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トルコ、内需低迷はディスインフレを示唆も、金融政策の舵取りは難しい

~イラン情勢とウクライナ戦争による価格・供給懸念、異常気象による悪影響にも要注意~

西濵 徹

要旨
  • トルコでは、イラン情勢の悪化に伴う原油高や供給懸念、リラ安が物価上昇圧力となっている。インフレ率は2024年半ばをピークに鈍化してきたものの、中銀目標を大幅に上回る状況が続く。米国とイランの停戦合意を受けて7月のインフレ率は前年比+31.75%まで鈍化したが、原油価格の高止まりに加え、ロシア国内のガソリン不足や「影の船団」への攻撃激化による供給懸念もあり、先行きはインフレが高止まりする可能性がある。このため、中銀はインフレ見通しを引き上げるなど、金融政策運営の難しさが増している。

  • 一方、4-6月期の実質GDP成長率は前期比年率+4.55%と加速したものの、前年同期比では+2.3%と6年ぶりの低い伸びとなり、景気の基調は弱い。EU景気の持ち直しを背景に財輸出は拡大したものの、インフレ高止まりによる実質購買力の低下から個人消費は減少し、設備投資も低迷した。輸入減や在庫投資が成長率を押し上げた面が大きく、景気の実態はGDPの数字ほど強くない可能性がある。生産面でも、製造業や農林漁業が下支えする一方、建設業や金融、不動産、小売などは力強さを欠いている。

  • こうした内需の弱さやコアインフレ率の鈍化はディスインフレの進展を示唆するが、エネルギー価格や供給制約によるインフレ圧力は根強い。さらに、強力なエルニーニョ現象による干ばつや洪水、森林火災、肥料価格の高止まりが農業生産を下押しし、食料インフレを強める可能性もある。今後、ヘッドラインとコアのインフレ率の乖離が拡大すれば、中銀の金融政策運営は一段と難しくなり、トルコ経済の先行き不透明感も強まると考えられる。

目次

【インフレは鈍化するも、原油高や供給懸念、リラ安で高止まりが続く可能性】

イラン情勢の悪化による原油高は、トルコの物価を取り巻く環境を変化させている。トルコは原油や天然ガスなどエネルギー資源を輸入に依存しており、原油高は、エネルギー価格の上昇に加え、輸入額の増加を通じて対外収支の悪化を引き起こすことが懸念される。金融市場においては、対外収支の悪化を警戒したリラ安の動きが続いており、足元の対ドル相場は1年前に比べて約15%下落するなど輸入物価を押し上げる展開が続いている(図1)。さらに、政府は高止まりするインフレによる国民生活への影響を軽減するべく、1月から最低賃金を27%引き上げており、インフレが高止まりすることも懸念された。

図表
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インフレ率は2024年半ばをピークに鈍化してきたものの、中銀目標(5%)を大きく上回る推移が続いている。こうしたなか、イラン情勢の悪化による原油高を受けて、3月を底にインフレ率は加速に転じるなど物価を取り巻く環境は変化している。このため、中銀は2025年7月に利下げに舵を切るとともに、その後も断続的な利下げを実施してきたものの、2026年3月に利下げ局面を休止したほか、7月会合でも4会合連続で金利を据え置くなど様子見姿勢をみせた(注1)。その後は米国とイランの停戦合意を受けて原油高の動きに一服感が出たことで、インフレ率は再び鈍化に転じており、7月は前年比+31.75%と5ヵ月ぶりの低い伸びとなっている(図2)。しかし、イラン情勢は不透明な状況が続いており、原油価格も高止まりしている。さらに、ウクライナによるドローン攻撃の激化でロシア国内のガソリン不足が深刻化しているほか、いわゆる「影の船団」への攻撃激化も重なり、これらに依存しているトルコでは原油や石油製品の供給懸念が高まっている。このため、先行きのインフレ率は高止まりする可能性があり、中銀はインフレ見通しを引き上げるなど難しい舵取りを迫られている。

図表
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【4-6月GDPは前期比年率+4.55%に加速するも、実態は数字と乖離している可能性】

インフレが引き続き高水準で推移するなか、最低賃金は大幅に引き上げられたものの、実質賃金はマイナス基調で推移しており、家計部門を取り巻く環境は厳しい状況が続いている。こうした状況にもかかわらず、4-6月の実質GDP成長率は前期比年率+4.55%と前期(同+1.24%)から加速して4四半期ぶりの高い伸びとなるなど、堅調な動きが確認された(図3)。中期的な基調を示す前年同期比ベースの成長率は+2.3%と前期(同+2.6%)から鈍化しており、過去4四半期連続で伸びが鈍化するとともに、コロナ禍の影響が直撃した2020年4-6月以来6年ぶりの低い伸びとなっている。このため、足元のトルコ景気は勢いを欠く推移が続いている。

図表
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需要項目別の動きをみると、前期まで2四半期連続のマイナスで推移した輸出は3四半期ぶりの拡大に転じており、外国人来訪者数は減少基調で推移するなどサービス輸出は下振れしているものの、輸出の半分近くを占めるEU(欧州連合)景気の持ち直しも追い風にした財輸出拡大の動きが外需を押し上げている。しかし、インフレの高止まりによる実質購買力の下押しが足かせとなる形で個人消費は2四半期連続で減少しているほか、企業部門による設備投資の低迷は固定資本投資の重石となるなど、内需は力強さを欠いている。そして、内需の弱さを反映して輸入は2四半期連続のマイナスで推移しており、輸入減による成長率寄与度は前期比年率ベースで+1.17ptとプラスとなっている。さらに、在庫投資による成長率寄与度も大幅プラスになったと試算されることを勘案すれば、景気の実態はGDPの数字が示すほど強くない可能性に注意する必要がある。

分野ごとの生産動向については、輸出の堅調さを反映して製造業の生産が3四半期ぶりの拡大に転じたほか、農林漁業関連の生産の堅調さも足元の景気を下支えしている。一方で、設備投資の弱さや公共投資の進捗低迷が足かせとなり、建設業の生産は3四半期連続のマイナスで推移している。サービス業のうち、電気通信関連など一部の業種では堅調な動きがみられるものの、金融、不動産関連は鈍化しているほか、個人消費の弱さは小売・卸売関連の重しとなり、サービス業全体の生産は力強さを欠く。このため、トルコ経済を取り巻く環境は厳しさを増している。

【内需の弱さはディスインフレを示唆も、供給懸念が金融政策の舵取りを困難にするか】

内需が弱含む動きが確認されたことは、ディスインフレ基調を示唆している可能性がある。さらに、コアインフレ率は、インフレ率を下回る伸びで推移しており、基調としてディスインフレが進んでいることは間違いない。しかし、足元ではイラン情勢の不透明感を理由に原油価格が高止まりしているほか、ウクライナ戦争を巡る動きが原油・石油製品の供給懸念を招いており、トルコにとっては供給要因によるインフレ圧力が強まる可能性が高まっている。

加えて、2026年は強力なエルニーニョ現象の発生が予想されており、トルコでは高温・乾燥による森林火災リスクの増大が懸念されるほか、干ばつや、地域によっては洪水が農業生産に悪影響を与える可能性が指摘されている。イラン情勢の悪化以降、化学肥料の価格が高止まりしていることも重なり、農業生産が減少することで食料インフレ圧力が高まることも考えられる。このため、ヘッドラインのインフレ率とコアインフレ率の乖離が進むことで、中銀の政策運営の舵取りが難しさを増すとともに、先行きのトルコ経済の不透明要因となる可能性にも注意が必要である。

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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