インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

MSCI、インドネシア株式市場の審査を再延長、格下げリスクは残る

~ルピア安対策と制度改革の両立など、成熟市場への道のりは険しい~

西濵 徹

要旨
  • インドネシア金融市場は、MSCIが株式市場の透明性や情報開示に懸念を示したことを受けて低迷している。当局は最低浮動株比率の引き上げなど市場改革を進めているものの、MSCIは6月22日、市場審査を11月まで再延長したうえで、改革が不十分な場合はフロンティア市場への格下げも検討すると表明した。格下げとなれば、指数連動型資金の流出を通じて株価の下押し圧力が強まる恐れがある。

  • 一方、ルピアは原油高や財政悪化懸念、中央銀行の独立性低下への警戒感を背景に対ドルで下落してきた。中銀は累計100bpの利上げやNDF取引規制強化などで通貨防衛を進めており、足元ではルピア安に一服感がみられる。しかし、こうした措置は市場の発展やMSCI審査に悪影響を及ぼす可能性があり、インドネシア市場が成熟市場へ移行するまでの道のりは依然として険しい。

目次

【MSCIが株式市場の審査を11月まで再延長】

このところのインドネシア金融市場は低迷している。主要株価指数(ジャカルタ総合指数)は、同国経済の堅調な成長を追い風に上昇し、年明け直後に最高値を付けたものの、その後は一転して大幅に調整している(図1)。きっかけは、指数算出会社のMSCIが1月末に同国株式市場の情報開示に懸念を表明したことにある。

図表
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具体的には、世界株指数などへの同国株の新規採用を停止し、投資可能株式数の上限も据え置いたうえで、5月までに透明性向上への取り組みが進まなければ、同国株の比率引き下げやフロンティア市場への格下げを示唆した。さらに、直後に指数算出会社のFTSEラッセルも、定例で実施予定であった同国株指数の見直し延期を発表した。

その後、当局は最低浮動株比率の大幅引き上げなど、海外投資家の懸念解消に向けた対策を矢継ぎ早に打ち出しており、市場改革を加速させる姿勢をみせた。このため、MSCIは5月に当局の改革姿勢に一定の評価を示したものの、審査を6月まで延長する考えを明らかにした。ただし、6社を「MSCIインドネシア指数」から除外し、このうち1社を「MSCIインドネシア小型株指数」に移管することを明らかにした。加えて、13社をMSCIインドネシア小型株指数から除外することをあわせて発表した。これにより、計17社が同社算出指数から除外された。これらの企業には、特定株主への所有集中という共通した特徴がみられる。

MSCIは22日、同国株に対する審査を11月まで再延長することを明らかにした。見直し時点までに当局の改革に十分な進展が見られない場合、格下げに関する協議など様々な選択肢を検討するとした。価格形成を歪める協調的な取引の兆候や、英語による詳細な市場情報の提供が不十分であることを指摘するなど、取り組むべき課題が依然多いことを示している。なお、当局がこれまでに発表した一連の改革を評価する一方、市場全体に一貫した持続的な取り組みが必要であると指摘しており、事実上の「条件付き据え置き」に近いと考えられる。仮にフロンティア市場への格下げが実施されれば、パッシブ投資家を中心とする資金流出が加速し、結果的に相場のさらなる下押し圧力となることが懸念される。したがって、当面は神経質な値動きが続く可能性が高い。

【ルピア安の動きに一服感も課題は極めて多い】

一方、通貨ルピアも調整の動きを強めており、今月初めには対ドルで最安値を更新した(図2)。中東情勢の緊迫化を受けた原油高が同国経済に悪影響を与える懸念がルピア安に拍車をかけた。同国の原油備蓄能力は25日分にとどまり、国家による備蓄ではなく、国営石油公社(プルタミナ)による運用在庫に過ぎないといった構造的な脆弱性を抱える。政府は補助金によりガソリンなど燃料価格の上昇を抑えているが、その背後で財政状況は急速に悪化している。今年度予算の想定原油価格は1バレル=70ドルであり、足元では米国とイランによる停戦合意を受けて原油高に一服感が出ているものの、依然この水準を上回る推移が続いている。金融市場では、プラボウォ政権の拡張的な財政運営を警戒してルピア安圧力が強まってきたものの、中東情勢の緊迫化以降はそうした動きに拍車が掛かる格好となった。

図表
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ここ数年は中銀の独立性に対する懸念が高まる動きもみられる。1月には、中銀副総裁に、プラボウォ大統領の甥であるトマス・ジワンドノ元財務副大臣が就任し、金融政策への政府、与党グリンドラ党の関与が強まるとの見方が広がった。議会は6月に金融システムの監督・規制を規定する金融部門発展強化法(P2SK法)の改正案を可決している。今回の法改正では、中銀が担う使命に「経済成長と雇用創出の支援」が加えられるとともに、議会が独立した金融規制当局(金融サービス庁(OJK))や中銀に対し、拘束力のある勧告を行うことが可能となっている。そのうえ、中銀の理事会メンバーを解任するための新たな仕組みも盛り込まれており、中銀への政治介入がこれまで以上に容易になるとの懸念が高まった。

ルピア安に歯止めがかからない事態を受けて、中銀は5月の定例会合でサプライズの大幅利上げに動くとともに、今月は緊急利上げに加え、定例会合でも追加利上げを決定するなど、1ヵ月ほどの間に累計100bpも利上げを実施している(注1)。そのうえ、ルピア安阻止に向けた取り組み強化の一環として、NDF(ノン・デリバラブル・フォワード)取引に対して厳しい監視と取引上限の設定を行うなど、事実上の資本取引規制を強化している。これを受けて、調整局面が続いたルピア相場は一時的に持ち直す動きをみせている。しかし、こうした措置は中長期的な市場の成長を阻害するとともに、MSCIによる審査に少なからず悪影響を与える可能性がある。したがって、インドネシア市場が本当の意味で成熟市場に発展していく道のりは、決して平坦ではない。

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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