の石油精製施設は中質油や重質油に適しており、中東産原油を輸入して精製しているため、中東情勢の緊迫化による供給懸念の影響を免れない状況にある。

米国とイランによる停戦合意を受けて原油高の動きに一服感が出たため、7月のインフレ率は前年同月比+1.8%に鈍化しており、4ヵ月ぶりの低い伸びとなった(図1)。さらに、同国では補助金によりガソリン・軽油などエネルギー価格が抑えられており、周辺のASEAN(東南アジア諸国連合)諸国に比べてインフレ率は低い伸びとなっている。しかし、イラン情勢は不透明な状況が続くとともに、原油価格は再び上昇基調を強めている。加えて、エルニーニョ現象による高温や少雨・干ばつが農業生産の低迷を招き、食料インフレにつながる懸念も高まっている。こうしたなか、中銀としては様子見姿勢の維持を図っていると考えられる。

図表1
図表1

【イラン情勢の行方は不透明だが、中銀は景気と物価を重視する姿勢をあらためて強調】

会合後に公表した声明文では、世界経済について「ハイテク関連産業の力強い拡大、供給環境の改善、安定した労働市場が堅調な成長を支えている」との見方を示している。一方で、物価動向について「足元で鈍化したが、エネルギー価格の上昇がタイムラグを伴ってインフレに反映されることを勘案すれば、高止まりが予想される」とした。先行きは「イラン情勢を巡る不透明感がインフレ圧力の持続と重なる形で景気の重しになる」としつつ、「ハイテク関連の旺盛な需要がその影響を相殺する」との見通しを示した。そして、「地政学リスクの長期化、世界的な金融引き締めの動き、金融市場のボラティリティの高さが下押しリスクとなる」とする一方、「ハイテク関連需要の拡大、サプライチェーンを巡る状況の改善、主要国の成長促進策が上振れ要因になる」とした。

同国経済については「世界情勢の厳しさにもかかわらず、内需の堅調さや想定を上回る輸出が景気をけん引している」(図2)として、「2026年通年の経済成長率は約5%に達する」、「2027年も堅調な推移が見込まれる」との見通しを示した。輸出については「世界経済の見通し改善、ハイテク関連の輸出の旺盛さ、観光客数の堅調な流入が後押し材料になる」とした。内需については「安定した雇用環境と投資活動の継続が下支えする」とした。そのうえで、先行きについて「イラン情勢の長期化や生産減少による下振れリスクがある」とする一方、「世界経済の上振れ、ハイテク関連の輸出需要の上振れ、観光活動の活発化が進めば上振れ余地が生じる可能性がある」とした。

図表2
図表2

物価動向については「コスト上昇圧力や堅調な景気があるなかでも、輸出セクターが好調であるにもかかわらず賃金上昇が限定的にとどまったこと、政府の価格抑制策、需給環境の安定がインフレ圧力を抑えている」とした。ただし、「イラン情勢の不透明感は商品市況を押し上げるなどコスト上昇圧力を招いている」として、「インフレ見通しへの影響を踏まえつつ、コスト上昇圧力や国内の需給動向を引き続き注視する必要がある」との認識を示した。

先行きの政策運営については「足元の金利水準は物価安定と景気下支えの両立に向けて適切」、先行きも「景気と物価の見通しを巡るリスクを評価しつつ動向を注視する」とする従来からの見方を維持し、現行水準での様子見姿勢を継続する考えを示している。

【リンギ相場は原油高が追い風も、FRBの利上げ観測が重しとなり、方向感の乏しい展開】

イラン情勢の悪化以降の金融市場においては、中東からの原油輸入に依存するアジア新興国通貨は軒並み調整の動きを強めた。しかし、マレーシアは原油・石油製品、天然ガスなどの純輸出国であり、原油高はマクロ面で景気の追い風になることが期待されていたため、比較的堅調な動きをみせた。とはいえ、事態が長期化するとともに、原油高を受けた補助金膨張による財政悪化懸念などが嫌気されるなど、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の脆弱化を警戒する向きもみられた。足元では、イラン情勢の不透明感が再び原油価格を押し上げる一方、FRB(米連邦準備制度理事会)による利上げ観測が米ドル相場を押し上げる動きもみられ、リンギ相場は方向感の乏しい展開をみせている(図3)。先行きについても、こうした事情がリンギ相場を左右する一方、中銀にとっては様子見姿勢を維持しやすい環境が続くと予想される。

図表3
図表3

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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