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2026.07.22
日本経済
景気全般
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貿易指標(日本)
イラン情勢
進む代替調達、膨らむ輸入コスト(2026年6月貿易統計)
~供給面での下振れリスクは大きく低下も、価格面の負担は残る~
新家 義貴
- 要旨
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6月は、米国を中心とする中東外からの代替調達が本格化し、原油輸入数量が前月から大幅に回復した。ナフサ等でも調達先の多角化が進み、供給不安は和らいだ。中東向け自動車輸出も4、5月の大幅な落ち込みから持ち直しており、輸出入とも当初の物流混乱は最悪期を脱しつつある。
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一方、代替調達には輸送費、保険料、スポット調達プレミアムなどの追加負担が伴う。高価格下で輸入数量が戻った結果、輸入金額が膨らみ、貿易赤字の拡大につながった。
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中東情勢による日本経済への悪影響は、原油や原料を確保できないという数量面の問題から、輸入物価上昇、企業収益の圧迫、川下への価格転嫁、家計の実質購買力低下という価格面の問題へ移りつつある。供給制約の緩和は朗報だが、価格面の影響はむしろこれから本格化する可能性がある。
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供給制約の緩和の持続性についても注意が必要。米国とイランの合意後も戦闘が再開するなど、中東情勢は再び不安定化している。代替調達の進展や備蓄の存在により、当面の国内供給に大きな支障は生じないと思われるが、事態が長期化すれば供給不安が再燃するリスクがある。
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1. 代替調達が大きく進展。供給面の不安がやわらぐ
本日公表された2026年6月の貿易統計では、中東情勢の悪化を受けて大幅に落ち込んでいた原油輸入数量が急速に持ち直した。米国を中心とする中東以外からの代替調達分が本格的に日本へ到着し始めたことが確認できる。原油以外のナフサ等でも中東外からの調達拡大がみられ、資源供給を巡る最悪期は脱しつつある。製油所の操業や石油製品、石油化学製品の供給に対する不安は、ひとまず後退したとみられる。
一方、価格が高止まりするなかで輸入数量が戻ったことで、輸入金額は大幅に増加した。中東情勢の影響は、資源を「確保できない」という数量面の問題から、「高いコストで確保せざるを得ない」という価格面の問題へと重心を移しつつある。
2. 中東以外からの代替調達が急拡大
6月の原油及び粗油の輸入数量は前年比▲13.7%となった。依然として二桁のマイナスだが、4月の同▲63.7%、5月の同▲57.3%といった極端な低水準からは明確に持ち直した。季節調整値(筆者試算)でも前月比+89.2%と急増し、水準でみても危機前の8割程度まで回復した。中東情勢の悪化後に契約された代替調達分が、6月にまとまって到着したとみられる。
調達先別では、米国からの原油輸入が前年比約5.6倍に増加した。5月の水準と比べても約5倍であり、世界全体の原油輸入に占める米国の比率は3割程度まで高まった。危機前には米国産原油の比率が小さかったことを踏まえると、6月は日本の原油調達構造が短期間で大きく変化した月といえる。政府や民間企業が進めてきた代替調達が、契約段階から実際の入着段階へ移ったことが数字の上でも示された。

ナフサについても、調達先の変化がみられた。揮発油(ナフサが含まれる)の輸入数量は140.2万kl、前年比▲31.4%と低水準だったが、米国からは31.6万kl、同+152.8%、EUからは10.3万kl、約30倍、ASEANからは11.7万kl、約10.6倍に増加した。一方、中東からの輸入は大幅な減少が続いた。速報の「揮発油」にはガソリンとナフサの双方が含まれるため、ナフサ単独の動きを断定することはできないが、ナフサでも中東外への調達先シフトが進んだことが示唆される。
原油やナフサ等の石油製品の代替調達が進んだことで、数量面での供給不安は和らいだ。これにより、製油所の操業や石油製品の供給、物流への制約が緩和されるほか、石油化学製品の生産停滞や川下製品の供給不足に対するリスクも低下するとみられる。6月の貿易統計は、中東情勢の悪化によって生じた供給制約が、代替調達によって徐々に解消に向かっていることを示したと評価できる。
また、6月の貿易統計では中東向け輸出が最悪期を脱したことも示された。6月の中東向け自動車輸出は、数量で前年比▲44.7%、金額で同▲24.1%と前年をなお下回ったものの、5月の数量同▲82.0%、金額同▲70.0%からは大幅に改善した。季節調整値(筆者試算)でみても中東向け自動車輸出台数は前月の約3倍に増加している。急減前と比べるとまだ5割強の水準にとどまるが、少なくとも当初の混乱状態は脱したとみられる。

