インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

内外経済ウォッチ『アジア・新興国~金融市場はインドネシア中銀の総裁人事に注目~』(2026年9月号)

西濵 徹

目次

インドネシア中銀のペリー前総裁が突如辞任

インドネシア政府は7月27日、中銀のペリー・ワルジヨ総裁が辞任したことを明らかにした。プラボウォ大統領は暫定総裁に上級副総裁のデストリ・ダマヤンティ氏を指名した。プラセティヨ・ハディ官房長官によれば、ペリー氏は書簡でプラボウォ大統領に辞意を伝えたと説明したものの、個人的な理由で辞任したと詳細に関する言及を控えた。ペリー氏は、中銀で30年以上のキャリアを積み、2007年から2009年まではIMFに出向し、2013年に副総裁、2018年に総裁に就任するなど、中銀業務に精通している。その後、2023年に総裁に再任されて2期目に入り、安定した政策運営により金融市場から高い信認を得てきたものの、任期満了まで2年弱を残して突然辞任した。

中銀を巡って懸念される「政治介入」の動き

中銀では1月、副総裁であったジュダ・アグン氏が任期満了まで1年余りを残して突如辞任し、後任にプラボウォ大統領の甥(姉の長男)で財務副大臣を務めていたトマス・ジワンドノ氏が就任した。トマス氏は、プラボウォ氏の甥であるうえ、最大与党・グリンドラ党の財務担当を務めていたため、金融政策が政府に加え、グリンドラ党の意向を反映したものとなる懸念が高まった。背景には、プラボウォ氏が自身の任期中に同国の経済成長率を8%に引き上げる目標を掲げていることがある。経済成長のけん引役である個人消費など内需喚起を目的に一段の金融緩和を迫られるとの見方が広がった。

中銀の独立性を揺るがす制度変更の動きも

中銀ではここ数年、その独立性への疑念が強まっている。2022年に成立した改正中銀法では、中銀の政策目標に、従来からの物価とルピア相場の安定に加え、経済成長の支援が追加された。さらに、大統領が危機的事態を宣言した際は、中銀が政府から国債の直接購入を認める「財政ファイナンス」も可能となった。6月に成立した金融システムの監督・規制を規定する金融部門発展強化法(P2SK法)では、中銀の政策目標に経済成長と雇用創出の支援が追加され、国会が中銀に勧告を行うことが可能となった。加えて、中銀の理事会メンバーの解任も可能となり、中銀に対する政治介入が懸念されている。

金融市場の関心は次期総裁人事の行方に

金融市場の関心は次期総裁人事に移っている。こうしたなか、大統領府は8月10日に暫定総裁であるデストリ氏を次期総裁の単独候補に指名したことを明らかにした。同氏は、中銀と金融市場で豊富な経験を有し、ペリー氏の下で通貨安定の必要性を強調したため、政策の連続性が期待される。一方で、ペリー氏とプルバヤ財務相の対立が突然の辞任劇に影響したとの見方もある。そのため、デストリ氏は政府と共同歩調を意識した政策運営を志向すると見込まれる。

「格下げ」懸念のなかでインドネシアはどうなる

年明け以降の金融市場では、インドネシア資産に対する「格下げ」が意識されている。株式市場では、指数算出会社の3社(MSCI、FTSEラッセル、S&Pダウ・ジョーンズ・インデックス)がフロンティア市場への格下げの可能性を含めた審査を実施している。大手格付機関2社(ムーディーズ、フィッチ)も格付け見通しをネガティブに引き下げるなど、将来的な格下げの可能性を示唆している。この結果、年明け以降の主要株価指数(ジャカルタ総合指数)やルピア相場は調整の動きを強め、ルピア相場は6月に対ドルで最安値を更新するなど、資金流出圧力に直面した。デストリ氏の下で中銀が拙速な利下げや財政ファイナンスに舵を切れば、資金流出圧力が強まる可能性もあり、市場の評価が下されるのは「これから」であろう。

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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