インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

インド中銀、政策委員の間で将来的な利上げ可能性の認識が広がる

~8月会合は全会一致で据え置きも、先行きの政策運営に対する見方に違いが広がる~

西濵 徹

要旨
  • イラン情勢の悪化による原油・天然ガス価格の上昇や米ドル高を背景に、エネルギー輸入への依存度が高いアジア新興国では、インフレや対外収支悪化、通貨安への懸念が強まっている。一部の中銀が金融引き締めに動くなか、インド準備銀行(RBI)は8月会合で政策金利を4会合連続で据え置き、景気への配慮から様子見姿勢を維持した。

  • インドは原油需要の約9割を輸入に依存しており、燃料価格の引き上げのほか、卸売物価の高止まり、エルニーニョによる農業生産の低迷懸念などから、今後はインフレが加速する可能性がある。さらに、ルピー安も輸入インフレを強める要因となることが懸念される。

  • 8月会合では全会一致で様子見姿勢を維持したが、内部では今後の政策を巡って意見の差もみられ、副総裁など一部委員は年度内の利上げの可能性を示唆している。イラン情勢の長期化やルピー安が続けば、RBIは景気下支えよりも物価・為替の安定を優先し、「予防的な利上げ」に踏み切る可能性があり、今後は市場の利上げ観測との駆け引きが焦点となろう。

イラン情勢の悪化をきっかけに、原油や天然ガスなどエネルギー価格が上昇したことを受けて、これらを中東からの輸入に依存するアジア新興国の間では、エネルギーインフレや対外収支の悪化が顕在化している。金融市場においては、米ドル高の動きも重なり、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の悪化を警戒した資金流出が加速するなど、通貨下落による輸入インフレがインフレ圧力を増幅させる懸念も高まった。このため、インドネシアやフィリピン、韓国といった一部の中銀は、物価と為替の安定を目的とする金融引き締めに舵を切る動きが広がりをみせている。

インドは、原油需要の約9割を輸入に依存しており、原油や天然ガスの価格上昇や供給懸念による悪影響が懸念された。さらに、通貨ルピー相場は5月下旬に一時最安値を更新するなど、輸入インフレがインフレ圧力を増幅させる懸念も高まっている。こうした状況にもかかわらず、RBI(インド準備銀行)は8月3~5日に開催した定例会合で、政策金利を4会合連続で据え置く決定を行い、様子見姿勢を維持した(注1)。背景には、足元のインフレ率が加速する動きが確認されているものの、依然としてRBIが定めた目標レンジ(4±2%)の域内で推移していることがある(図1)。これは、4月に実施された州議会選挙への悪影響を警戒して、原油価格の上昇にもかかわらず、政府はガソリンや軽油の価格を据え置き、国営石油公社が損失を吸収しつつ供給を維持したことが影響している。しかし、州議会選挙での与党勝利を受けて、政府は5月以降にガソリンや軽油の価格の段階的な引き上げを容認するなど政策転換に舵を切った。川上段階の卸売物価にはこうした政策支援の影響が及ばず、足元では10%近傍で推移するなど高止まりしている。また、エルニーニョの発生によるモンスーン(雨季)の少雨・干ばつが懸念され、肥料価格の高騰も重なり農業生産の低迷が食料インフレを招く可能性も高まっている。このため、先行きのインフレは加速感を一段と強めることも考えられる。

図表1
図表1

しかし、RBIは全会一致でデータを待つとして、様子見姿勢を維持する決定を行った。そのうえ、会合後に公表した声明文では、2026-27年度の経済成長率見通しをわずかに上方修正する一方、インフレ見通しをわずかに下方修正した。物価に対する見方も、足元の物価上昇は食料品やエネルギーによるものとする一方、価格転嫁の動きは限定的で、インフレ圧力が広範に及んでいる兆候はほとんどないとした。一方で、景気に対する見方は、足元は底堅いものの、先行きは鈍化が予想されるうえ、見通しは不透明とするなど、政策運営に当たって景気の下支えを重視している様子がうかがえた。このため、金融市場では、RBIが金融引き締めで「後手を踏む」可能性が懸念され、イラン情勢を巡る不透明感を理由とする原油価格の再上昇も重なり、ルピー安圧力が強まる動きがみられる(図2)。これを受けて、RBIは金融市場でルピー買い介入を実施した様子がうかがえるなど、難しい舵取りを迫られている。

図表2
図表2

こうしたなか、19日に公開された議事要旨では、6人の政策委員が全会一致で据え置きを決定したものの、先行きの政策運営について温度差があることが確認された。具体的には、クマール委員や(サウガタ・)バタチャリヤ委員は、不確実性が極めて大きく、現時点では様子見姿勢を維持する必要があるとの見方を示している。(インドラニル・)バタチャリヤ理事は、フォワードガイダンスよりもフレームワークガイダンス(政策対応の原則に関する説明)を重視すべきとの考えを示した。一方で、グプタ副総裁は、追加利下げの余地はなく、年度内に利上げの必要性が生じる可能性があると明確に述べるなど「タカ派」に傾斜している様子がうかがえる。マルホトラ総裁も、インフレ圧力が広範囲に波及すれば金融引き締めが必要になるとの認識を示した。イラン情勢のさらなる長期化も懸念されるうえ、6月会合後にRBI・中銀が発表したルピー下支え策にもかかわらずルピー安圧力がくすぶるなか、景気への配慮よりも物価・為替の安定を優先する「予防的利上げ」を余儀なくされる可能性もある。先行きの政策運営を巡っては、市場の利上げ観測とのにらみ合いが強まることにも注意が必要である。

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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