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2026.07.01
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インドネシア、前教育相に有罪判決、市場はガバナンス懸念を強めるか
~ナディム氏は控訴へ、裁判の政治性を巡る議論が市場の信認を左右する可能性も~
西濵 徹
- 要旨
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インドネシアのジャカルタ汚職裁判所は、学校向けノートPC調達を巡る汚職事件でナディム前教育・文化・研究・技術相に有罪判決を言い渡したが、同氏は無実を主張して控訴する方針を示しており、裁判は上級審に持ち越されることとなった。
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同氏はゴジェック創業者として教育改革と学校のデジタル化を推進した一方、改革の急進性や教育現場の混乱、既得権益層との対立が後の告発・起訴につながったとの見方もある。
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検察は、グーグル社製のクロームブックの導入による国家損失やグーグル社によるGoTo社への出資を念頭に置いた機種選定を問題視した。しかし、グーグル社は不正を否定している。起訴には政治的動機のほか、政策判断と汚職を混同しているとの批判も出ている。
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裁判所は職権濫用と国家損失を認定して有罪判決を下した一方、私的利益の取得は認めなかったにもかかわらず、多額の返還命令を科す異例の判断を示した。
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年明け以降のインドネシアでは、ガバナンスへの懸念を理由に金融市場の不信感が強まっており、この裁判に政治的動機があるとの見方が事実であれば、市場の信認低下や資本流出につながる可能性がある。
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インドネシアでは、ある裁判の行方に注目が集まっている。首都ジャカルタの汚職裁判所は6月30日、ジョコ前政権で教育・文化・研究・技術相を務めたナディム・カリム氏に禁錮10年、罰金10億ルピアの有罪判決を言い渡した。その理由として、同氏が主導した学校向けのノートPCの調達に絡んで国に巨額の損害を与えたことを挙げた。そのうえで、裁判所は同氏が一連の取引で得たと認定した8,000億ルピア以上の返還を命じるとともに、仮に返還に応じなければ禁錮刑をさらに5年科すとした。同氏は裁判で一貫して起訴内容を否定し、無実を主張し、国内外の学者などから支持を集めた。また、訴追そのものに政治的動機があると指摘する向きもある。判決を受けて、同氏は控訴する意向を示しており、裁判は上級審に移ることになる。
同氏は、配車大手ゴジェックの創業者であり、配車サービスの爆発的普及を背景に、同社を同国初の「デカコーン(時価総額100億ドル超の未上場企業)」に成長させた。その手腕を買われ、2019年にジョコ前大統領に請われる形で同社CEO(最高経営責任者)を退任し、教育・文化・研究・技術相に就任した経緯がある。同氏は、従来の詰込み型教育から創造性の醸成を目指すカリキュラムへの変更など抜本的な教育改革を主導した。また、教育現場のデジタル化を進めるべく、その一環として全土で100万台超のノートPCを導入した。しかし、大胆な改革の背後では、教員などが十分に対応できないケースが相次ぎ、教育現場は混乱した。具体的には、インターネット接続や電力供給が不安定であったため、僻地の学校では教員や生徒がノートPCを利用できないなど混乱が生じた。また、同国の教育現場では、長らく教育団体や宗教団体が影響力を行使し、汚職の温床にもなってきた。こうしたなか、「アウトサイダー」である同氏による強引な手法がこれらの団体との摩擦を生み、結果的にその後の告発、起訴につながったとの見方もある。
告発では、全土で100万台超調達されたノートPCを巡って、僻地に適さないとの調査結果もあった米グーグル社製の端末「クロームブック」導入により、国に総額2.3兆ルピア相当の損害を与えたとした。さらに、検察は、機種選定がグーグル社によるゴジェックの親会社(GoTo社)への出資を後押しする意図で行われたと主張し、ナディム氏がそうした意図を反映させるべく入札仕様書を作成したと指摘した。その一方、一連の裁判ではグーグル社は起訴されなかった。また、グーグル社は、GoTo社への投資はナディム氏の教育・文化・研究・技術相への就任前に実施されており、機種選定に当たって政府高官などへのいかなる利益の提供や、その提供を約束した事実はないと説明した。このため、検察の起訴内容は非効率性やリスクテイクを汚職と混同しているとの指摘のほか、政治的動機によるものとの見方が広がった。
しかし、前述したように判決では、ナディム氏の職権濫用と国家損失をもたらした罪で有罪と認定した。そのうえで、機種選定がグーグル社によるGoTo社への追加投資を有利に進めるために行われたと認定した。一方で、ナディム氏による直接的な私的利益を得る目的については無罪とされた。にもかかわらず、同氏が一連の取引で得たと認定した8,000億ルピア以上の返金を命じ、従わなければ刑期を延長するという異例の判断も示された。
年明け以降の同国金融市場では、予測不可能な政策決定のほか、ガバナンスに対する懸念などを理由に、主要格付機関のうち2社(ムーディーズ社、フィッチ社)が相次いで格付け見通しを引き下げ、通貨ルピアや主要株価指数は急落した(図1)。さらに、指数算出会社のMSCI社も、株式市場の透明性に対する懸念を理由とする審査を延長しており、同国を新興国市場からフロンティア市場に格下げする可能性がある(注1)。現時点においてこの裁判の行方は不透明であるが、仮に指摘されているような政治的動機が影響しているのであれば、同国市場に対する信認が一段と低下する可能性がある。

注1 6月24日付レポート「MSCI、インドネシア株式市場の審査を再延長、格下げリスクは残る」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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