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2026.08.31
アジア経済
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中国の企業マインドは内需の弱さを反映して非製造業で低迷が続く
~異常気象の影響はあるが、家計部門を取り巻く環境は一段と厳しさを増している~
西濵 徹
- 要旨
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- 中国経済は、ハイテク関連を中心とする外需や生産の拡大が景気を支える一方、不動産不況や雇用回復の遅れを背景に内需の弱さが続いている。政府・共産党は「消費拡大の5ヵ年計画」やインフラ投資の進捗加速、中小・零細企業や消費者向け融資への利子補給拡充などを通じて景気下支えを強化している。ただし、過去の大規模対策が地方政府の隠れ債務などの問題を残したことに加え、商品価格上昇によるインフレ懸念もあり、大規模な財政・金融刺激策には慎重な姿勢を維持している。
- 8月の製造業PMIは49.8と2ヵ月連続で50を下回ったものの、生産や新規受注、輸出向け新規受注は50を上回り、供給サイドの拡大継続を示唆した。一方、雇用は悪化し、原材料価格や出荷価格は上昇しており、雇用不安と物価上昇が家計の実質購買力を圧迫する懸念が強まっている。加えて、米国やEUとの通商摩擦が激化しており、景気を支える外需を取り巻く環境も厳しさを増している。
- 非製造業PMIも49.0と低迷し、建設業や小売・卸売などを中心に企業マインドは弱い。新規受注や雇用も低調で、投入価格が上昇する一方、需要の弱さから販売価格への転嫁は十分に進まず、内需低迷からの脱却は容易ではない。
- 金融市場では米ドル安を背景に人民元高が緩やかに進んでいる。ただし、中国景気が外需への依存を強めるなか、急速な人民元高は輸出競争力を損なうため、中銀は基準値設定などを通じて人民元高をけん制している。今後も、「供給主導の景気拡大」と「内需の弱さ」が併存するなか、政府は小刻みな景気支援を続けるものの、大規模刺激策には慎重な姿勢を維持する公算が大きい。
- 目次
【中国政府、共産党は景気下支えに舵も、大規模対策には慎重姿勢が続いている】
足元の中国経済を巡っては、供給サイドをけん引役に拡大が続いている。一方の需要サイドについては、ハイテク関連を中心とする外需は堅調な動きをみせるものの、不動産不況の長期化や雇用回復の遅れが個人消費など内需の足を引っ張っている。こうしたなか、国務院は7月、同国で初めて個人消費に焦点を当てた「消費拡大の5ヵ年計画」を公表した。同計画では、2030年の小売売上高(社会消費品小売総額)の規模を2025年(50.1兆元)に比べて2割増の「60兆元前後」に引き上げる方針を掲げた。その実現に向け、消費構造の高度化や家計所得の引き上げを目指すとした。
さらに、共産党は7月末に開催した中央政治局会議において、中国経済が直面する困難と課題を認め、景気減速を認識する姿勢を示した。そして、景気減速への対応を目的に、インフラ関連を中心とする財政支出の進捗加速を図る方針を示した。2026年上半期の国債発行額と歳出は当初計画を下回っており、下半期には歳出の拡大余地がある。このため、2026年度予算に計上済みのインフラ投資を対象とする財政支出の加速を通じて景気下支えを図る方針を示したと捉えられる。なお、具体的なプロジェクトとしては、2030年の完成に向けて総額26兆元を上回る投資につながると試算される六張網(電力、水利、通信、コンピューティング、物流、地下配管)が想定される。
加えて、中国財政部は8月21日、足元の経済状況を踏まえ、追加的な財政政策措置を適時検討・実施する方針を明らかにした。また、財政部・中銀(中国人民銀行)・国家金融監督管理総局は、17日付で内需促進を目的とする新たな財政・金融支援策を発表した。具体的には、中小・零細民間企業や消費者向け融資に対する利子補給を拡充する。中小・零細民間企業向け融資については、最大2年間を対象に年1%ポイント分の利子を補給する。消費者向けについては、利子補給の対象をクレジットカードの特定用途・消費・キャッシングの分割払いにも広げ、同様に年1%ポイント分を補助する。また、取り扱い金融機関を拡大するとともに、中小・零細民間企業については利子補給の対象となる融資額の上限を、消費者については利子補給額の上限をそれぞれ引き上げる。このため、一連の施策により、短期的に個人消費を幾分下支えすることが期待される。
一方で、中銀は、適度に緩和的な金融スタンスを維持し、必要に応じて実効性のある追加措置を打ち出す方針を明らかにした。しかし、イラン情勢の悪化を受けた原油など商品市況の上昇に伴い、足元ではGDPデフレーターがプラスに転じるなど、マクロ的にはデフレ圧力が後退する兆しもみられる。このため、追加的な金融緩和はインフレ圧力を強める可能性があり、イラン情勢の不透明さやエルニーニョ現象によるインフレ懸念も重なり、そのハードルは高まっている。中銀にとって大規模な金融緩和に踏み切る余地は狭まりつつある。政府・中銀が大規模な景気刺激策に慎重な姿勢を示すのは、過去に実施された大規模対策の背後で、地方政府の隠れ債務など「負の遺産」が膨張したことがあるためである。内需の立て直しには、長期にわたる取り組みが必要になるであろう。
【製造業は生産拡大の一方、雇用調整と物価上昇を示唆するなど内需の環境は厳しい】
このように、需要サイドでは外需への依存が強まるなか、トランプ米政権は7月、通商法122条に基づく10%の暫定関税が期限を迎えるなか、通商法301条に基づく新たな追加関税を発動した。新関税では、強制労働によって生産された製品の輸入禁止措置が不十分であることを理由に、中国製品に原則12.5%の追加関税を課した。さらに、一部報道によれば、米国は中国の過剰生産能力問題を理由に、中国製品に対して7.5%の追加関税を課すことを検討しているとされる。中国の過剰生産能力を巡っては、EU(欧州連合)も批判を強めている。一方、中国当局もEUの一部企業・団体を輸出管理リストに加えるなど、通商面での対立が強まっている。中国当局は、こうした措置を国家の安全と利益を守るためとしているものの、その背後で景気を支える外需を取り巻く環境は厳しさを増している。
国家統計局が公表した8月の製造業PMI(購買担当者景況感)は49.8となり、前月(49.2)から+0.6pt上昇するも、2ヵ月連続で好不況の分かれ目となる50を下回る水準にとどまった(図1)。足元の生産動向を示す「生産(50.4)」は前月比+0.5pt上昇して2ヵ月ぶりに50を上回る水準を回復しており、生産拡大の動きが確認されている。さらに、先行きの生産を左右する「新規受注(50.6)」は前月比+2.1pt上昇しているほか、「輸出向け新規受注(50.1)」も同+0.5pt上昇してともに2ヵ月ぶりに50を上回る水準を回復しており、生産拡大の動きが続く可能性を示唆している。

