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米・イラン戦闘終結の市場への影響

~60日の交渉をイスラエルがどう判断するかが今後の焦点~

嶌峰 義清

要旨
  • 米国とイランは戦闘終結に向けた覚書に署名した。これにより両国の戦闘は一旦終結し、ホルムズ海峡の封鎖も解除された。

  • ただし、合意点について米国とイランの主張には隔たりがある。今後60日間の交渉期間が設けられ、詳細を詰めることになるが、イランの核開発や中長距離攻撃能力、周辺勢力への支援などについてイスラエルが満足できない内容となれば、事態は再び混沌に陥るリスクがある。

  • 停戦、特にホルムズ海峡の開放による経済効果に対する期待から、市場もこれを強く好感した反応をみせている。しかし、今後の両国の交渉、これを受けたイスラエルの行動に対する不安は残る。市場が中東の不安を払拭するには、もう少し時間がかかる。

1. 米・イラン戦闘終結の覚書で合意

米国とイランは、戦闘終結に向けた「14項目の覚書」について、14日にオンライン署名した。これにより、ホルムズ海峡の開放や米国の封鎖解除、60日間の停戦が決定した。公式な調印式は、仲介国となったパキスタンなどが見守る中、19日にスイスで行われると報道されている。

報道されている14項目は以下の通りとなる。

① レバノン戦線等を含む全ての戦線における戦闘の即時停止

② ホルムズ海峡の即時解放と安全確保

③ イラン主要港に対する海上封鎖の即時解除

④ 民間商船・タンカーの自由航行および安全保証の再確立

⑤ 60日間の「交渉期間(ステイタス・クオ)」の設定と敵対行為の相互凍結

⑥ イランによる「核兵器を製造・保有しない」ことの再確認

⑦ 期間中のウラン濃縮活動の現状維持(これ以上の高濃縮化の凍結)

⑧ 最終合意(本契約)に向けた包括的制裁解除のタイムライン策定への合意

⑨ 海外で凍結されているイラン資産(約60億〜250億ドル)の段階的解除プロセスの開始

⑩ イランの戦後復興・経済開発のための国際的な資金プログラム(上限3,000億ドル規模)の枠組み構築

⑪ 今後の本交渉の議題を「核・制裁解除・経済支援」の3分野に限定すること(ミサイル等は除外)

⑫ 中立国(スイス・ジュネーブ)における公式調印式(6月19日)の開催

⑬ 停戦および合意事項の履行を監視する「合同監視委員会(仲介国を交えた枠組み)」の設置

⑭ 万が一、どちらか一方が違反した場合に合意を破棄できる「スナップバック(即時無効化)」条項の規定

2. 今後の焦点と争点

今回の合意は米国、イランに加えて、仲介国であるパキスタンが揃って認めたもので、これにより正式な停戦状態に入ることになる。もっとも、米国とイラン双方の発表内容(解釈)には食い違いも見られる。

まず、米国が最も重視しているイランの核開発について、トランプ米大統領は「イランが核兵器を保有しないという条項が含まれている」とし、かねてから主張しているようにイランの核開発の断念、濃縮ウランの引き渡しを視野に入れたものであるとしている。一方、イラン側は現状維持(濃縮ウランのイラン国内での希釈))を主張しているとされている。

イラン資産の凍結解除のタイミングについては、米国が「イランの行動を見ながら段階的に解除」としているのに対し、イランは「覚書署名後直ちに全面的に解除」と主張している。

また、ホルムズ海峡の航行については、米国が「全ての船舶への完全な自由航行」を主張しているのに対し、イラン側は通行料を取らないとしつつも「ホルムズ海峡の管理について、対岸のオマーンと共同計画を策定し近く発表する」と主張しており、海峡の管理・臨検権などをイランが保持したいとの思惑をみせている。

さらに、特にイスラエルが重視している、イランの弾道ミサイルの破壊と、地域武装勢力への支援撲滅については、米国が「レバノンを含む全戦線での永久的な戦闘終結」にイランが同意したとしているが、イランは「弾道ミサイル開発や、レバノンのヘズボラ等への支援問題は、今後の本交渉の議題から完全に、かつ永久に除外されている」と主張している。