3. 残るコスト負担
このように、6月の貿易統計では代替調達の進展が示され、供給不安の和らぎが確認できた。日本経済の今後を考える上で前向きに受け止められる結果である。
もっとも、数量面の改善には相応のコストが伴うことには注意したい。米国や中南米、アフリカからの調達は、中東からの輸入に比べて航海日数が長く、タンカーの運航コスト、燃料費、海上保険料がかさみやすい。加えて、緊急時には長期契約よりもスポット調達の比率が高まるため、価格条件も不利になりやすい。調達先を分散することによって数量面のリスクは低下する一方、輸送費や調達プレミアムを含めた実質的な輸入コストは上昇する。このため、代替調達の進展をそのまま「問題解消」とみることはできない。
また、原油は産地によって硫黄分や粘度などの性状が異なるため、調達先を変更すると、ガソリン、軽油、ナフサなどの各製品を生産できる割合も変わり得る。国内製油所では、原油の配合や精製工程の調整が必要になる可能性があり、代替調達には数量確保や輸送費だけでは捉えきれない負担も伴う。
こうした代替調達が本格化するなか、6月の輸入金額は前年比+25.4%と大幅に増加し、輸出金額の同+19.3%を上回った。この結果、貿易収支は4069億円の赤字となった。特に原油及び粗油の輸入金額は前年比+59.3%に達し、輸入全体の伸びを4.3%ポイント押し上げた。
5月までは、原油価格が大きく上昇する一方で輸入数量が急減していたため、輸入金額の膨張は一定程度抑えられていた。しかし6月は、高い価格水準が続くなかで原油輸入数量が大きく回復した。前回レポートで指摘した「価格が高止まりしたまま数量が戻れば、名目輸入額が膨らみ、貿易赤字が拡大する」というリスクが、実際に表れ始めた形である。

特に米国からの原油輸入は、数量が前年比約5.6倍となったのに対し、金額は約10.1倍に増加した。油種や取引条件などが異なるため、数量と金額の伸びの差をすべて代替調達コストによるものとみなすことはできないが、国際原油価格の上昇に加え、輸送距離の長期化や海上保険料、スポット調達に伴うプレミアムなどが、輸入コストを押し上げた可能性があるだろう。
また、供給量が回復しても、既往のコスト上昇の影響が直ちに解消するわけではない。ナフサは石油化学製品の基礎原料であり、その価格上昇は、合成樹脂、包装容器、フィルム、塗料、接着剤、日用品など幅広い川下製品に波及する。4~6月には、ナフサ価格の急騰や石油化学原料の供給制約を受け、樹脂やプラスチック製品への価格転嫁が進んだ。
6月の代替調達拡大によって原材料不足への懸念は後退したものの、企業や地域による調達状況の違い、物流の混乱、予防的な過剰発注などによる局所的な不足は残る可能性がある。また、原料価格の上昇から製品価格の改定までには時間差があるため、供給量の回復が直ちに川下価格の低下につながるわけではない。これまでに生じたコスト上昇分は、今後も石油製品、化学製品、プラスチック製品、物流費などを通じて価格転嫁されると考えられる。
このように、中東情勢による日本経済への悪影響は、原油や原料を確保できないという数量面の問題から、輸入物価上昇、企業収益の圧迫、川下への価格転嫁、家計の実質購買力低下という価格面の問題へ移りつつある。供給制約の緩和は大きな朗報だが、価格面の影響はむしろこれから本格化する可能性がある。
4. 中東情勢にも不透明感
供給制約の緩和の持続性についても慎重にみる必要がある。米国とイランの合意後も戦闘が再開するなど、中東情勢は再び不安定化している。代替調達の進展や備蓄の存在により、当面の国内供給に大きな支障は生じないと思われるが、事態が長期化すれば状況は変わり得る。米国とイランの戦闘状態が続き、ホルムズ海峡の安全な通航に支障が生じる状態が長引けば、代替調達や備蓄での対応にも限界が生じる。その場合、再び供給不安が強まり、数量不足と価格高騰が同時に進むおそれがある。
すでに米国などからの代替調達を大幅に拡大している状況では、情勢が一段と悪化した場合に、追加的な調達をどこまで積み増せるかも不透明である。世界各国が同時に中東外原油の確保に動けば、日本が必要量を確保するためのコストは一段と高まる可能性がある。調達先の分散によって供給途絶への耐久力は高まったものの、中東からの供給が長期にわたって途絶しても影響を受けない体制が構築されたわけではない。
総じてみれば、6月の貿易統計は、原油やナフサの代替調達が本格化し、数量面の供給制約が緩和に向かっていることを示した。中東向け輸出についても、当初の物流混乱を脱し、最悪期を越えつつある。日本経済の供給面からの下振れリスクを低下させる結果であり、前向きに受け止めて良いだろう。
一方、供給を確保するための高いコストが輸入金額を押し上げ、貿易収支には下押し圧力が生じている。4、5月は原油輸入数量の落ち込みが輸入金額を抑えていたが、6月は高価格が続くなかで数量が回復したため、輸入金額が膨らみ、貿易赤字の拡大につながった。既往の原油・ナフサ価格上昇が川下製品や消費者物価へ波及する影響も今後残るとみられる。今後は、原油輸入数量だけでなく、入着価格、輸入金額、貿易収支の動きをあわせて確認していく必要がある。
新家 義貴
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。