こうした動きを反映して「購買量(50.5)」は前月比+1.1pt上昇して2ヵ月ぶりに50を上回るなど、原材料の調達が活発化しているものの、「輸入(48.6)」は同+1.1pt上昇するも50を下回る水準にとどまり、中国国内における生産拡大の動きが周辺国の輸出を押し上げる構造は弱まっている。さらに、生産拡大の動きがみられるにもかかわらず「雇用(48.7)」は前月比▲0.3pt低下するなど雇用調整圧力が強まっている。加えて、原油などの商品市況の上昇を反映して「購買価格(56.6)」は前月比+3.4pt上昇し、「出荷価格(50.4)」も同+2.6pt上昇するなど価格転嫁の動きが広がりつつある。このため、雇用調整圧力が強まっているにもかかわらず、物価上昇圧力に直面するなど実質購買力に下押し圧力が懸念される。家計部門を取り巻く環境は厳しく、内需の回復は見通しにくい状況にある。
【非製造業のマインドは弱含む展開、内需低迷からの脱却の難しさを示唆している】
非製造業の企業マインドは製造業に比べて堅調な動きをみせてきたものの、8月は49.0と前月(49.0)から横ばいで推移しており、2ヵ月連続で50を下回る水準にとどまる(図2)。業種別では、「建設業(46.9)」は前月比▲0.1pt低下しており、前述した当局によるインフラ投資の進捗促進の号令にもかかわらず、一部の地域で豪雨や台風など異常気象が頻発した影響で進捗が鈍化したことが足かせとなっている。「サービス業(49.3)」も前月比±0.0ptと横ばいで推移しており、物流関連、電気通信関連、ソフトウェア関連、IT関連で堅調な動きが続く一方、小売・卸売関連、資本市場関連は対照的に弱含む展開が続いている。先行きのマインドを左右する「新規受注(44.1)」は前月比▲0.3pt、「輸出向け新規受注(47.0)」は同±0.0ptと国内外の受注動向は低迷している。

前述のように、製造業において原材料価格の上昇を製品価格に転嫁する動きが広がりをみせていることを反映して、非製造業においても「投入価格(51.1)」は前月比+1.4pt上昇して3ヵ月ぶりに50を上回る水準に回復している。こうした動きも追い風に「出荷価格(49.3)」も前月比+1.4pt上昇しているものの、引き続き50を下回る水準で推移しており、内需の弱さが製品価格への転嫁を難しくしている。さらに、企業マインドの低迷が足かせとなる形で「雇用(45.4)」は前月比±0.0ptと横ばいで推移しており、幅広い分野で雇用が増えにくい状況が続いている。こうした状況は、雇用不安が払しょくできない状況が続いているにもかかわらず、家計部門は物価上昇に直面しており、内需の低迷状態からの脱却の難しさを示唆している。
【金融市場では緩やかな人民元高が続くが、先行きは「けん制」の動きが強まる可能性も】
足元の企業マインドからは、内需を中心とする需要サイドの弱さがあらためて確認される一方、生産拡大の動きがみられるなど、供給サイドをけん引役とする景気拡大が続く可能性が示唆されている。こうしたなか、前述のように中銀が適度に緩和的な金融スタンスを維持する方針を示しているため、金融市場では追加金融緩和観測がくすぶっている。
その一方、人民元相場は、米ドル安の動きを追い風に緩やかな上昇が続いている(図3)。ただし、足元の中国景気は外需への依存を強めており、急速な人民元高は輸出競争力の低下を通じて外需の足を引っ張ることが懸念される。このため、中銀は基準値の設定などを通じて一方向的な人民元高をけん制する姿勢をみせている。先行きについても、人民元高の進行局面では中銀によるけん制の動きが一段と強まる可能性があり、そうした政策対応によって人民元相場が揺さぶられることには注意が必要であろう。

西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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