こうした食い違いは、覚書署名後行われる「60日間の交渉」が難航することを示唆している。もともと米国とイスラエルによるイランへの空爆は、イランの核開発(恒久的)阻止と、イランの中長距離攻撃能力の排除、ヒズボラなどイスラエルと強く敵対する勢力への支援排除、が主目的であったと考えられる。トランプ米大統領は、こうした目的を短期間のうちに完遂できると踏んでイスラエルの攻撃に加担したと考えられるが、実際には長期化し、ホルムズ海峡の封鎖による資源価格の高騰と、米国を含む世界的な物価高に繋がったことを受けて、早期の幕引きを図ろうとしていた。最終的には、15日に行われるG7直前に、(世界中に迷惑をかけている)ホルムズ海峡の封鎖解除になんとかこぎ着けたというところだろう。

もう一つの戦争当事国であるイスラエルから見れば、今回の覚書は“ゼロ回答”に等しく、今後60日間の交渉が最も重要なはずだ。米国とイランが合意に近づくタイミングで、イスラエルがレバノンへの空爆を実施して合意から遠ざけてきたことを繰り返してきたことを勘案すれば(14日にも空爆を行い、トランプ米大統領から非常に強い抗議を受けた)、イスラエルへの脅威を排除できない形で終結することは受け入れられないだろう。

したがって、今後60日間の交渉においては、イスラエルがトランプ大統領の期待を無視して、単独で強硬姿勢(軍事攻撃)を取る可能性は十分にある。

3. 市場の反応と今後の展開

15日の日本市場では、株価が急上昇している。前週末の米国市場から、今回の合意への期待の高まりが原油安と株高の流れを強めていたが、覚書締結の報道で更に強まった格好だ。特に、ホルムズ海峡の封鎖解除は、原油価格の下落要因となるばかりでなく、原油や石油化学製品の供給不安が後退することにも繋がる。これにより生産活動への悪影響が小さくなれば、(半導体関連株以外の)株価回復に繋がる。

イランによる周辺国の石油関連施設への攻撃により、湾岸諸国の石油関連施設の稼働率が回復するには時間を要すると考えられるものの、原油価格がイラン空爆開始前の水準に落ち着くのであれば、インフレ加速懸念もある程度後退する。これは、過度な金融引き締めリスクがなくなるという点で、やはり株価の押し上げ要因となる。無論、債券安(金利上昇)の流れも食い止める。

中東情勢の悪化が米ドルを押し上げてきたことを勘案すれば、今後はその巻き戻しの動きが出てこよう。ドル円相場で言えば、円高ドル安要因となる。ただし、円安要因には日本の政策金利の低さや財政懸念も内包されていると考えられるため、大きな流れの変化に繋がるかどうかは不透明だ。市場で警戒されている円買い介入の有無やその効果にも影響を受けよう。

こうした流れが定着するかどうかは、今後60日間の交渉次第だ。さらに絞れば「イスラエルがどう動くか」によって変わってくる。交渉において米国が(イスラエルにとって実効性のない)安直な妥結に至るとのリスクが高いとイスラエル政府が判断すれば、米国に頼らない大規模な武力行使に打って出るリスクは否定できない。戦闘継続能力がどこまであるかという問題はあるが、そのような事態に陥れば、イランはこれを「米国の責任」として交渉を打ち切り、再びホルムズ海峡の封鎖に打って出る可能性もある。この場合、状況としては覚書締結前の状態に戻るばかりでなく、米国とイスラエルの関係悪化という、より不透明な要素が世界情勢に加わることになる。

したがって、当面のマーケットの反応は大きく、ポジティブなものではあるが、今年や来年に向けての景気や企業業績を見据えた流れとなるのではなく、あくまでも一時的な反応にとどまるだろう。事態の終結には、まだ不安要素は多いと言わざるを得ない。

以 上

嶌峰 義清


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

嶌峰 義清

しまみね よしきよ

経済調査部 シニア・フェロー
担当: 経済・金融市場全般、地政学

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