トランプ関税ウォッチング トランプ関税ウォッチング

FRBがタスクフォースの責任者を発表

~ルールから裁量、サイエンスからアート~

前田 和馬

7月9日、FRBは政策運営方針の改革を見据えた5つのタスクフォースに関して、それぞれの責任者と目的を公表した。声明では「FRBスタッフの支援を受け、タスクフォースは独立して活動し、証拠に基づいて判断し、率直な意見を提供し、FOMCのために厳密な分析結果を取りまとめることを任務とする」と述べられた。

まず、①コミュニケーションでは「不確実な状況下で、政策審議や決定をどのように伝達するか検証」することを目指す。3人の責任者のうち2人は中銀総裁経験者であり(フラガ元ブラジル中銀総裁とキング元BOE総裁)、もう一人のフィッシャー氏もNY連銀や大手資産運用会社での勤務経験を持つ。キング氏とフィッシャー氏は、将来の金利パスを示すようなフォワード・ガイダンスに否定的であり、中銀は「政策反応関数の説明に重点を置くべき」とのスタンスを持つとみられる。また、フラガ氏は新興国中銀を想定した2003年の論文で「中銀が供給ショックに対処するために用いる時間軸に魔法の数値はない」と述べるなど、テイラールールなどの厳密な政策反応関数ではなく、より柔軟な(裁量的な)反応関数を採用すべきとの考えを示していた。

次に、②バランスシート政策は「バランスシート制度のコスト、メリット、および制度上の影響を検証」する。責任者の3名はFRB理事を経験したスタイン氏やインド中銀総裁を務めたラジャン氏など実務経験豊富なメンバーが揃っている。ラジャン氏やスタイン氏は過去の論文にてバランスシート拡大政策の副作用を指摘してきたものの、急進的なバランスシート縮小を提言する可能性は低いとみられる。仮に量的緩和(QE)の副作用を強調する内容がまとめられる場合、それは現行の政策方針を大幅に変えうるものではなく、「将来の危機時を見据えた論点整理」としての位置づけが強いかもしれない。

③データ活用では「政策判断の根拠となる、実体経済指標の質と適時性を向上」することを目的とする。公的統計を補完するものとして民間データ等の活用を検討するとみられる。責任者にはデータ分析を専門とする経済学者に加えて、米大手小売業の元CEOがメンバーに入ったのが特徴的だ。なお、同タスクフォースはこれ自身が政策的な意味合いを持つものではなく、コミュニケーションやインフレ枠組みの新たな方針に移行するうえで、その実効性を補完する役割を持つ可能性が高い。より裁量的かつアートに近い金融政策運営を行う上では、政策判断を正当化しうる多様なデータが必要となる。

④生産性と雇用では「AI等の新たな汎用技術の経済的影響を評価し、政策判断に反映」する。責任者は3名共にAI開発の最前線に近い立場にあるなど、経済学者や元セントラルバンカーが中心となる他のタスクフォースと比べて毛色が異なる。AI普及による短期かつ中長期的な経済影響を整理するとみられるものの、先行きを考えるうえで経済学(サイエンス)に基づく厳密な分析には限界があるだろう。このため、将来の不確実性を踏まえて複数のシナリオを想定するなど、総合的な判断を見据えた「アート」としての要素が相対的に強いかもしれない。

最後に、⑤インフレ枠組みでは「インフレの要因をどのように理解し、対応しているかを再検討」することを目指す。責任者は著名マクロ経済学者のマンキュー氏、ノーベル経済学賞を受賞したサージェント氏、BISビュー(注1)で知られるホワイト氏の3名だ。過去の主張を踏まえると、総じてインフレ目標をやや柔軟に捉えるべきとの主張がみられる。マンキュー氏は2022年に「インフレ率が2.5%に戻れば、インフレ勝利宣言の準備をすべき」と述べるなど、インフレ目標は厳密な「2.0%」ではなく「四捨五入を含めた2%」が望ましいとの考えを示していた。また、ホワイト氏も従来から物価目標に固執しすぎるのではなく、金融システムの安定も重視すべきとの考えを持っている。

図表
図表

【注釈】

  1. BISビューは物価安定のみならず、資産バブルを防止するなど、金融システムの安定にも配慮しながら金融政策を運営すべきとの考え方。一方、元FRB議長のグリーンスパン氏はバブルを事前に見極めるのは難しく、それを防止しようとすると経済への副作用が大きすぎるため、事後的な対応を優先する姿勢を示した(所謂「FEDビュー」)。
以 上

前田 和馬


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

前田 和馬

まえだ かずま

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 米国経済、世界経済、経済構造分析

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